13:30 〜 16:00
[S21P-13] 深層学習モデルの構造自動探索を用いた早期地震警報における単独観測点処理の改良
新幹線の早期地震警報システムや気象庁の緊急地震速報では、それぞれの観測点ごとに震央距離Δ、震央方位やマグニチュードMを推定するアルゴリズムが使用されている(以下、単独観測点処理;例えば、Yamamoto & Tomori [2013])。単独観測点処理では、他の地震計に地震波が到達することを待つ必要が無く、各観測点が独立して推定を行うことができるため、警報の即時性が高いなどのメリットがある一方で、Δなどの推定精度が低いというデメリットもある。以前の新幹線早期地震警報システムでは、Δの推定においてB-Δ法と呼ばれる手法を使用していた(Odaka et al. [2003])。現在はこの手法を更新し、C-Δ法と呼ばれる手法の使用が始まっている(岩田・他[2016])。この手法は、P波の極初動部分(1秒)の10Hz以上の加速度振幅の立ち上がり(=傾き:Cと呼ぶ)がΔと負の相関を持つことを利用したものである。Okamoto & Tsuno [2015]は、この負の相関関係のバラツキが地域ごとの散乱構造の違いの影響を受けることを明らかにした。しかしながら、C-Δ法により推定されたΔは、対数誤差の二乗平均平方根(以下、RMSLE)が約0.31となり、いわゆる「倍半分」の推定精度となっている。現行の新幹線早期地震警報システムでは、まずΔを推定し、そのΔから距離減衰式を用いてMを推定し警報出力判断を行うため、Δの推定精度を高めることは早期地震警報の信頼性を高める上で重要である。
本研究では、単独観測点処理の震央距離推定において、C-Δ法の代わりにニューラルネットワークによる深層学習(例えば、He et al. [2016])を用いてΔを推定し、推定精度の検証を行った。手法の適用にあたって学習させた教師データは、(国研)防災科学技術研究所の強震観測網K-NETで観測されたMj4.0以上かつ震央距離200km以内の16,562個(データ全体の80%)の上下動成分加速度データ(P波開始からそれぞれ1、2、3秒間)である。精度の検証に使用したデータは同条件の4,161個のデータである(学習に使用していない残り20%のデータ)。なお学習用と検証用のデータは無作為に分割している。なお、ここではP波開始時刻は手動で検測したデータを用いている。使用した解析ツールは、Neural Network Console(Sony社)である。
ここではまず、He et al. [2016]による畳み込みニューラルネットワークモデルを用いた分析を行った。これにより推定されたΔの精度は、ネットワークモデルの層数や使用するデータ長(P波開始から1、2、3秒間)の違いによる有意な変化が見られず、検証用データのRMSLEが概ね0.25となった。
次に、モデルの構造自動探索(Sony社)によるさらなる精度向上を試みた。これは、ニューラルネットワークで使用される関数の種類、構造や層数、設定パラメータなどをランダムに変化させ、より高い精度が得られるモデルを探索する手法である。P波開始から1、2、3秒間のデータに対し、それぞれ2,500モデルの構造を作成し、RMSLEを求めた。
得られる結果は、モデルの計算負荷(乗加算の回数)と推定精度のトレードオフとなる。ここで、同じ計算負荷において最も高い精度が得られるモデルをパレート最適解と呼ぶ。前述の通り、He et al. [2016]による畳み込みニューラルネットワークモデルでは使用するデータ長を変化させても有意な推定精度の違いは見られなかったが、構造自動探索で求められたモデルのパレート最適解は、使用するデータが長いほどより高い精度が得られる傾向を確認した。さらに、He et al. [2016]による畳み込みニューラルネットワークモデルと同程度の計算負荷によるモデルのパレート最適解は、RMSLEでそれぞれ、約0.23(P波開始から1秒間のデータを使用)、約0.22(同2秒)、約0.21(同3秒)となり、構造自動探索によりさらに効率的なモデルが求められることを確認した。
今後はさらなる震央距離推定のモデル構造の改善、震央方位やマグニチュードなどへの適用性の検証、および新幹線早期地震警報システムへの深層学習法の導入に向けた検討を継続する計画である。
本研究では、単独観測点処理の震央距離推定において、C-Δ法の代わりにニューラルネットワークによる深層学習(例えば、He et al. [2016])を用いてΔを推定し、推定精度の検証を行った。手法の適用にあたって学習させた教師データは、(国研)防災科学技術研究所の強震観測網K-NETで観測されたMj4.0以上かつ震央距離200km以内の16,562個(データ全体の80%)の上下動成分加速度データ(P波開始からそれぞれ1、2、3秒間)である。精度の検証に使用したデータは同条件の4,161個のデータである(学習に使用していない残り20%のデータ)。なお学習用と検証用のデータは無作為に分割している。なお、ここではP波開始時刻は手動で検測したデータを用いている。使用した解析ツールは、Neural Network Console(Sony社)である。
ここではまず、He et al. [2016]による畳み込みニューラルネットワークモデルを用いた分析を行った。これにより推定されたΔの精度は、ネットワークモデルの層数や使用するデータ長(P波開始から1、2、3秒間)の違いによる有意な変化が見られず、検証用データのRMSLEが概ね0.25となった。
次に、モデルの構造自動探索(Sony社)によるさらなる精度向上を試みた。これは、ニューラルネットワークで使用される関数の種類、構造や層数、設定パラメータなどをランダムに変化させ、より高い精度が得られるモデルを探索する手法である。P波開始から1、2、3秒間のデータに対し、それぞれ2,500モデルの構造を作成し、RMSLEを求めた。
得られる結果は、モデルの計算負荷(乗加算の回数)と推定精度のトレードオフとなる。ここで、同じ計算負荷において最も高い精度が得られるモデルをパレート最適解と呼ぶ。前述の通り、He et al. [2016]による畳み込みニューラルネットワークモデルでは使用するデータ長を変化させても有意な推定精度の違いは見られなかったが、構造自動探索で求められたモデルのパレート最適解は、使用するデータが長いほどより高い精度が得られる傾向を確認した。さらに、He et al. [2016]による畳み込みニューラルネットワークモデルと同程度の計算負荷によるモデルのパレート最適解は、RMSLEでそれぞれ、約0.23(P波開始から1秒間のデータを使用)、約0.22(同2秒)、約0.21(同3秒)となり、構造自動探索によりさらに効率的なモデルが求められることを確認した。
今後はさらなる震央距離推定のモデル構造の改善、震央方位やマグニチュードなどへの適用性の検証、および新幹線早期地震警報システムへの深層学習法の導入に向けた検討を継続する計画である。