10:45 〜 11:00
[S01-01] 地震波形の振幅の確率密度関数に基づく直達波の強調法
~2011年東北地方太平洋沖地震の地震波放射源分布の推定~
◆ はじめに
震源から観測点まで最短経路を伝播した直達波の強調は、震源決定、震源過程解析、地盤増幅の解析等、地震学の様々な場面で有用である.例えば、断層破壊過程の推定においては、波形中の顕著な波を見つけ、その波が放射された位置と時間を推定することが行われるが、複雑な震源過程や地下構造の影響などにより波形が複雑な場合、このような作業は困難を伴う。波形中の直達波を強調することができれば、目視よりも多くの波を精度よく検出し、断層破壊過程をより詳細かつ精度よく推定することができると考えられる。本研究では、Oshima and Takenaka (2022)による地震波形の振幅の確率密度関数に基づく地震波形中の直達波の強調法を適用することにより、2011年東北地方太平洋沖地震の観測波形から長周期(おもに周期数秒以上)の直達波を抽出して、その放射源の分布を推定した。
◆ 手法の概略
地震波形は、時間の経過にともない、直達波から様々な場所で反射や屈折を繰り返して伝わってきた波の集合体に変わっていく。これに伴い、地震波の振幅が従う統計分布、すなわち確率密度関数(Probabilistic density function: PDF)も変化することとなる。具体的には、波形振幅のPDFはRayleigh分布やGauss分布に近くなる。すなわち、波形振幅のPDFとRayleigh分布あるいはGauss分布との非類似度が直達波到着時に大きくなることから、この非類似度を重みとして元の波形に乗じることにより、波形中の直達波を強調することができる。波形振幅のPDFとRayleigh分布あるいはGauss分布との非類似度は、Kullback-Leiblerダイバージェンス:KLD (Kullback and Leibler, 1951)により計算する。タイムウィンドウを波形の先頭から末尾まで移動させながらKLDを計算することにより、KLDの時系列を得ることができる。この方法を観測波形に適用して直達波を強調してその到着時刻の読み取りを行い、震源決定を行うことにより、それぞれの直達波が放射された位置と時間を推定することができる。
◆ データ
青森県、岩手県、宮城県、茨城県内のKiK-net地中観測点で記録された2011年東北地方太平洋沖地震の波形データを用いた。加速度波形を2回積分して変位波形記録とした。
◆ 解析
本研究では、EW成分のS波部分を対象に解析を行った。変位波形に前述の直達波の強調処理を行った波形から読み取った直達波の到着時刻とS波初動の走時差を用いて、Takenaka et al. (2006)の方法により直達波が放射された位置と時間を推定した。直達波の強調は、タイムウィンドウ長を15秒とし、KLDを3乗したものを重みとして変位波形に乗じることにより行った。採用したタイムウィンドウ長から、本研究ではおもに周期数秒以上の直達波を強調していることになる。断層面をKubo and Kakehi(2013)や川辺・釜江(2013)に基づき設定し、直達波とS波初動の走時差の観測値と計算値の差の二乗和が最小となる直達波の放射の位置と時間を、グリッドサーチにより求めた。グリッド間隔は、空間、時間についてそれぞれ1 km、1秒とした。走時は上野・他(2002)により計算した。
◆ 結果とまとめ
地震発生から約100秒間に放射された顕著な直達波の放射源を同定することができた。Oshima and Takenaka (2022)により、目視では困難な波形の後半部における直達波も強調し、放射源を推定できることが分かった。得られた直達波の放射源分布は、既往研究により推定された断層すべりの位置やタイミング (例えば、Kubo and Kakehi, 2013)と概ね調和的である。同定された顕著な直達波の放射源の大部分は、波形インバージョンにより大きなすべり量が推定されている、おもに震源よりも北側の領域に分布することが分かった。
◆ 発表予定
発表では、より短周期を対象とした直達波の放射源分布を調べた結果についても報告する予定である。
◆ 謝辞
建築研究所の原辰彦博士には、本研究のきっかけとなる重要な示唆を頂きましたことを感謝申し上げます。本研究では、防災科学技術研究所のKiK-net観測点の強震波形記録を使用させて頂きました。ここに記して御礼を申し上げます。
震源から観測点まで最短経路を伝播した直達波の強調は、震源決定、震源過程解析、地盤増幅の解析等、地震学の様々な場面で有用である.例えば、断層破壊過程の推定においては、波形中の顕著な波を見つけ、その波が放射された位置と時間を推定することが行われるが、複雑な震源過程や地下構造の影響などにより波形が複雑な場合、このような作業は困難を伴う。波形中の直達波を強調することができれば、目視よりも多くの波を精度よく検出し、断層破壊過程をより詳細かつ精度よく推定することができると考えられる。本研究では、Oshima and Takenaka (2022)による地震波形の振幅の確率密度関数に基づく地震波形中の直達波の強調法を適用することにより、2011年東北地方太平洋沖地震の観測波形から長周期(おもに周期数秒以上)の直達波を抽出して、その放射源の分布を推定した。
◆ 手法の概略
地震波形は、時間の経過にともない、直達波から様々な場所で反射や屈折を繰り返して伝わってきた波の集合体に変わっていく。これに伴い、地震波の振幅が従う統計分布、すなわち確率密度関数(Probabilistic density function: PDF)も変化することとなる。具体的には、波形振幅のPDFはRayleigh分布やGauss分布に近くなる。すなわち、波形振幅のPDFとRayleigh分布あるいはGauss分布との非類似度が直達波到着時に大きくなることから、この非類似度を重みとして元の波形に乗じることにより、波形中の直達波を強調することができる。波形振幅のPDFとRayleigh分布あるいはGauss分布との非類似度は、Kullback-Leiblerダイバージェンス:KLD (Kullback and Leibler, 1951)により計算する。タイムウィンドウを波形の先頭から末尾まで移動させながらKLDを計算することにより、KLDの時系列を得ることができる。この方法を観測波形に適用して直達波を強調してその到着時刻の読み取りを行い、震源決定を行うことにより、それぞれの直達波が放射された位置と時間を推定することができる。
◆ データ
青森県、岩手県、宮城県、茨城県内のKiK-net地中観測点で記録された2011年東北地方太平洋沖地震の波形データを用いた。加速度波形を2回積分して変位波形記録とした。
◆ 解析
本研究では、EW成分のS波部分を対象に解析を行った。変位波形に前述の直達波の強調処理を行った波形から読み取った直達波の到着時刻とS波初動の走時差を用いて、Takenaka et al. (2006)の方法により直達波が放射された位置と時間を推定した。直達波の強調は、タイムウィンドウ長を15秒とし、KLDを3乗したものを重みとして変位波形に乗じることにより行った。採用したタイムウィンドウ長から、本研究ではおもに周期数秒以上の直達波を強調していることになる。断層面をKubo and Kakehi(2013)や川辺・釜江(2013)に基づき設定し、直達波とS波初動の走時差の観測値と計算値の差の二乗和が最小となる直達波の放射の位置と時間を、グリッドサーチにより求めた。グリッド間隔は、空間、時間についてそれぞれ1 km、1秒とした。走時は上野・他(2002)により計算した。
◆ 結果とまとめ
地震発生から約100秒間に放射された顕著な直達波の放射源を同定することができた。Oshima and Takenaka (2022)により、目視では困難な波形の後半部における直達波も強調し、放射源を推定できることが分かった。得られた直達波の放射源分布は、既往研究により推定された断層すべりの位置やタイミング (例えば、Kubo and Kakehi, 2013)と概ね調和的である。同定された顕著な直達波の放射源の大部分は、波形インバージョンにより大きなすべり量が推定されている、おもに震源よりも北側の領域に分布することが分かった。
◆ 発表予定
発表では、より短周期を対象とした直達波の放射源分布を調べた結果についても報告する予定である。
◆ 謝辞
建築研究所の原辰彦博士には、本研究のきっかけとなる重要な示唆を頂きましたことを感謝申し上げます。本研究では、防災科学技術研究所のKiK-net観測点の強震波形記録を使用させて頂きました。ここに記して御礼を申し上げます。