11:15 〜 11:30
[S21-06] 1次元畳み込みニューラルネットワークによる速度応答スペクトル予測
1.はじめに
大地震が生じた際に長周期地震動の早期予測を行うことは、高層ビルが密集する大都市圏の防災において重要な役割を持つ。2004年新潟県中越地震では関東平野において周期数秒の長周期地震動が強く生成し、都心の超高層ビルのエレベーターケーブルが一部損傷するなど被害が生じた。
機械学習は画像認識や自然言語処理の分野で広く活用されており、近年、地震学の分野でも機械学習の活用が進み、地震波形データからマグニチュード推定(Ristea et al., 2021)や広域の最大加速度(PGA)の予測(Jozinović et al., 2020;Kubo et al., 2020)などへの活用が進められている。本研究ではこれらの既往研究を発展させ、震源域近傍での強震観測データから遠地の平野の評価地点の速度応答スペクトルを予測する機械学習モデルを検討した。
2.データ・手法
本研究では、新潟県周辺地域で発生した地震を対象として、Hi-net高山観測点(TAYH:群馬県高山村)での速度波形データから、Hi-net富岡観測点(YFTH:横浜市金沢区)の速度応答スペクトルの予測を行った。2観測点間は約150 km離れており、長周期地震動を形成する表面波の到達には約55 秒の時間差がある。なお、事前調査によりYFTHとTAYHとの観測波形とのコヒーレンシーが高い(0.9)ことを確認し、TAYHを予測の入力データ地点として選定した。
学習データには、東経136.4度〜139.1度、北緯36.9〜38.7度の範囲で2004年4月〜2007年10月に発生したMw4.5以上の地震33個について、5分間のHi-net速度波形データを用いた。これらの震源およびMw分布を図1に示す。前処理として、Hi-net波形データには地震計特性補正フィルタ(Maeda et al., 2011)をかけて広帯域化し、0.05〜2 Hzのバンドパスフィルターをかけた後に20 Hzにリサンプリングした。また、予測地点における周期0.05〜100秒の範囲の速度応答スペクトル(減衰定数5%)を求め、入力波形データとペアとなる教師データセットを用意した。なお、入力波形データは最大速度(PGV)値で規格化を行った後に、log(PGV)を乗じて振幅の大小の情報を一部残した。また、速度応答スペクトル値も対数化し、振幅を1/10にすることで、予測データの値が0〜1の範囲に収まるようにした。
予測モデルは、先行研究のJozinović et al. (2020)によるCNNモデルの構成を参考にしてPythonのKerasライブラリを用いて作成した。本モデルでは1次元データ長6000ポイントの地震波形を3段の畳み込み層に入力し、畳み込み結果を平滑化したのち全結合層を通してデータ長200ポイントの速度応答スペクトルを出力する。活性化関数にはRelu関数を用い、最後の全結合層は学習の収束のために±1で頭打ちとなるtanh関数を用いた。損失関数は観測と予測応答スペクトルの二乗誤差を評価するものを用い、バッチサイズ32で70エポック数の学習を行い、損失率の収束を確認した。なお、ここでは1成分(EW成分)の予測を行うものとするが、平行して他成分の予測も同様に行うことができる。
3.結果
学習済みモデルを用いて、新潟県周辺で2011年以降に発生したMw4.5以上の11個の地震の予測性能を確認した。性能評価は、速度応答スペクトルの予測/観測比を周期1〜15秒の範囲で平均した値を用いて行った。図2(a)に、2011年3月12日に新潟/長野県境で発生した長野県北部地震(栄村地震)の予測結果(赤)と観測値(黒)を比較する。予測性能の評価値は0.96となり、速度応答スペクトルの良い予測が確認された。図2(b)に、予測を行った11個の地震の性能評価値の範囲の四分位数を、箱ひげ図を用いて示す。予測の四分位は0.6〜1.4の範囲に入っており、やや幅はあるものの実用上十分な予測精度を持つと言える。
次に、地震観測期間とともに学習データを増やすことで予測精度の変化を確認した。2004〜2007年の観測データを用いた学習済みモデルに対して、さらに2007〜2010年に発生した24個の地震を学習データに追加した。追加学習は、先の学習済みモデルに対して、新たな学習データで再学習する転移学習により行った。図2(b)右に転移学習モデルによる予測性能の評価値を示す。先の予測モデルによる結果と比較して、予測性能の四分位範囲が0.7〜1.2に狭まっており、転移学習による予測性能の向上が確認された。
4.まとめと今後の展望
本研究で作成した機械学習モデルにより、震源近傍の観測点での波形データから遠地の平野の長周期地震動の速度応答スペクトルの予測を行った。地震観測データの蓄積に伴い、日常的に転移学習を繰り返し進めることで、予測性能の向上が期待できる。一方で、本予測モデルでは2019年山形県沖地震(Mw6.8)など、予測性能評価値が低い(0.59)ケースも確認され、これは転移学習後(0.55)も大きく改善されなかった。これは、山形県付近の地震活動が低いことが原因と考えられる。転移学習においても学習データのMw分布の偏りに注意が必要であり、Mwの小さな学習データを増やしすぎるとかえって大地震の予測性能が低下する可能性がある。
大地震が生じた際に長周期地震動の早期予測を行うことは、高層ビルが密集する大都市圏の防災において重要な役割を持つ。2004年新潟県中越地震では関東平野において周期数秒の長周期地震動が強く生成し、都心の超高層ビルのエレベーターケーブルが一部損傷するなど被害が生じた。
機械学習は画像認識や自然言語処理の分野で広く活用されており、近年、地震学の分野でも機械学習の活用が進み、地震波形データからマグニチュード推定(Ristea et al., 2021)や広域の最大加速度(PGA)の予測(Jozinović et al., 2020;Kubo et al., 2020)などへの活用が進められている。本研究ではこれらの既往研究を発展させ、震源域近傍での強震観測データから遠地の平野の評価地点の速度応答スペクトルを予測する機械学習モデルを検討した。
2.データ・手法
本研究では、新潟県周辺地域で発生した地震を対象として、Hi-net高山観測点(TAYH:群馬県高山村)での速度波形データから、Hi-net富岡観測点(YFTH:横浜市金沢区)の速度応答スペクトルの予測を行った。2観測点間は約150 km離れており、長周期地震動を形成する表面波の到達には約55 秒の時間差がある。なお、事前調査によりYFTHとTAYHとの観測波形とのコヒーレンシーが高い(0.9)ことを確認し、TAYHを予測の入力データ地点として選定した。
学習データには、東経136.4度〜139.1度、北緯36.9〜38.7度の範囲で2004年4月〜2007年10月に発生したMw4.5以上の地震33個について、5分間のHi-net速度波形データを用いた。これらの震源およびMw分布を図1に示す。前処理として、Hi-net波形データには地震計特性補正フィルタ(Maeda et al., 2011)をかけて広帯域化し、0.05〜2 Hzのバンドパスフィルターをかけた後に20 Hzにリサンプリングした。また、予測地点における周期0.05〜100秒の範囲の速度応答スペクトル(減衰定数5%)を求め、入力波形データとペアとなる教師データセットを用意した。なお、入力波形データは最大速度(PGV)値で規格化を行った後に、log(PGV)を乗じて振幅の大小の情報を一部残した。また、速度応答スペクトル値も対数化し、振幅を1/10にすることで、予測データの値が0〜1の範囲に収まるようにした。
予測モデルは、先行研究のJozinović et al. (2020)によるCNNモデルの構成を参考にしてPythonのKerasライブラリを用いて作成した。本モデルでは1次元データ長6000ポイントの地震波形を3段の畳み込み層に入力し、畳み込み結果を平滑化したのち全結合層を通してデータ長200ポイントの速度応答スペクトルを出力する。活性化関数にはRelu関数を用い、最後の全結合層は学習の収束のために±1で頭打ちとなるtanh関数を用いた。損失関数は観測と予測応答スペクトルの二乗誤差を評価するものを用い、バッチサイズ32で70エポック数の学習を行い、損失率の収束を確認した。なお、ここでは1成分(EW成分)の予測を行うものとするが、平行して他成分の予測も同様に行うことができる。
3.結果
学習済みモデルを用いて、新潟県周辺で2011年以降に発生したMw4.5以上の11個の地震の予測性能を確認した。性能評価は、速度応答スペクトルの予測/観測比を周期1〜15秒の範囲で平均した値を用いて行った。図2(a)に、2011年3月12日に新潟/長野県境で発生した長野県北部地震(栄村地震)の予測結果(赤)と観測値(黒)を比較する。予測性能の評価値は0.96となり、速度応答スペクトルの良い予測が確認された。図2(b)に、予測を行った11個の地震の性能評価値の範囲の四分位数を、箱ひげ図を用いて示す。予測の四分位は0.6〜1.4の範囲に入っており、やや幅はあるものの実用上十分な予測精度を持つと言える。
次に、地震観測期間とともに学習データを増やすことで予測精度の変化を確認した。2004〜2007年の観測データを用いた学習済みモデルに対して、さらに2007〜2010年に発生した24個の地震を学習データに追加した。追加学習は、先の学習済みモデルに対して、新たな学習データで再学習する転移学習により行った。図2(b)右に転移学習モデルによる予測性能の評価値を示す。先の予測モデルによる結果と比較して、予測性能の四分位範囲が0.7〜1.2に狭まっており、転移学習による予測性能の向上が確認された。
4.まとめと今後の展望
本研究で作成した機械学習モデルにより、震源近傍の観測点での波形データから遠地の平野の長周期地震動の速度応答スペクトルの予測を行った。地震観測データの蓄積に伴い、日常的に転移学習を繰り返し進めることで、予測性能の向上が期待できる。一方で、本予測モデルでは2019年山形県沖地震(Mw6.8)など、予測性能評価値が低い(0.59)ケースも確認され、これは転移学習後(0.55)も大きく改善されなかった。これは、山形県付近の地震活動が低いことが原因と考えられる。転移学習においても学習データのMw分布の偏りに注意が必要であり、Mwの小さな学習データを増やしすぎるとかえって大地震の予測性能が低下する可能性がある。