日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

B会場

一般セッション » S02. 地震計測・処理システム

[S02] AM-1

2023年11月1日(水) 09:30 〜 10:45 B会場 (F201)

座長:篠原 雅尚(東京大学地震研究所)、中川 茂樹(東京大学地震研究所)

09:45 〜 10:00

[S02-02] 雑微動相互相関関数による短周期海底地震計の時刻補正

*山花 弘明1、村井 芳夫2、篠原 雅尚3 (1. 東京大学大学院理学系研究科、2. 北海道大学大学院理学研究院、3. 東京大学地震研究所)

自由落下自己浮上式海底地震計(OBS)による地震観測データを解析するためには,自立した地震計の時計を標準時刻に補正する必要がある.多くの場合はOBSによる観測期間の直前・直後に,標準時刻であるGPSの時計とOBSの内部時計との時刻差を計測し,OBS内部時計の線形変動を仮定して時刻補正を行う.一方で雑微動の相互相関関数(CCF)による手法では,2観測点間の内部時計の相対時刻差を推定する.この手法を使用すればGPSによる時刻補正ができなかった状況でも,時刻補正済みの他の観測点との相対時刻差を推定することで,標準時刻からの時刻差の変化率(ドリフトレート)を求めることがきる.それゆえCCFの利用はGPSによる時刻補正法を補うための手法として重要である.CCFにおいて2観測点間の内部時計の相対時刻差は,CCFにより抽出される脈動帯域の波動の走時として現れるため,これまで本手法は主に広帯域OBSに対して使用されていた。例としてTian et al. (2021) は,GPSによる時刻補正に失敗した広帯域OBSに対して本手法を使用し,複数の時刻補正済みの広帯域OBSデータとの間でCCFを求めた.その際には複数の成分・周波数帯域を用いてCCFの数を増やすことによって,1台のOBSに対して多数の走時変化を得ており,それらの平均をとることで最終的なドリフトレートの推定精度を向上させている.
 本研究では脈動帯域における感度が低い,固有周期4.5Hzの短周期OBSに対して,Tian et al. (2021) の手法を用いて時刻補正を試みた.OBSの設置海域は北海道南東の釧路沖である.観測データは24時間ごとに分割し,1日単位で走時を計算することとした.まず前処理として計算量減少のため観測データを100 Hzへダウンサンプリングしたのち,大振幅である地震の影響を除去するためにバンドパスフィルターの適用,振幅等値化,スペクトル白色化を行った.ここで走時変化を多数求めるため,バンドパスフィルターの周波数帯域は脈動帯域を中心に少しずつずらして複数用意した.その後,全観測期間の約10分の1にあたる5日分のCCFをスタックした.ここでのCCFのピーク位置の変化が走時の変化である.ただしSN比が低いCCFを除外するために,全期間スタックしたCCFにおけるピーク値が設定した値より大きいもののみを採用した.選択された複数のCCFから得られた走時変化を用いて重み付き平均をとり,得られた平均的な走時変化の回帰直線の傾きをとることで,時刻補正対象のOBSのドリフトレートを求めた(図1).
 CCFから推定される主な波動の伝播方向は,陸側から離れる東・南向きである傾向が見られた.その波動の伝播速度は0.2 Hzにおいておよそ0.26 km/sであった(図2).またドリフトレート推定結果を検証するため,GPS時計との時刻差計測により標準時刻に補正済みの複数のOBSに上記の手法を適用した.ここでは時刻補正済みのデータを使用しているので,求まるドリフトレートは0になることが期待される.結果としてどのOBSにおいてもドリフトレートはその95 %信頼区間が0を含み,期待通りほぼ0と一致する値を得ることができた.この結果から,短周期センサーを使用したOBSにおいても低周波帯域でのCCFを利用できる可能性が示された.