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[S20-01] [招待講演]強震動予測方法の開発と展開
強震動の予測は、大地震時の災害を軽減するために必要不可欠な研究であり、日本の地震学にとっても最重要課題の1つとして長い歴史をもっている。強震動の計器観測は、日本では1950年代に工学の研究者によるSMAC-A型強震計 (高橋, 1953) の開発に始まり、観測記録の統計的な解析により経験的手法で強震動予測式 (例えば、金井, 1967)が構築され、構造物の耐震性向上に役立てられてきた。 一方、地震学的には強震動研究は「地震とは何か」の研究と結び付けて発展してきた。「地震は断層運動である」という考えは、1891年の濃尾地震以来、地質学者によるフィールド研究で提唱されたが、地震波観測と矛盾があるとして、日米の研究者間で大論争となっていた。断層現象と地震波生成の観測事実が一致することが物理学の理論として確立したのはDe Hoopによる断層 (Dislocation)と地震波のための表現定理 (1958)で,日本でも同様の考えが丸山卓男(1963)により定式化された。断層運動が地震の原因であることが地震学や地質学で広く認められるようになるのに70年の年月を要したことになる(三雲, 1992). 大地震の強震動を断層運動に結びつける定量的評価の研究は1960年代の後半から1970年代にかけてAki、Brune、Kanamoriをはじめとする多くの地震学者によりなされ、運動学的モデルによる地震動のシミュレーションによる断層パラメーターの評価や観測記録の統計的な解析による地震動のスケーリング則の構築などの重要な成果が得られた (例えば、Aki, 1967; Brune, 1970; Kanamori and Anderson, 1975。しかしながら、断層や強震動に関して、地質学者によるフィールド研究、工学者による経験的研究、地震学者による物理学的研究は独立になされ、それらの分野横断的研究は殆どなされなかった。例えば、地震学では、数秒から数十秒の長周期地震動を対象とした地震動研究が行われたが、木造家屋や中低層のコンクリートや鉄骨のビルディングなどの建築構造物や橋梁、トンネル、土構造物などの土木構造物の耐震に重要な数秒から数分の1秒の短周期地震動に研究は殆ど行われてこなかった。その理由は、このような短周期地震動のデータは定量的な解析が可能な形で観測がなされてなかったこと、にある。 強震動研究が飛躍的に前進したのは、1978年にUNESCOと国際地震工学会により強震動観測に関する国際的なワークショップが開かれ、地震災害軽減のために高密度強震動観測網の必要性が提言され、観測網が国際的に整備されてきたことにある (Iwan, 1978)。米国では1980年代からUSGSが中心となって活断層の集中するカリフォルニアを中心に高密度強震観測網が構築され、日本ではやや遅れて1995年の阪神淡路大震災を受けて強震動観測網が全国に配置され、つづいて台湾、中国、イタリアなどの地震国で強震動観測網が作られた。 2000年代になると、高密度強震観測網の整備により、日本国内でも大地震の震源近傍で強震動記録が得られるようになり、地震時の断層運動のすべり分布の詳細が強震動記録を用いた逆問題の解析結果として次第に明らかになってきた。 これらの断層運動の研究成果に基づいて、内陸地殻内地震の断層すべり分布の特性化の考えがまとめられた (Somerville et al., 1999; 入倉・三宅, 2001; Irikura and Miyake, 2011)。強震動記録を用いたインバージョンによるすべり分布から、一定の規範を設定して断層震源の総面積、アスペリティ(強震動生成域)と背景領域の推定を行い、①断層面積と地震モーメントの関係、および ②アスペリティ面積と地震モーメントの関係、という2つの重要なスケーリング則が明らかにされた。これらの2つの断層震源パラメータに関するスケーリング則に基づいて、1995年兵庫県南部地震など最近の内陸地殻内地震の断層震源のモデルの構築および強震動評価がなされ、シミュレーションと観測記録の比較により、モデル化の有効性が検証された (例えば, Kamae and Irikura, 1998; Miyakoshi et al., 2000; Miyake et al., 2003)。 我々は、上記の断層震源のスケーリング則や強震動評価手法に加えて、活断層に関する地質学的フィールド研究や工学的な強震動データ解析・処理の技術と結び付けて、大地震時の強震動予測手法(強震動予測レシピ)の開発を行ってきた (図1参照)。この「レシピ」は同一の情報が得られれば誰がやっても同じ答えが得られる強震動予測の標準的な方法論を目指している。現状ではいまだ開発途上であり、地震関連データの蓄積と動力学的断層破壊過程に関する理論および実験的研究の発展により、修正を加え、改訂されていくことを前提としている。今後、地形・地質学、地震学・地震工学、情報科学など分野横断的な視点で研究を発展させていくことが必要と考える。 謝辞:私の日本地震学会賞の受賞は、日本における強震動観測網の構築、強震動データの収集、強震動生成の理論および解析、強震動による災害の軽減などの研究の発展に係ってこられた方々のご協力とご支援によるものです。受賞対象となった本研究は、私が京都大学防災研究所在籍中に、私の研究室の卒業生を含めた多くの共同研究者の協力により行ったものであり、本研究に係った関係者の皆様に心より御礼申し上げます。