14:00 〜 17:30
[S19P-03] S-netデータを用いた福島県沖の震源決定への観測点補正値の影響
1.はじめに
これまでの研究で2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震が起こる前後で、東北地方太平洋側の地震活動度が変化したことが明らかになっており[Toda et al., 2011 ]、それは地下内部の応力変化を反映していると考えられている[Hasegawa et al., 2012]。本研究の対象地域である福島県沖では、周辺の宮城県沖や茨城県沖に比べ多くの地震が発生しているほか、プレート境界付近のみならず陸側プレート内部や海洋プレート内部でも地震が起こっているため,この地域での地震発生の理解には、正しい震源位置の情報が特に重要となる。 日本海構沿いに設置された海底地震観測網S-netによるデータは、このような正確な震源決定に貢献すると期待される。ただし、その場合にも、震源決定に用いるS-net観測点や地震波速度構造や、観測点近傍の堆積層の影響など考慮すべき事項が存在する。 本研究では、上記のような条件を変更したとき、決定される震源がどのように変化するかを調べ、陸域のみの観測点を用いて気象庁が決定した震源と今回のS-net観測点データで求められた震源にどのような違いがあるのかを明らかにする。特に観測点近傍の堆積層補正について実データから求められた値[西澤ほか, 2022]を適用し、その影響を調べた。
2.データ・手法 2018年1月1日から2019年8月31日までに福島県沖で発生した沈み込むプレート境界およびその内部の地震のうち、431個のM3.0以上の地震を研究対象とした。まず、福島県沖のS-net観測点26点で得られたそれらの地震波形からP波とS波初動を読み取り,震源を求めた。震源決定には、気象庁が海域観測点データを用いて震源決定を行う際に使用される速度構造を深さ方向に1次元化し使用した。1で述べた条件を変更した場合の震源位置の変化を調べるため、震源決定に使用するS-net観測点を、震源から100 kmの範囲内にある観測点のみに絞って計算することも行った。また、観測点近傍に存在する未固結堆積層が震源決定に及ぼす影響について調べるために、マルチチャネル反射法地震探査(MCS)で得られたS-net観測点下における走時データ(西澤ほか, 2022)を使用した。ここでは、堆積層の存在を考慮せずに震源を求めた場合の走時と、MCSで得られた堆積層内の走時を使って、堆積層に対する走時の遅れの補正値を求め、それを観測点補正値に加えて堆積層を考慮した場合の震源決定を行った。
3.結果 S-netの初動データを使い,堆積層による遅れを考慮して求めた震央分布を図1に,同図の長方形の領域内で発生した地震について堆積層の影響を考慮した場合としなかった場合に求められた震源を鉛直断面(X-X‘)に投影したものを図2に示す。ここで図2の断面の黒実線はIwasaki (2015)によって推定されたプレート上面の位置である。 図2からわかる通り、堆積層を考慮した場合の方が堆積層を考慮しなかった場合よりもほとんどの震源が数km~20 kmほど浅い深さに決定された。特に沖合側(X’側)の震源の変化量は5 km以内のものも多く比較的小さいが、陸側(X側)の方になるにつれて、震源の変化量は徐々に大きくなっていき、おおよそ10 kmほどの変化量が多く占めるようになる。
4.考察 堆積層を考慮して求めた震源は速度の遅い層がある分、震源と観測点の距離が縮まるように、堆積層を考慮しないで決めた震源より浅く観測点よりの位置に変化した。特に本研究で震源決定に用いた観測点がS-net観測点のみであったため、陸側(X側)の震源は震源決定に使用する観測点が海溝側に偏っており、堆積層を考慮した場合の側方への変化が観測点のある海溝側になったと考えられる。今後は震源決定に使用する観測点の選定および3次元速度構造を用いた検討を行い、より正確な震源決定について考察する。
これまでの研究で2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震が起こる前後で、東北地方太平洋側の地震活動度が変化したことが明らかになっており[Toda et al., 2011 ]、それは地下内部の応力変化を反映していると考えられている[Hasegawa et al., 2012]。本研究の対象地域である福島県沖では、周辺の宮城県沖や茨城県沖に比べ多くの地震が発生しているほか、プレート境界付近のみならず陸側プレート内部や海洋プレート内部でも地震が起こっているため,この地域での地震発生の理解には、正しい震源位置の情報が特に重要となる。 日本海構沿いに設置された海底地震観測網S-netによるデータは、このような正確な震源決定に貢献すると期待される。ただし、その場合にも、震源決定に用いるS-net観測点や地震波速度構造や、観測点近傍の堆積層の影響など考慮すべき事項が存在する。 本研究では、上記のような条件を変更したとき、決定される震源がどのように変化するかを調べ、陸域のみの観測点を用いて気象庁が決定した震源と今回のS-net観測点データで求められた震源にどのような違いがあるのかを明らかにする。特に観測点近傍の堆積層補正について実データから求められた値[西澤ほか, 2022]を適用し、その影響を調べた。
2.データ・手法 2018年1月1日から2019年8月31日までに福島県沖で発生した沈み込むプレート境界およびその内部の地震のうち、431個のM3.0以上の地震を研究対象とした。まず、福島県沖のS-net観測点26点で得られたそれらの地震波形からP波とS波初動を読み取り,震源を求めた。震源決定には、気象庁が海域観測点データを用いて震源決定を行う際に使用される速度構造を深さ方向に1次元化し使用した。1で述べた条件を変更した場合の震源位置の変化を調べるため、震源決定に使用するS-net観測点を、震源から100 kmの範囲内にある観測点のみに絞って計算することも行った。また、観測点近傍に存在する未固結堆積層が震源決定に及ぼす影響について調べるために、マルチチャネル反射法地震探査(MCS)で得られたS-net観測点下における走時データ(西澤ほか, 2022)を使用した。ここでは、堆積層の存在を考慮せずに震源を求めた場合の走時と、MCSで得られた堆積層内の走時を使って、堆積層に対する走時の遅れの補正値を求め、それを観測点補正値に加えて堆積層を考慮した場合の震源決定を行った。
3.結果 S-netの初動データを使い,堆積層による遅れを考慮して求めた震央分布を図1に,同図の長方形の領域内で発生した地震について堆積層の影響を考慮した場合としなかった場合に求められた震源を鉛直断面(X-X‘)に投影したものを図2に示す。ここで図2の断面の黒実線はIwasaki (2015)によって推定されたプレート上面の位置である。 図2からわかる通り、堆積層を考慮した場合の方が堆積層を考慮しなかった場合よりもほとんどの震源が数km~20 kmほど浅い深さに決定された。特に沖合側(X’側)の震源の変化量は5 km以内のものも多く比較的小さいが、陸側(X側)の方になるにつれて、震源の変化量は徐々に大きくなっていき、おおよそ10 kmほどの変化量が多く占めるようになる。
4.考察 堆積層を考慮して求めた震源は速度の遅い層がある分、震源と観測点の距離が縮まるように、堆積層を考慮しないで決めた震源より浅く観測点よりの位置に変化した。特に本研究で震源決定に用いた観測点がS-net観測点のみであったため、陸側(X側)の震源は震源決定に使用する観測点が海溝側に偏っており、堆積層を考慮した場合の側方への変化が観測点のある海溝側になったと考えられる。今後は震源決定に使用する観測点の選定および3次元速度構造を用いた検討を行い、より正確な震源決定について考察する。