1:30 PM - 1:45 PM
[S02-11] Development of seafloor deep borehole long-term observation system and the deployment plan in the Nankai Trough.
南海トラフ沈み込み地震発生帯の熊野灘にIODPで設置された海底深部長期孔内観測システムによって、浅部沈み込みプレート境界域で発生するゆっくり滑りの発生が明らかとなった。海底ケーブルに接続した3点の長期孔内観測システムにより、浅部ゆっくり滑りのモニタリングがなされるようになった。一方、南海トラフの広域では、GNSS/Aなどにより、ゆっくり滑りの発生が示唆される地域もあり、VLFE等からゆっくり滑りの発生も示唆される一方、高感度かつリアルタイムな海底地殻変動観測点がないため、浅部ゆっくり滑りの発生時系列は広い領域で今なお不明である。 そこで、私たちは、広域での浅部ゆっくり滑りの発生を捉えることを目指し、熊野灘でのIODP長期孔内観測システムでの観測の経験を踏まえ、広域で浅部ゆっくり滑りを捉えることが期待できる新たな長期孔内観測システムを開発した。現在、紀伊水道沖、四国沖、日向灘のゆっくり滑りの発生が期待できる地域計3か所への設置展開を年次的に計画しており、紀伊水道沖への最初の設置とDONETへの接続・連続観測開始を2023年11月「ちきゅう」航海~2023年12月新青丸航海での実施を予定している。最初の設置にあたり、ゆっくり地震の発生状況、地殻構造探査データや、海底調査データを検討し、掘削点をDONET-2Fノードの南方およびDONET-2Gノードの近傍に選定し、「ちきゅう」航海の実施へ向けて現在準備を進めている。 開発した長期孔内観測システムは、海域で高感度にゆっくり滑り、VLFE, 低周波微動~地震を捉えるため、海底下の堆積層500m程度まで掘削した孔内で間隙水圧と歪を広帯域で計測するものである。間隙水圧はこれまで熊野灘に設置したものと同様の仕組みであるが、歪は、孔内にセメント固定したコイル状の200m長の光ファイバーケーブルの伸縮を基準長光ファイバーと光干渉法により比較計測する方式の「孔内光ファイバー歪計」を新たに開発・採用した。この新開発の孔内光ファイバー歪計によって、微小地震~ゆっくり滑りに伴うゆっくりとした歪変動を高感度に観測できると同時に、巨大地震のような大きな歪変動に対しても振り切れず忠実に観測が可能となる。光ファイバー歪計は、孔内には光ファイバー部品のみを配置することによって、耐故障性を高めた。孔内の同一測定区間には温度応答の異なる同等の歪計用光ファイバーが2式孔内設置され、冗長構成とするとともに、計測歪への孔内温度変化の影響を取り除くことができるようにした。孔内間隙水圧および孔内光ファイバー歪計は、DONET孔内インターフェースを通じDONETに接続することで、長期・リアルタイム観測を行う。 今回の開発では、孔内光ファイバー歪計の計測区間に並行した、光ファイバーセンシングを行える光ファイバーも巻線した。この光ファイバーは200mの外界歪と温度変動に応答する部分と400mの温度変動のみに応答する部分から構成されており、海底から孔内へ接続する光ファイバーと合わせ、DAS(地震)やTW-COTDR(歪・温度)、DTS(温度)等の様々な方式で孔内光ファイバー計測が行えるものである。今後、「ちきゅう」や「新青丸」航海中、船上の光ファイバー観測装置を孔内ファイバーに接続し観測を試みる予定である。また、将来的には、海底で動作する光ファイバー観測装置を開発・設置し、連続的な光ファイバー観測を実施する計画である。 海底孔内への設置に先立ち、岐阜県神岡鉱山内に新たな海底長期孔内観測システムと同等の模擬観測システムの設置を2023年3月に実施し、現在試験検証観測を行っている。間隙水圧・孔内光ファイバー歪計による観測と並行して、DAS及びTW-COTDR技術による光ファイバーセンシングを実施し、光ファイバーの外界歪に応答する部分で光ファイバー歪計と同等の地震・歪変動の観測が行えるほか、温度のみに応答する部分により、周囲温度変動の高分解能な計測が行えることが確認できた。また、TW-COTDRでの10cm分解能の稠密な観測データからは、光ファイバーセンシングによって孔内多成分歪の観測が実施しうることを示す結果が得られた。