17:45 〜 18:00
[S19-03] NASA土星衛星タイタン探査ミッションDragonflyの紹介 〜氷衛星における地震観測の実現に向けて〜
1. 概要
DragonflyはNASAのニューフロンティア計画の一つとして2019年に採択された土星衛星タイタン探査ミッションである. 過去40年にわたる惑星探査(Voyager, Cassini-Huygens)および地上観測により, タイタンでは, 液体が表面に安定的に存在し, 大気は生命前駆物質の生成に必要な窒素やメタンなどで構成されていることが確認されている[1]. こうした環境は, 原始地球大気に似通っており, タイタンを探査することで「地球でどのように生命が誕生したのか?」「地球以外の天体に生命は存在する(した)のか?」といった疑問への解答の手がかりを得ることができる[2][3][4]. Dragonflyは2027年に打ち上げ, 2034年頃にタイタンに到着し, そこから約3年間の科学観測を行うといった約10年にわたる大規模な計画である[5]. この計画の特徴として, 大型のドローンを用いた離着陸可能な探査が挙げられる(図1). Dragonflyは, その名の通りトンボのように, タイタン上を転々としながら, 各地点で化学分析・気象観測および地球物理観測を実施することで, 生命前駆物質の有無, あるとすればその存在量, またそれらの物質の生成に至らしめた環境を明らかにすることを目的としている. 上記の観測項目のうち, 我々は地球物理観測の中の地震観測を担当する.
2. タイタン地震計: DraGMet SEIS
我々のチームでは, 長年JAXA宇宙科学研究所にて開発が進められてきた惑星探査用地震計をDragonflyに提供ならびに氷天体初の地震観測の実現を目指し, 観測機器の開発・性能評価・科学的検討を進めている. 現在は, 2027年の打ち上げに向け, Engineering Model (宇宙機搭載用の前段階)の製作に取り組んでいる. 搭載予定の地震計パッケージDraGMet SEIS (Dragonfly Geophysical and Meteorological Package: Seismometer)は, 地震計・プリアンプ・風除けカバーからなり, 1.5気圧・マイナス180度という過酷な環境において, 3×10-9 m/s@0.1-10Hz程度の振動まで測定することを目指している. タイタンにおける地震観測は, 自然地震と人工地震の両方を想定しており, これらの観測を通じてタイタンの地震活動度と地下構造の把握を主目的としている. 自然地震については, 未だ不確定な部分も多く検討の余地があるが, 地球・月・火星での地震観測経験から「土星 - タイタン間の潮汐作用による断層活動」「氷地殻テクトニクス」「地溝からの間欠泉現象」「氷火山の噴火・溶岩流の噴出」「小天体衝突」「内部海の対流」「固気カップリング」などに起因する地震が考えられている[6]. 人工地震については, サンプル採集掘削用ドリルの稼働に伴う振動を利用し, 表層付近の構造を精密に測定することを検討している.
3. 日本の地震学コミュニティの参画誘致
Dragonflyは, 氷天体での初の離着陸探査であり, 宇宙における生命の存在可能性を調査するといった科学的にも大きな意義を持つ. しかし, 土星衛星ということもあり, 打ち上げから観測終了まで10年ほどの時間を要するため, 場合によっては運用中にメンバーがリタイアするケースも考えられる. こうした長期間に渡る計画では世代間での探査の引き継ぎが必須となるが, 国内における惑星地震学コミュニティは未だ数名程度の規模であるのが現状である. 世界的にはNASAの火星地震探査計画InSightが成功を収めたことで, 地球の地震学者の惑星地震学コミュニティへの参加が進みつつあり, 将来の惑星探査においても地震学者の積極的な参加が期待されている.
本発表は, 日本の地震学コミュニティの惑星地震探査への参画誘致を目的に, 我々の日々の活動と共に, 惑星地震学の魅力, 地球惑星科学における重要性について紹介する.
参考文献 [1] Nimmo and Pappalardo (2016), JGRE, 121,1378. [2] Chyba and Hand (2005), ARA&A, 43, 31. [3] Lazcano and Hand (2012), Nature, 488, 160. [4] Mckay (2016), Life, 6, 8. [5] Barnes et al. (2021), PSJ, 2, 130. [6] Vance et al. (2018), JGR Planet, 123, 180 – 205.
DragonflyはNASAのニューフロンティア計画の一つとして2019年に採択された土星衛星タイタン探査ミッションである. 過去40年にわたる惑星探査(Voyager, Cassini-Huygens)および地上観測により, タイタンでは, 液体が表面に安定的に存在し, 大気は生命前駆物質の生成に必要な窒素やメタンなどで構成されていることが確認されている[1]. こうした環境は, 原始地球大気に似通っており, タイタンを探査することで「地球でどのように生命が誕生したのか?」「地球以外の天体に生命は存在する(した)のか?」といった疑問への解答の手がかりを得ることができる[2][3][4]. Dragonflyは2027年に打ち上げ, 2034年頃にタイタンに到着し, そこから約3年間の科学観測を行うといった約10年にわたる大規模な計画である[5]. この計画の特徴として, 大型のドローンを用いた離着陸可能な探査が挙げられる(図1). Dragonflyは, その名の通りトンボのように, タイタン上を転々としながら, 各地点で化学分析・気象観測および地球物理観測を実施することで, 生命前駆物質の有無, あるとすればその存在量, またそれらの物質の生成に至らしめた環境を明らかにすることを目的としている. 上記の観測項目のうち, 我々は地球物理観測の中の地震観測を担当する.
2. タイタン地震計: DraGMet SEIS
我々のチームでは, 長年JAXA宇宙科学研究所にて開発が進められてきた惑星探査用地震計をDragonflyに提供ならびに氷天体初の地震観測の実現を目指し, 観測機器の開発・性能評価・科学的検討を進めている. 現在は, 2027年の打ち上げに向け, Engineering Model (宇宙機搭載用の前段階)の製作に取り組んでいる. 搭載予定の地震計パッケージDraGMet SEIS (Dragonfly Geophysical and Meteorological Package: Seismometer)は, 地震計・プリアンプ・風除けカバーからなり, 1.5気圧・マイナス180度という過酷な環境において, 3×10-9 m/s@0.1-10Hz程度の振動まで測定することを目指している. タイタンにおける地震観測は, 自然地震と人工地震の両方を想定しており, これらの観測を通じてタイタンの地震活動度と地下構造の把握を主目的としている. 自然地震については, 未だ不確定な部分も多く検討の余地があるが, 地球・月・火星での地震観測経験から「土星 - タイタン間の潮汐作用による断層活動」「氷地殻テクトニクス」「地溝からの間欠泉現象」「氷火山の噴火・溶岩流の噴出」「小天体衝突」「内部海の対流」「固気カップリング」などに起因する地震が考えられている[6]. 人工地震については, サンプル採集掘削用ドリルの稼働に伴う振動を利用し, 表層付近の構造を精密に測定することを検討している.
3. 日本の地震学コミュニティの参画誘致
Dragonflyは, 氷天体での初の離着陸探査であり, 宇宙における生命の存在可能性を調査するといった科学的にも大きな意義を持つ. しかし, 土星衛星ということもあり, 打ち上げから観測終了まで10年ほどの時間を要するため, 場合によっては運用中にメンバーがリタイアするケースも考えられる. こうした長期間に渡る計画では世代間での探査の引き継ぎが必須となるが, 国内における惑星地震学コミュニティは未だ数名程度の規模であるのが現状である. 世界的にはNASAの火星地震探査計画InSightが成功を収めたことで, 地球の地震学者の惑星地震学コミュニティへの参加が進みつつあり, 将来の惑星探査においても地震学者の積極的な参加が期待されている.
本発表は, 日本の地震学コミュニティの惑星地震探査への参画誘致を目的に, 我々の日々の活動と共に, 惑星地震学の魅力, 地球惑星科学における重要性について紹介する.
参考文献 [1] Nimmo and Pappalardo (2016), JGRE, 121,1378. [2] Chyba and Hand (2005), ARA&A, 43, 31. [3] Lazcano and Hand (2012), Nature, 488, 160. [4] Mckay (2016), Life, 6, 8. [5] Barnes et al. (2021), PSJ, 2, 130. [6] Vance et al. (2018), JGR Planet, 123, 180 – 205.