17:00 〜 17:15
[S22-13] 十勝根室沖の地震活動の現況
地震本部の今後30年間の長期評価では,千島海溝南部のM8.8程度以上で4-70%,根室沖のM7.8-8.5程度で80%程度と高い切迫度が示されている.十勝根室沖の地震活動の現況を報告する.
防災科研S-netの展開により,2020年9月から気象庁一元化震源処理で海底地震計データの利用が開始され,海域での地震検知能力と震源決定精度が大幅に向上した(植平,2019).現在までの2年程度のデータからは,十勝根室沖の震央分布の空間的特徴はS-net導入以前と変わらないように見える.沿岸と海溝軸との中間地点よりdown-dip側の領域で地震活動が活発である一方,海溝軸寄りのup-dip側の領域ではS-net導入後も従前と同じく地震活動度が極めて低い.この空間的特徴は以前から指摘されてきたが(Takahashi and Kasahara, 2007),検知能力の低さによる見かけ上のものではなく,実際の現象である可能性が高まった.この低地震活動域は,えりも岬沖に位置する微動やVLFE発生域の東側に位置し(Nishikawa et al., 2019, Baba et al., 2020),さらに東方の色丹島沖や択捉島沖にも続いているように見える.色丹島沖の領域では1975年にMt7.9(阿部,2003)の津波地震が発生しており,力学的な固着がある可能性がある.根室沖で2019年より開始された海底地殻変動観測の予察的な結果からは,プレート境界でのすべり遅れがプレート間相対速度にほぼ一致することを示唆する結果が得られているが(太田・他,2021),力学的な固着の有無を検討する必要がある.
根室沖の沿岸に近いDown-dip側では中規模繰り返し相似地震が知られており,気象庁気象研究所により発生状況がモニターされている(気象庁気象研究所,2021).釧路町沖の平均すべり速度6.5cm/yrの相似地震は,1954年以降2016年まで11回の発生が知られ(佐鯉・他,2014),発生間隔は現在まで大きく変化しているようには見えない.釧路から根室の沿岸近くの海域の深さ40-60kmのプレート境界付近では,北西南東向きの帯状地震活動帯に区切られた低地震活動領域が4つ程度存在し,そのうちの1つは相似地震とされる2004年M7.1及び1961年M7.1の大すべり域と一致する(気象庁気象研究所,2014,Takahashi and Kasahara, 2007).2004年地震の余震活動は,定常的な地震活動域と同じく大すべり域の周辺部でのみ見られた.この余震域中にある平均すべり速度5.1cm/yの中規模繰り返し相似地震発生の間隔は,2004年地震の前後で変化したようには見えない.2004年地震の平均すべり量は1.6mで,1961年からの経過時間から推定されるすべり遅れ速度は3.7cm/yであり,これらdown-dip側の平均すべり速度はプレート間相対運動速度である約8cm/yより有意に小さいものの,国土地理院(2012)による滑り欠損速度と概ね整合する.
S-netの展開により,震源の深さ精度の大幅な向上が期待されている.2021年5月16日十勝沖のM6.1は気象庁震源の深さは8kmで,地震調査委員会では陸のプレートの地殻内地震と評価し,上盤側プレート内地震活動の存在が明確に示された.震央付近には北東南東走向の背斜軸が存在しており(産総研,2010),西側には活断層が存在する(泉・他,2017).震源の深さ分布を見るため,Iwasaki et al. (1989)によるP波一次元速度構造と東・他(2019)による観測点補正値を用い,気象庁のP波読み取り値と海溝軸より陸側の海底観測点のみを用いた震源決定を行ったところ,気象庁震源より深い15kmが得られた.余震はプレート境界付近から浅部に分布しているように見える.
以前から指摘されてきた十勝根室沖海溝軸側の低地震活動域は検知能力による見かけ上のものではなく,Takahashi and Kasahara(2007)が利用した北大の微小地震カタログが存在する1976年以降継続している可能性がある.当該海域での海底地殻変動観測からは,運動学的なすべり遅れがプレート間相対運動速度相当である可能性が示唆されており,力学的固着の有無を検討する必要がある.Down-dip側の繰り返し相似地震の履歴からは,1954年以降の平均すべり速度が著しく変化した様子は見られない.震源深さ精度の向上により,上盤側プレート内でのM6クラスの地震活動の存在が明らかになった.気象庁震源・防災科研S-net地震波形・海洋研究開発機構釧路・十勝沖ケーブルシステム波形・SEIS-PC(中村・石川,2005)を利用しました.
防災科研S-netの展開により,2020年9月から気象庁一元化震源処理で海底地震計データの利用が開始され,海域での地震検知能力と震源決定精度が大幅に向上した(植平,2019).現在までの2年程度のデータからは,十勝根室沖の震央分布の空間的特徴はS-net導入以前と変わらないように見える.沿岸と海溝軸との中間地点よりdown-dip側の領域で地震活動が活発である一方,海溝軸寄りのup-dip側の領域ではS-net導入後も従前と同じく地震活動度が極めて低い.この空間的特徴は以前から指摘されてきたが(Takahashi and Kasahara, 2007),検知能力の低さによる見かけ上のものではなく,実際の現象である可能性が高まった.この低地震活動域は,えりも岬沖に位置する微動やVLFE発生域の東側に位置し(Nishikawa et al., 2019, Baba et al., 2020),さらに東方の色丹島沖や択捉島沖にも続いているように見える.色丹島沖の領域では1975年にMt7.9(阿部,2003)の津波地震が発生しており,力学的な固着がある可能性がある.根室沖で2019年より開始された海底地殻変動観測の予察的な結果からは,プレート境界でのすべり遅れがプレート間相対速度にほぼ一致することを示唆する結果が得られているが(太田・他,2021),力学的な固着の有無を検討する必要がある.
根室沖の沿岸に近いDown-dip側では中規模繰り返し相似地震が知られており,気象庁気象研究所により発生状況がモニターされている(気象庁気象研究所,2021).釧路町沖の平均すべり速度6.5cm/yrの相似地震は,1954年以降2016年まで11回の発生が知られ(佐鯉・他,2014),発生間隔は現在まで大きく変化しているようには見えない.釧路から根室の沿岸近くの海域の深さ40-60kmのプレート境界付近では,北西南東向きの帯状地震活動帯に区切られた低地震活動領域が4つ程度存在し,そのうちの1つは相似地震とされる2004年M7.1及び1961年M7.1の大すべり域と一致する(気象庁気象研究所,2014,Takahashi and Kasahara, 2007).2004年地震の余震活動は,定常的な地震活動域と同じく大すべり域の周辺部でのみ見られた.この余震域中にある平均すべり速度5.1cm/yの中規模繰り返し相似地震発生の間隔は,2004年地震の前後で変化したようには見えない.2004年地震の平均すべり量は1.6mで,1961年からの経過時間から推定されるすべり遅れ速度は3.7cm/yであり,これらdown-dip側の平均すべり速度はプレート間相対運動速度である約8cm/yより有意に小さいものの,国土地理院(2012)による滑り欠損速度と概ね整合する.
S-netの展開により,震源の深さ精度の大幅な向上が期待されている.2021年5月16日十勝沖のM6.1は気象庁震源の深さは8kmで,地震調査委員会では陸のプレートの地殻内地震と評価し,上盤側プレート内地震活動の存在が明確に示された.震央付近には北東南東走向の背斜軸が存在しており(産総研,2010),西側には活断層が存在する(泉・他,2017).震源の深さ分布を見るため,Iwasaki et al. (1989)によるP波一次元速度構造と東・他(2019)による観測点補正値を用い,気象庁のP波読み取り値と海溝軸より陸側の海底観測点のみを用いた震源決定を行ったところ,気象庁震源より深い15kmが得られた.余震はプレート境界付近から浅部に分布しているように見える.
以前から指摘されてきた十勝根室沖海溝軸側の低地震活動域は検知能力による見かけ上のものではなく,Takahashi and Kasahara(2007)が利用した北大の微小地震カタログが存在する1976年以降継続している可能性がある.当該海域での海底地殻変動観測からは,運動学的なすべり遅れがプレート間相対運動速度相当である可能性が示唆されており,力学的固着の有無を検討する必要がある.Down-dip側の繰り返し相似地震の履歴からは,1954年以降の平均すべり速度が著しく変化した様子は見られない.震源深さ精度の向上により,上盤側プレート内でのM6クラスの地震活動の存在が明らかになった.気象庁震源・防災科研S-net地震波形・海洋研究開発機構釧路・十勝沖ケーブルシステム波形・SEIS-PC(中村・石川,2005)を利用しました.