3:00 PM - 3:15 PM
[S01-12] Ground motion simulation with stochastic source time functions
断層の破壊プロセスは予測困難であり、したがって強震動シミュレーションのためには、多様な震源過程シナリオを想定せざるを得ない。特に現時点で震源物理学的に最も妥当とされる想定法は、有限断層モデルに様々なパラメタやランダムネスを与え、多数のシミュレーションを実行することであろう。とはいえそのような方法は計算コストが高く、そのために想定しうる膨大なシナリオのうち限られた範囲しか扱えないという困難を伴なう。一方で、数十 km 以上の広がりを持つ断層の活動であっても、観測される地震波形の主要部分は、疑似点震源モデルを用いてある程度説明可能であることが示されている[野津, 2012 地震]。点震源モデルを用いた強震動予測は計算コストが低く、従って震源時間関数について大きなバリエーションを持たせた網羅的なシミュレーションを可能にする。つまり実効的には有限層モデルよりも震源過程の多様性を考慮しやすく、確率的地震動シミュレーションに向いていると言える。
そのような点震源による確率的地震動シミュレーションのためには、確率的に振る舞う膨大な震源時間関数を用意する必要がある。震源時間関数の継続時間については、モーメントを仮定した上で、経験的に知られるスケーリング則を用いればよい。一方で、その形状についての経験的制約には、例えば約8割が単峰型でそれ以外は複峰型である[Yin+, 2021 SRL]とか、Fourier 振幅スペクトル形状が ω−2 モデルに従う[Abercrombie, 1995 JGR]、あるいは2重コーナー周波数を持つ[Denolle&Shearer, 2016 JGR]、およびモーメント関数が破壊開始からの時間の3乗に従う[Uchide&Ide, 2010 JGR]などがある。Hirano[2022, リンク参照] はこれらの経験則に加え、 GR 則をも満たすランダムな震源時間関数を、確率微分方程式を用いて生成する数学的方法を提唱した。こうして得られる震源時間関数は多様性に富み、更にその分散の程度をコントロールすることもできる。しかし GR 則を満たすということは、規模までもが確率的であり、かつほとんど全てが微小地震となることから、規模をコントロールしたい確率的地震動シミュレーションの入力としてそのまま用いるには不便であった。
本研究では、確率的震源過程を確率的地震動シミュレーションの入力として利用する方法を提案する。そのために、先行モデルの確率微分方程式に代えて、 Bessel 橋というランダム時系列に基づいて継続時間をコントロール可能な確率的震源時間関数[平野, 2022 JpGU]を入力とする地震動シミュレーションを実施した。まずはデモンストレーションとして、 CRUST2.0[Bassin+, 2000 EOS Trans AGU]による大陸地殻の平均的な層構造を仮定し、深さ 20 km に点震源を置いて、 5 Hz までフラットな Green 関数を差分計算した。計算には OpenSWPC[Maeda+, 2017 EPS] の P-SV モードを利用し、その結果を同ツールを用いて疑似3D化した。こうして得た Green 関数と、ランダムに生成した継続時間1秒の震源時間関数1,000通りとの畳み込み積分を計算することで、1,000通りの地表速度波形をシミュレートした。
第一に検討したモデルでは、震源時間関数が古典的な ω−2 型のスペクトルを持ち、分散を比較的小さいものとしたが、それでも地表速度波形の PGV や高周波数成分には有意なバリエーションが見られる[画像]。一方で観測波形における PGV を説明するには2重コーナー周波数を持つスペクトルの方が良いという指摘[Ji&Archuleta, 2021 BSSA]もある。本手法ではそのような震源時間関数も容易に生成可能で、それを踏まえて波形を生成し、より大きなバリエーションが見られることも紹介する。いずれにおいてもこれらの結果は、与えられたスペクトルの概形を持つ震源時間関数群の分布を入力として、出力波形がどのような平均と分散を持つかを明らかにするものでもある。波動場の計算と畳み込み積分は線形であるが、地下構造により複数の反射・屈折波が生じて重なった結果、 PGV のような量は必ずしも入出力間で線形な関係にない。そのように非自明な出力の分布を明らかにできることは、将来における地震動シミュレーションの幅を拡げるものになるであろう。
そのような点震源による確率的地震動シミュレーションのためには、確率的に振る舞う膨大な震源時間関数を用意する必要がある。震源時間関数の継続時間については、モーメントを仮定した上で、経験的に知られるスケーリング則を用いればよい。一方で、その形状についての経験的制約には、例えば約8割が単峰型でそれ以外は複峰型である[Yin+, 2021 SRL]とか、Fourier 振幅スペクトル形状が ω−2 モデルに従う[Abercrombie, 1995 JGR]、あるいは2重コーナー周波数を持つ[Denolle&Shearer, 2016 JGR]、およびモーメント関数が破壊開始からの時間の3乗に従う[Uchide&Ide, 2010 JGR]などがある。Hirano[2022, リンク参照] はこれらの経験則に加え、 GR 則をも満たすランダムな震源時間関数を、確率微分方程式を用いて生成する数学的方法を提唱した。こうして得られる震源時間関数は多様性に富み、更にその分散の程度をコントロールすることもできる。しかし GR 則を満たすということは、規模までもが確率的であり、かつほとんど全てが微小地震となることから、規模をコントロールしたい確率的地震動シミュレーションの入力としてそのまま用いるには不便であった。
本研究では、確率的震源過程を確率的地震動シミュレーションの入力として利用する方法を提案する。そのために、先行モデルの確率微分方程式に代えて、 Bessel 橋というランダム時系列に基づいて継続時間をコントロール可能な確率的震源時間関数[平野, 2022 JpGU]を入力とする地震動シミュレーションを実施した。まずはデモンストレーションとして、 CRUST2.0[Bassin+, 2000 EOS Trans AGU]による大陸地殻の平均的な層構造を仮定し、深さ 20 km に点震源を置いて、 5 Hz までフラットな Green 関数を差分計算した。計算には OpenSWPC[Maeda+, 2017 EPS] の P-SV モードを利用し、その結果を同ツールを用いて疑似3D化した。こうして得た Green 関数と、ランダムに生成した継続時間1秒の震源時間関数1,000通りとの畳み込み積分を計算することで、1,000通りの地表速度波形をシミュレートした。
第一に検討したモデルでは、震源時間関数が古典的な ω−2 型のスペクトルを持ち、分散を比較的小さいものとしたが、それでも地表速度波形の PGV や高周波数成分には有意なバリエーションが見られる[画像]。一方で観測波形における PGV を説明するには2重コーナー周波数を持つスペクトルの方が良いという指摘[Ji&Archuleta, 2021 BSSA]もある。本手法ではそのような震源時間関数も容易に生成可能で、それを踏まえて波形を生成し、より大きなバリエーションが見られることも紹介する。いずれにおいてもこれらの結果は、与えられたスペクトルの概形を持つ震源時間関数群の分布を入力として、出力波形がどのような平均と分散を持つかを明らかにするものでもある。波動場の計算と畳み込み積分は線形であるが、地下構造により複数の反射・屈折波が生じて重なった結果、 PGV のような量は必ずしも入出力間で線形な関係にない。そのように非自明な出力の分布を明らかにできることは、将来における地震動シミュレーションの幅を拡げるものになるであろう。