[S01P-05] 2011年東北地方太平洋沖地震震源域の全波形トモグラフィーを目的とした海底地震計(S-net)波形データのモデリング
沈み込み帯の短波長3次元構造モデルを構築することは、周期約10秒以下の地震波波形を再現する上でも、また、波形解析によって不均質構造と震源過程の相関関係を研究する上でも重要である。しかし沈み込み帯の強い不均質性は波形に大きな影響を与える可能性がある。しかも地震観測点は主に陸上に展開されていることから、観測点分布には偏りがある。これらの背景のために、沈み込み帯に全波形トモグラフィーを適用することは容易ではない。これらの困難の下で全波形トモグラフィーの初期震源パラメータを推定するために、我々はFirst-motion Augmented Moment Tensor(FAMT)解析を提案した(Okamoto et al, EPS, 2018)。この方法では初期3次元構造モデルのもとでの地震波波形シミュレーションに基づいて計算波形を生成し、短周期(4-40秒)のP波初動波形と長周期(10-40秒)の表面波を含む全波形を用いて震源位置や震源パラメータを推定する。しかし、このようにして得られた最適震源パラメータを用いても、観測点分布の偏りのために2011年東北沖地震震源域のトモグラフィーでは、海溝付近の分解能が悪化することを我々は見出した(Okamoto et al., 地震学会2022年秋季大会)。この問題に対応するために、本研究では日本海溝海底地震津波観測網(S-net)の波形データを導入することとした。まず、S-net波形を用いたFAMT解析の例として、陸上観測点(F-net, KiK-net)の3成分データとS-net海底地震計(加速度計)の3成分データを同時に利用してアウターライズ地震(2017年、Mw 6.2)の解析を行った。このイベントは観測網の内側で発生した地震であることから、海底地震計の向きの変化をチェックした。すなわちS-net加速度計データについて地震波到達前と地震波通過後の200秒間を用いてTakagi et al. (2019) の方法により地震計のRoll角度とTilt角度を地震波通過の前後で推定し、解析対象とした全ての観測点で地震波通過の前後で角度がほぼ変わらないことと、Takagi et al. (2019)で得られた角度との相違が小さいこと(0.1度未満)の両方を確認した。これらのチェックのうえで、最終的には Takagi et al. (2019) で得られた3つの角度を用いて回転した観測波形を利用した。FAMT解析で得られた長周期計算波形は、解析に用いた18個のS-net観測点のうち半数弱の観測点でS-net観測波形を良好に再現した。波形の一致が良好ではない観測点については今後の検討が必要である。また、震源位置やモーメントテンソルなどの震源パラメータは、陸上観測点データのみを使用して得られたものと大きな違いはなかった。例えば推定された震源位置の相違は水平方向に約5.1kmであり、これは震源の断層サイズ(〜10数km)よりも小さい。この例は、トモグラフィー解析にS-netの海底地震計波形データを利用できる可能性を示すものと考えられる。発表では、S-net海底地震計波形データを追加して得られた分解能行列と推定パラメータ(P波およびS波の弾性率、密度、QpおよびQs)に基づいて、2011年の東北沖地震震源域に適用した全波形トモグラフィーの初期結果を紹介する。(NIEDによる波形データ提供、およびTakagi et al. (2019)によるS-net地震計方位角度データ提供に感謝します。この研究は、JSPS KAKENHI(20K04101)、およびJHPCNプロジェクト(jh200059-NHA、jh210054-NAH、jh220060、jh230068)によってサポートされています。)