日本地震学会2022年度秋季大会

講演情報

C会場

一般セッション » S19. 地震一般・その他

[S19] PM-3

2022年10月24日(月) 17:15 〜 18:00 C会場 (8階(820研修室))

座長:小野寺 圭祐(東京大学地震研究所)

17:30 〜 17:45

[S19-02] 日本周辺の台風により励起されたprimary microseismsの震源推定

*河上 洋輝1、須田 直樹1 (1. 広島大学)

地震計に記録されるバックグラウンドノイズのうち、およそ0.05-0.1Hzの周波数帯の振動はprimary microseismsと呼ばれ、沿岸域における海洋波と海底地形のカップリングにより発生すると考えられている。特に台風が接近した際には、強力な大気エネルギーにより海洋波が励起され、その結果primary microseismsが強く励起されることが知られている。台風が接近した際のprimary microseismsの震源を推定した研究はこれまでにも行われているが、日本へ接近した台風によって励起されたprimary microseismsの震源を系統的に調べた研究は報告されていない。本研究では、2011年から2020年の10年間に発生した台風について、励起されたprimary microseismsの震源推定を行った。

地震波のデータにはF-netの広帯域地震計記録を使用した。観測点ごとに1時間平均のパワースペクトルを作成し、primary microseismsのピークが明瞭な観測点を選択して解析に使用した。台風のデータは気象庁で公開されている「過去の台風情報」を参照した。2011年から2020年の10年間で日本列島に接近した最大風速33 m/s以上の強い台風15個を対象とし、台風が接近した期間の記録を解析した。1時間間隔で台風の位置を特定するため、大気圧データとして京都大学のMSM再解析数値予報データを使用した。また、海洋波のデータはNOAAのWAVEWATCH Ⅲの解析データを用いた。

本研究では、南シナ海を通過した台風で励起された脈動の震源分布を推定したPark & Hong (2020)と同様にRayleigh波を利用して震源推定を行った。この方法では、Rayleigh波の変位波形の水平成分が上下動成分に対して位相がπ/2シフトしている性質を利用している。ある方位に回転させた水平成分と、位相をπ/2シフトさせた上下動成分との相互相関係数が最も大きいとき、その方位に震源があると考えることができる。本研究では、北緯10度~60度、 東経100度~160度の範囲において0.5度間隔で仮想的な震源を地表に設定し、各仮想震源に対して相互相関係数の観測点平均を計算することでprimary microseismsの震源を推定した。

その結果、南西諸島周辺と関東地方沿岸がprimary microseismsの励起源として代表的な場所であることが分かった。通常、primary microseismsは沿岸域における海洋波と海底地形のカップリングにより発生するため、台風の移動に伴いprimary microseismsの震源も移動すると考えられる。しかし、南西諸島周辺と関東地方沿岸においては台風の通過後も励起源となっていることが複数の台風において観測された。この結果は、南西諸島周辺と関東地方沿岸が日本列島の中でも特にprimary microseismsの励起に適した地域であることを示している。

震源の停滞の原因を考察するために、南西諸島周辺と関東地方沿岸における震源の停滞と有義波高の時間変化を比較した。その結果、震源の停滞と有義波高の上昇には時間的な相関があることが分かった。南西諸島周辺と関東地方沿岸の海底地形は比較的浅く複雑な地形であることから、周囲よりも相対的に強くprimary microseismsを励起したと考えられる。また、ジャックナイフ法を用いて震源推定結果の誤差についても議論を行った。