日本地震学会2022年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(3日目)

特別セッション » S22. 北海道周辺の沈み込み帯における地震・津波に関する諸現象

[S22P] PM-P

2022年10月26日(水) 13:30 〜 16:00 P-2会場 (10階(1010〜1070会議室))

13:30 〜 16:00

[S22P-06] 2003年十勝沖地震津波の数値波動特性

*山中 悠資1、谷岡 勇市郎1 (1. 北海道大学大学院 理学研究院附属 地震火山研究観測センター)

地震により発生した津波が検潮所で観測された場合,それを観測津波波形として用いて震源過程の逆解析が行われる場合がある.そのような逆解析を行う場合,まず震源域内の要素断層すべりによる津波のグリーン関数を線形理論に基づき推定する.それを検潮所地点において線形に重ね合わせることで,観測津波波形を最も妥当に再現できる要素断層のすべり量分布を推定することが多い.しかしながら,沿岸域における津波は非線形特性を有している.前述の手法では,線形重ね合わせの原理を用いた逆解析の理論的整合性を維持するために津波の波動を線形近似して推定するが,これが逆解析の結果に及ぼす影響は十分に検討されていない.本研究では,津波の非線形性が逆解析に与える影響を評価することを念頭に置き,2003年十勝沖地震津波を対象としてその数値波動特性を分析した.
先行研究によってすでに十勝沖地震のモデル化は行われており,検潮所で観測された津波波形に基づく断層モデルも構築されている.本研究ではその断層モデルによる津波の伝播を,線形長波方程式および非線形長波方程式に基づき推定し,北海道沿岸域の検潮所地点(苫小牧西,苫小牧東,十勝,釧路,厚岸,花咲)において両者を比較した.その結果,線形および非線形長波方程式に基づきそれぞれ推定された第一波目の津波は,苫小牧西,苫小牧東,厚岸,花咲では概ね一致したが,津波による水位変動が大きかった十勝および釧路では両者が明らかに乖離していた.推定される津波の振幅と周期に線形近似の影響が及んでいたことから,その影響を考慮しないまま逆解析を行えば,推定されるすべり量の大きさやその分布に無視できない誤差が生じる可能性があることがわかった.さらに十勝検潮所周辺海域において,非線形長波方程式に組み込まれている非線形性項の影響の大きさを数値的に分析した.その結果,海底摩擦損失項よりも移流項の方が推定波形に及ぼす影響が相対的に大きく,移流項の影響は検潮所が設置されている十勝港の内側および防波堤開口部で顕著になることがわかった.  
以上の結果から,津波の特性と地形条件によっては第一波目の津波においても非線形効果が無視できず,それが線形逆解析の結果に不確実性をもたらす可能性があることがわかった.観測津波波形を用いた線形逆解析を行う際には,津波の非線形効果が観測された津波波形にどの程度反映されているかを分析し,その影響が比較的小さい観測波形をスクリーニングする必要がある.