11:30 〜 11:45
[S22-07] 千島海溝沿いアウターライズ巨大地震に伴う津波の即時予測へ向けた手法開発
1. 背景
日本海溝沿いのアウターライズでは1933年昭和三陸地震により大津波が発生し、三陸沿岸は津波による甚大な災害を被った。千島海溝沿いではそのような巨大地震がアウターライズで発生した過去の例は知られていない。しかし、最近のJAMSTECによる千島海溝沿いの海底構造調査によりアウターライズでの海底活断層(正断層)が多数マッピングされている。これらの断層が活動し巨大地震が発生した場合、大きな津波が北海道沿岸に押し寄せると考えられる。また、これらの活断層の周辺領域には海底地震津波観測網(S-net)が設置されており(図)、各観測点で観測された津波波形を利用することで精度の良い津波の即時予測が可能になると考えられる。そこで本研究は、科研費基盤(A)「千島海溝沖アウターライズ津波即時予測に向けた震源断層マッピングと津波評価」の一環として、それらの正断層で発生する巨大地震による大津波を早期に予測するため、S-net観測点で観測されることが期待される海底圧力波形を用いて簡便な方法で震源断層を特定する。さらに将来、北海道沿岸を襲う津波の特性を即時的に予測する手法の開発を目指す。
2. 手法
震源断層として、JAMSTECによる海底構造調査によりマッピングされた活断層の情報(野他、本日本地震学会秋季大会)から構築された23個の千島海溝アウターライズ地震断層モデルを用いる。まず、それぞれの断層モデルに基づき海底地殻変動量を求め、梶浦フィルターを用いて高周波成分を除去して初期海面変動を推定した。その伝播を線形Boussinesq方程式に基づき推定し、S-netの観測点40点(図)における津波波形を求め、海底圧力波形に変換した。これを観測された圧力波形と見なし、地震発生から500秒までの波形の特徴から震源断層を特定する手法を開発する。
3. 結果
まず500秒の観測波形から震源断層を特定するために、Inoue et al. (2019)の手法を参考に圧力波形の特徴から、次に示す基準によって観測点を4つに分類した。1)圧力波形が原点より下で推移(隆起域の観測点)、2)圧力波形が原点より上で推移(沈降域の観測点)、 3)1パルスの圧力波形が入る(隆起域または沈降域の近傍の観測点)4)その他(震源域から遠方の観測点)。分析結果の代表例を図に示しており、S-netの観測点を上記基準で分類することにより震源域が特定できる事が分かった。さらに、海底構造調査結果から、アウターライズでは地塁・地溝構造が発達しているため、断層の傾斜方向が相反する2つの断層タイプがあることが分かっている。両者の断層運動による海底地殻変動は分布が異なるため、断層の傾斜方向の違いも500秒間の波形から判別できることが分かった。海底構造調査により推定された23個の断層モデルは近接しているものも多く、全てを本手法で識別することは難しいが、識別の難しい断層モデルの場合には予想される海底地殻変動もほぼ同じである事から、津波即時予測の上で問題は少ないと考えられる。今後、さらに解析を進め、津波の即時予測に有用な情報の抽出に取り組むともに、手法を改善することで500秒間より短い間隔での震源断層推定を試みる。津波即時予測にとって時間の短縮は避難時間確保の上で最も重要な課題である。
参考文献
Inoue, M., Y. Tanioka, Y. Yamanaka, Method for Near-Real Time Estimation of Tsunami Sources Using Ocean Bottom Pressure Sensor Network (S-net), Geosciences, doi:10.3390/geosciences9070310.
日本海溝沿いのアウターライズでは1933年昭和三陸地震により大津波が発生し、三陸沿岸は津波による甚大な災害を被った。千島海溝沿いではそのような巨大地震がアウターライズで発生した過去の例は知られていない。しかし、最近のJAMSTECによる千島海溝沿いの海底構造調査によりアウターライズでの海底活断層(正断層)が多数マッピングされている。これらの断層が活動し巨大地震が発生した場合、大きな津波が北海道沿岸に押し寄せると考えられる。また、これらの活断層の周辺領域には海底地震津波観測網(S-net)が設置されており(図)、各観測点で観測された津波波形を利用することで精度の良い津波の即時予測が可能になると考えられる。そこで本研究は、科研費基盤(A)「千島海溝沖アウターライズ津波即時予測に向けた震源断層マッピングと津波評価」の一環として、それらの正断層で発生する巨大地震による大津波を早期に予測するため、S-net観測点で観測されることが期待される海底圧力波形を用いて簡便な方法で震源断層を特定する。さらに将来、北海道沿岸を襲う津波の特性を即時的に予測する手法の開発を目指す。
2. 手法
震源断層として、JAMSTECによる海底構造調査によりマッピングされた活断層の情報(野他、本日本地震学会秋季大会)から構築された23個の千島海溝アウターライズ地震断層モデルを用いる。まず、それぞれの断層モデルに基づき海底地殻変動量を求め、梶浦フィルターを用いて高周波成分を除去して初期海面変動を推定した。その伝播を線形Boussinesq方程式に基づき推定し、S-netの観測点40点(図)における津波波形を求め、海底圧力波形に変換した。これを観測された圧力波形と見なし、地震発生から500秒までの波形の特徴から震源断層を特定する手法を開発する。
3. 結果
まず500秒の観測波形から震源断層を特定するために、Inoue et al. (2019)の手法を参考に圧力波形の特徴から、次に示す基準によって観測点を4つに分類した。1)圧力波形が原点より下で推移(隆起域の観測点)、2)圧力波形が原点より上で推移(沈降域の観測点)、 3)1パルスの圧力波形が入る(隆起域または沈降域の近傍の観測点)4)その他(震源域から遠方の観測点)。分析結果の代表例を図に示しており、S-netの観測点を上記基準で分類することにより震源域が特定できる事が分かった。さらに、海底構造調査結果から、アウターライズでは地塁・地溝構造が発達しているため、断層の傾斜方向が相反する2つの断層タイプがあることが分かっている。両者の断層運動による海底地殻変動は分布が異なるため、断層の傾斜方向の違いも500秒間の波形から判別できることが分かった。海底構造調査により推定された23個の断層モデルは近接しているものも多く、全てを本手法で識別することは難しいが、識別の難しい断層モデルの場合には予想される海底地殻変動もほぼ同じである事から、津波即時予測の上で問題は少ないと考えられる。今後、さらに解析を進め、津波の即時予測に有用な情報の抽出に取り組むともに、手法を改善することで500秒間より短い間隔での震源断層推定を試みる。津波即時予測にとって時間の短縮は避難時間確保の上で最も重要な課題である。
参考文献
Inoue, M., Y. Tanioka, Y. Yamanaka, Method for Near-Real Time Estimation of Tsunami Sources Using Ocean Bottom Pressure Sensor Network (S-net), Geosciences, doi:10.3390/geosciences9070310.