日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

C会場

一般セッション » S01. 地震の理論・解析法

[S01] AM-2

2023年11月2日(木) 10:45 〜 12:00 C会場 (F202)

座長:山谷 里奈(防災科学技術研究所)、水谷 歩(北海道大学)

11:00 〜 11:15

[S01-02] 断層近傍の海底地震計・水圧計記録を用いた地震時変位波形の推定

*水谷 歩1、Melgar Diego2、蓬田 清1 (1. 北海道大学、2. オレゴン大学)

DONETやS-netといった海底観測網が整備されたことによって、沖合で発生する地震の近地記録が得られるようになった。これらの地震計記録から変位波形を得るためには積分を行う必要があるが、加速度記録に含まれる微小オフセットの影響により、強震計記録を単純に積分しただけでは、得られる速度・変位波形は発散してしまうことが知られている(e.g., Iwan et al., 1985)。DONET・S-netの特徴として、各観測点に強震計と水圧計が設置されていることが挙げられる。本研究では、Kalmanフィルタを用いてこれら2種類の観測記録を組み合わせることで断層近傍における海底変位波形の推定を行う。
陸上の観測点を対象とした研究では、強震計記録とGNSS記録に対してKalmanフィルタを用いることによる変位波形の推定が行われている(e.g., Bock et al., 2011)。GNSS観測記録においては地震時変位が卓越すると考えられる一方で、海底水圧記録には津波や加速度変化に伴う水圧変化などが重畳することが知られており(e.g., Saito, 2013)、それらの影響を取り除く必要がある。本研究では、Mizutani et al. (2020)が開発した地震時水圧記録から海底変位・津波成分を抽出する手法と、津波インバージョンで推定される津波波形を用いることで地震時水圧記録における海底変位以外の成分の補正を行い、Kalmanフィルタを適用する。
初めに、提案手法の有効性を確認するための合成波形テストを行った。地震波の計算にはOpenSWPC (Maeda et al., 2017)を、それに伴って発生する津波の計算にはGeoClaw (Clawpack Development Team, 2020)を用いた。得られた地震計・水圧計記録に対して加速度オフセットやバックグラウンドノイズを加え観測記録を作成した。それらに対して本手法を適用し、推定された変位波形が真の変位波形と一致することを確認した。
次に、実際の地震記録への適用を行った。対象としたのは2016年4月1日に発生した三重県沖地震(Mw 6.0)のDONET記録である。震源に最も近いKME18観測点の水圧記録は非物理的なオフセットが含まれていることが指摘されているため(Wallace et al., 2016)、それ以外の観測点を対象として解析を行った。図1(A)は加速度記録を単純に積分して得られた変位波形とKalmanフィルタで推定した変位波形を示している。提案手法を用いることによって実際の観測記録に対しても安定した変位波形を得ることができた。
最後に、得られた変位波形を用いて断層すべりインバージョンを行った。断層パラメータはWallace et al. (2016)で推定されたものを用い、すべり量のみ推定した。グリーン関数の計算に必要な速度構造にはJIVSMモデル(Koketsu et al., 2012)を用いた。また結果の比較のために津波インバージョン(Kubota et al., 2018)によるすべり分布の推定も行った。図1(B)は両者の結果を比較しており、そのすべり分布は概ね一致している。このことから、本研究で提案した手法は実際の海底観測記録に対しても有効であると結論した。