The 2023 SSJ Fall Meeting

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Poster session (Sept. 17th)

Regular session » S01. Theory and analysis method

[S01P] PM-P

Wed. Nov 1, 2023 5:00 PM - 6:30 PM Room P11 (F203) (Hall Annex)

[S01P-09] Fluctuation of the strain waveform due to the small-scale heterogeneity

*Kentaro EMOTO1, Satoru HAMANAKA1 (1. Kyushu University)

地震波は地下の短波長不均質構造による散乱により複雑な波形として観測される。この短波長不均質は背景構造に重畳するランダムなゆらぎとしてモデル化される。そのため、背景構造が一様であり、震源距離が同じであっても、場所が異なれば波形も異なる。本講演では、そのような短波長不均質のパターンのみが異なる場合での波形をアンサンブルとして、その統計的な性質について考察する。波形はコヒーレント成分とインコヒーレント成分に分けることができ、コヒーレント成分は、波形のアンサンブル平均として求めることができる。コヒーレント成分の二乗のアンサンブル平均であるコヒーレント強度と、元の波形を二乗したもののアンサンブル平均である全強度との比は、伝播距離とともに指数関数的に減少する。そのときの係数を1/2したものが散乱係数(散乱平均自由行程の逆数)である(Shapiro & Kneib, 1993)。ここで、比を用いることで、内部減衰の影響は除去され、散乱減衰のみの影響を取り出すことができることが特徴である。この考えを、地震計アレイで記録した遠地地震(Ritter et al., 1998)や、雑微動の干渉波形(Chaput et al., 2015)に適用して、短波長不均質構造が推定されてきた。近年普及してきた光ファイバーケーブルを利用したDAS(Distributed Acoustic Sensing)観測では,歪や歪速度が出力される。等間隔で稠密な記録であるため、上述の手法を適用しやすい状況であるものの、歪波形の散乱減衰と媒質パラメータの関係がまだ確立されていない。歪は変位の空間微分であり、微細不均質に敏感であり、散乱の影響を強く受けると考えられる。

 本講演では、2次元(x-z平面)での地震波伝播シミュレーションを行うことで、数値的に歪波形のばらつき(コヒーレント成分の減衰)を調べる。ランダムゆらぎをもつ短波長不均質媒質に対し、z方向に伝播する平面P波が入射する状況を考える。ランダムなゆらぎは指数関数型自己相関関数で特徴づけられるとし、特徴的スケールを2, 5, 10 km、ゆらぎのRMSを2, 5 %と変えて計算を行う。入射する平面波は、中心周波数が1.5, 3.0 Hzの2パターンを用いる。伝播距離2 kmおきにx方向にずらした観測点を9個ずつ配置し、速度と歪速度を記録した。各伝播距離においてコヒーレント強度と全強度との比を計算し、これを伝播距離の関数として指数関数で最小二乗フィッティングし、その係数を推定した。

 いずれの媒質・周波数においても、比は伝播距離と共に1から減少する傾向にあった。速度波形から推定した散乱平均自由行程は、中心周波数1.5 Hz, 特徴的スケール2 km, ゆらぎのRMSが2 %のときが350 kmと一番大きく、中心周波数3 Hz, 特徴的スケール10 km, ゆらぎのRMSが5 %のときが8 kmと一番小さく、これらの値は媒質から期待される理論値とほぼ一致した。一方、歪速度から計算したみかけの散乱係数は、いずれの場合においても、速度から計算したそれよりも約1.3倍大きく、散乱の影響が強く現れることが確認できた。この値は、1.5 Hzの場合の方が、3 Hzの場合より若干小さい値となったが、有意な差であるかどうかはさらなる解析が必要である。歪速度は速度の空間微分であるにもかかわらず、周波数にほぼ依存しないことは意外な結果であった。

 今後は歪速度と速度で生じる差を説明する物理的な背景を考察する予定である。また、この手法を、日奈久断層に沿った国道3号線沿いで行ったDAS記録の雑微動相関関数に適用し、短波長不均質の空間分布を調べる予定である。