11:45 〜 12:00
[S02-09] 鉄道沿線の既設光ファイバーケーブルに適用したDASを用いた早期地震警報アルゴリズムの開発
序章
新幹線の地震計で使われている早期地震警報(EEW)の地震諸元推定アルゴリズムは、単独観測点データから震源距離(Δ)やマグニチュード(M)などを推定している。この方式は、推定精度は落ちるが、複数点のデータを使うよりも早く警報を出すことができる。新幹線のEEWアルゴリズムは、沿線(20km毎)や海岸に設置された地震計で取得されるP波初動直後の短いデータ(通常1~2秒)を用いて地震諸元を推定する。しかしながら、震央距離は倍半分、震央方位は±30°、マグニチュードは±0.6程度の推定誤差があり、出力される警報は単独観測点の推定結果に依存する。 Distributed Acoustic Sensing(DAS)は、光ファイバーケーブル内を進む後方散乱レーザーパルスの位相の変化を利用して、光ファイバーケーブルに沿った歪み変化を計測する。本技術は数m毎にデータを計測できるため、ほぼ同時刻(例えば0.5秒以内)に地震波を複数点で検知することが可能である。したがって、各点のデータを用いて推定された地震諸元の結果を統計的(例えば、平均や中央値など)に評価することができ、警報の高精度化に繋がる可能性がある。本研究では、新幹線沿線の既設光ファイバーケーブルに適用したDASを用いて取得された地震データを使用し、地震波検知後、迅速に地震諸元を推定する手法を紹介する。
観測
九州新幹線沿線の既設光ファイバーケーブルにDASを適用し自然地震観測を実施した。観測期間は、2022年1月から2月および2023年2月から3月であり、2022年は新八代駅から新大牟田駅の約75km、2023年は新八代駅から久留米駅の約100kmの既設ケーブルを使用した。観測範囲には、橋梁・高架橋・トンネルなど様々な鉄道構造物があり、橋梁や高架橋は線路横のトラフ内に、トンネル内では壁面に光ファイバーケーブルが設置されている。DASはAPセンシング社のものを使用し、interrogatorを最南端の新八代駅に設置した。
手法
本発表では、リアルタイムで震源距離とマグニチュードを推定し、鉄道沿線から何km離れた地点でどの程度のマグニチュードの地震が生じたか算出する手法の開発を実施した。また、早期警報に使用するために、計算コストをできるだけ抑えることにも注意した。Yin et al. (2023) において、DASで計測されたひずみ速度と、マグニチュードおよび震源距離の回帰式が示されている。九州新幹線沿線のDAS観測で取得した地震データの最大ひずみ速度と、震源距離、気象庁マグニチュードの値を用いて、上記回帰式のパラメータを設定し、九州新幹線沿線のDASデータにおけるマグニチュードスケーリング式を取得した。次に、震源距離をリアルタイムで推定するために、STA/LTAを基本としたP波到来時刻およびS波到来時刻をロバストにリアルタイムで決定する手法を開発した。読み取ったS波とP波の到来時刻差から震源距離を推定する。また最初にP波を検知したチャンネルから両側数キロのデータのみを用いることで即時性を維持した。
結果・考察
観測期間中に発生したMj2.5以上、震源距離150km以下で発生した地震データ(地震数は10)に対し開発した手法を適用した。DASで推定したマグニチュード(Mdas)と気象庁マグニチュードを比較すると、今回対象とした地震では、2022年1月22日に日向灘で発生したMj6.6の地震を除き、±0.5程度の誤差でMdasを推定していることがわかった。Mj6.6の地震のMdasの推定結果は、S波の到来時刻が正確に決定できていないことで震源距離が小さく求まり、Mdasを大きく過小評価していた。これは、cycle skippingの影響でP波とS波のひずみ速度値の差が小さかったことが原因である。今後は、追加観測を実施することでDASによる地震データを増やすことや、P波のみの情報で地震諸元を推定する手法の開発等に注力する。
新幹線の地震計で使われている早期地震警報(EEW)の地震諸元推定アルゴリズムは、単独観測点データから震源距離(Δ)やマグニチュード(M)などを推定している。この方式は、推定精度は落ちるが、複数点のデータを使うよりも早く警報を出すことができる。新幹線のEEWアルゴリズムは、沿線(20km毎)や海岸に設置された地震計で取得されるP波初動直後の短いデータ(通常1~2秒)を用いて地震諸元を推定する。しかしながら、震央距離は倍半分、震央方位は±30°、マグニチュードは±0.6程度の推定誤差があり、出力される警報は単独観測点の推定結果に依存する。 Distributed Acoustic Sensing(DAS)は、光ファイバーケーブル内を進む後方散乱レーザーパルスの位相の変化を利用して、光ファイバーケーブルに沿った歪み変化を計測する。本技術は数m毎にデータを計測できるため、ほぼ同時刻(例えば0.5秒以内)に地震波を複数点で検知することが可能である。したがって、各点のデータを用いて推定された地震諸元の結果を統計的(例えば、平均や中央値など)に評価することができ、警報の高精度化に繋がる可能性がある。本研究では、新幹線沿線の既設光ファイバーケーブルに適用したDASを用いて取得された地震データを使用し、地震波検知後、迅速に地震諸元を推定する手法を紹介する。
観測
九州新幹線沿線の既設光ファイバーケーブルにDASを適用し自然地震観測を実施した。観測期間は、2022年1月から2月および2023年2月から3月であり、2022年は新八代駅から新大牟田駅の約75km、2023年は新八代駅から久留米駅の約100kmの既設ケーブルを使用した。観測範囲には、橋梁・高架橋・トンネルなど様々な鉄道構造物があり、橋梁や高架橋は線路横のトラフ内に、トンネル内では壁面に光ファイバーケーブルが設置されている。DASはAPセンシング社のものを使用し、interrogatorを最南端の新八代駅に設置した。
手法
本発表では、リアルタイムで震源距離とマグニチュードを推定し、鉄道沿線から何km離れた地点でどの程度のマグニチュードの地震が生じたか算出する手法の開発を実施した。また、早期警報に使用するために、計算コストをできるだけ抑えることにも注意した。Yin et al. (2023) において、DASで計測されたひずみ速度と、マグニチュードおよび震源距離の回帰式が示されている。九州新幹線沿線のDAS観測で取得した地震データの最大ひずみ速度と、震源距離、気象庁マグニチュードの値を用いて、上記回帰式のパラメータを設定し、九州新幹線沿線のDASデータにおけるマグニチュードスケーリング式を取得した。次に、震源距離をリアルタイムで推定するために、STA/LTAを基本としたP波到来時刻およびS波到来時刻をロバストにリアルタイムで決定する手法を開発した。読み取ったS波とP波の到来時刻差から震源距離を推定する。また最初にP波を検知したチャンネルから両側数キロのデータのみを用いることで即時性を維持した。
結果・考察
観測期間中に発生したMj2.5以上、震源距離150km以下で発生した地震データ(地震数は10)に対し開発した手法を適用した。DASで推定したマグニチュード(Mdas)と気象庁マグニチュードを比較すると、今回対象とした地震では、2022年1月22日に日向灘で発生したMj6.6の地震を除き、±0.5程度の誤差でMdasを推定していることがわかった。Mj6.6の地震のMdasの推定結果は、S波の到来時刻が正確に決定できていないことで震源距離が小さく求まり、Mdasを大きく過小評価していた。これは、cycle skippingの影響でP波とS波のひずみ速度値の差が小さかったことが原因である。今後は、追加観測を実施することでDASによる地震データを増やすことや、P波のみの情報で地震諸元を推定する手法の開発等に注力する。