The 2023 SSJ Fall Meeting

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Poster session (Sept. 17th)

Regular session » S02. Seismometry and monitoring system

[S02P] PM-P

Wed. Nov 1, 2023 5:00 PM - 6:30 PM Room P12 (F203) (Hall Annex)

[S02P-04] Observation of P-wave polarity with DAS recordings along Route 9

*Yuki Funabiki1, Masatoshi Miyazawa1 (1. Kyoto University)

1. はじめに
光ファイバーを分布型ひずみセンサーとするセンシング技術、通称DAS(Distributed Acoustic Sensing)が、地震学における観測技術として近年急速に広まっている。DASとは光ファイーバーケーブル内を伝播するレーザー光の後方散乱の位相を測定し、地震波動場によってケーブルに引き起こされる軸ひずみを計測する新技術であり、近年地震観測にも応用され始めている。DASにおいては、ケーブル自体が地震計として機能し、ケーブル沿いの任意の区間を地震計と同等に扱える。このために、地震計をおよそ数km~数十kmおきに一点ずつ設置する必要はなく、超高密度に地震波動場を捉えることが可能になっている。
このDASの非常に高い空間分解能を生かし、様々な地震学的研究が進められている。Li et al., 2021では、標準的なカタログの6倍の余震を検出した。Nishimura et al., 2021では火山性地震の震源位置を決定した。Fukushima et al., 2022では地震波干渉法をDAS記録に適用し、三陸沖のVs構造とVp/Vs構造を推定した。
また、DASを用いて震源メカニズムを推定する研究も試みられている。初動発信機構解を得るためにはP波初動極性を求める必要があり、従って、初動P波極性の読み取りが震源メカニズムの研究には必要である。Li et al., 2023では、隣り合うDAS観測点同士の相互相関を取り、その正負をもって相対極性を判断し、これを繋ぎ合わせることで、全てのチャンネルでの一貫した極性を導き出し、全体の正負の補正を光ファイバーケーブルの近くの地震計の上下成分記録極性ピックにより行った。
DASを用いて震源メカニズムの研究を行うにあたって、いくつかの問題がある。第一のネックは、DASにおける実体波のS/N比の悪さにある。既に敷設されている光ファイバーケーブルを用いる場合、DAS記録は周囲のノイズの影響を受けやすくなる。特に、例えば日本の旧一級国道の場合は交通ノイズが大きい。第二に、光ファイバーケーブルのジオメトリの複雑さにある。特に地上から光ファイバーが見えない場合、その経路を直接は確認できず、そのため、それぞれのDAS観測点の位置がおおまかにしか特定できない。第三に、DASが見ているのがレーザー光の後方散乱の位相差だという点にある。位相変化を見るので、-πからπの変化しか分からず、従って光の波長以上の長さの変位が生じると、サイクルスキップが発生してしまう。このために、DASで大きな信号を読み取ることが困難となっている。
今回、我々はこれまでに比べ高い時空間サンプリング間隔でDAS記録を取ることで、目視で確認できる程度のP波の波形を得た。以下ではその手法及び結果について記す。
2. 手法
今回我々が使用した光ファイバーケーブルは国道9号沿いに設置されており、国土交通省京都事務所から京丹波町役場前までの約50000mの長さに及ぶ。これを用いて、京都府南部の地殻内にて2022年10月19日の11:00と11:02にそれぞれ発生したM3.2とM3.4の地震を観測した。なお、我々が今回使用したDAS記録はゲージ長、空間サンプリング間隔ともに約5m、時間サンプリング間隔500Hzと、いずれもこれまでの地震観測に用いられてきたDAS記録に比べて短く、サイクルスキップ(本研究の場合、±約30με/secを超えるとサイクルスキップが発生する)が起きにくい。
前処理について。P波が到達した時刻を含む2秒間における連続波形から地震波を取り出すため、0.5~8Hzの範囲でバターワースフィルタをかけた。そして、波形のS/N比を上げるため、隣り合う10の観測チャネル同士で波形をスタックした。この際に、ノイズが多いチャネルの影響を排除するため、地震発生前の各チャネルのノイズを計測し、その絶対量がある一定の値を超える観測チャネルに関しては、スタックから取り除いた。また、ジオメトリの複雑性を排除するため、今回観測した2つの地震の距離が近いことを踏まえ、隣り合うチャネルのうち、その波形の相互相関係数がM3.2とM3.4いずれの地震に対しても負の値を取るチャネルに関しては、P波初動の正負の入れ替わりではなくジオメトリによるものと考え、それらの観測チャネルを合わせる形でのスタックは行わなかった。
3. 結果
そして、代表するいくつかのスタックされたチャネルにおいて、震源メカニズムにおける理論予測と観測波形に基づく極性を比較した。その結果、波形を目視で確認できる範囲では、理論予測と観測波形の極性の正負が概ね一致することを確認した。一方、P波の読み取りが難しい信号も一定数存在したが、これについては周囲のDAS記録とも照合した結果、車によるノイズが影響するものと思われる。
この結果は、S/Nが良い場合、DASの波形を直接観測することで震源メカニズムの推定が可能であることを示唆している。今後はスタックした全てのチャネルについて初動極性を確認したい。
謝辞 本測定に際し、京都国道事務所より光ファイバーケーブルをお借りしました。本研究はJSPS科研費JP21K18748の助成を受けたものです。