10:15 〜 10:30
[S03-02] 喜界島の完新世海岸段丘の数値シミュレーション:地震発生時期と 地形変動の相互作用に基づく地殻変動史の解明
南西諸島地域では、東側から沈み込んでいるフィリピン海プレートの影響により巨大地震の発生が危惧されているが、明瞭な地震の痕跡が少ないために地震の発生ポテンシャルの評価は困難とされている。その中でも喜界島の完新世海岸段丘は地震の痕跡として指摘され、この段丘上のサンゴ化石の放射年代を用いて海水準変動や各段丘面の形成期間について現在に至るまで議論が行われている。喜界島は海溝の近くに位置することや奄美海台が沈み込んでいる影響で、鉛直方向の変動の時間変化は複雑であり、さらに海岸付近の地形の侵食や堆積、サンゴの生育といった海岸段丘の形成プロセスとが共に密に関係しているため、未だに喜界島の地殻変動史は明らかになっていない。本研究では地震学・地質学を踏まえ、喜界島の4段の海岸段丘を数値シミュレーションによって再現することを目的とし、その結果から喜界島の地殻変動史を明らかにすることで、南西諸島における地震活動の推定やそれを元にした防災計画の策定に寄与すると考えられる。
本研究では、喜界島の海岸段丘が奄美海台による沈み込みと海溝型地震から構成される隆起モデルと沿岸付近の侵食等の相互作用であるとして地形の時間発展をモデル化した。シミュレーションには、地形の侵食速度・堆積速度・サンゴの成長速度をそれぞれStorms et al. (2002)、Noda et al. (2018)、Shikakura (2014)、地殻の隆起速度については伊藤・他 (2015)の手法を採用した。海水準変動速度は6~8 kaの間に11 m上昇して現水準に達し、それ以降は変動がないものと仮定した。初期地形として、Webster et al. (1998)のボーリング結果と、8000年以前は海水準がかなり低い位置にあり、波や生物等の影響を受けないと仮定し、一様に3°傾いた地形を採用した。各時間ステップでの各変動速度を場所ごとに計算して積算することで地形の時空間発展を計算し、8000年間の地形変化量と現在の地形とを比較することでモデルの検証を実施した。
本研究では、多くの先行研究で推定された地震発生時期データに基づき、4回の地震発生時期を可能な範囲において変更し、有限要素法を用いて得られた粘弾性応答を考慮した隆起モデルを採用し、それに基づき評価した。沿岸プロセスモデルにおいても、最大侵食速度、波浪の陸側到達限界、サンゴの最大成長速度の3つのパラメータを変更し、算出した隆起モデルと組み合わせてグリッドサーチ的な数値解析法により最適な3つのパラメータの推定を実施した。 2023年日本地球惑星科学連合大会での発表時点では、4段の海岸段丘の再現には至らなかったが、形成されない原因を地震発生時期にあるとし、2回目の地震の発生年を、1回目と3回目の地震の発生時期の間、つまり3600〜5300年前で変更することによって4段の海岸段丘の再現が可能になった(図)。また、1回目の地震の発生時期によってはⅠ面が残存しない事象が生じたが、同様に6050〜6250年前の間で数値シミュレーションを行うことによってⅠ面が残存する閾値についても特定することができた。これらの結果から、喜界島における海岸段丘面の形成に必要な地震のマグニチュードや地震発生時期の推定が可能であることが示された。さらに、マントルの粘性率を1.0×1020〜2.0×1019 Pa・sの間で変更させつつ、沿岸プロセスの3パラメータを変更して網羅的に解析を行った。この解析により、より現実的なパラメータの推定が可能となる見通しが得られた。今後の研究では、これらの考察を基に粘性率や侵食速度の推定などを行い、関連する条件について詳細な考察を進める予定である。
本研究では、喜界島の海岸段丘が奄美海台による沈み込みと海溝型地震から構成される隆起モデルと沿岸付近の侵食等の相互作用であるとして地形の時間発展をモデル化した。シミュレーションには、地形の侵食速度・堆積速度・サンゴの成長速度をそれぞれStorms et al. (2002)、Noda et al. (2018)、Shikakura (2014)、地殻の隆起速度については伊藤・他 (2015)の手法を採用した。海水準変動速度は6~8 kaの間に11 m上昇して現水準に達し、それ以降は変動がないものと仮定した。初期地形として、Webster et al. (1998)のボーリング結果と、8000年以前は海水準がかなり低い位置にあり、波や生物等の影響を受けないと仮定し、一様に3°傾いた地形を採用した。各時間ステップでの各変動速度を場所ごとに計算して積算することで地形の時空間発展を計算し、8000年間の地形変化量と現在の地形とを比較することでモデルの検証を実施した。
本研究では、多くの先行研究で推定された地震発生時期データに基づき、4回の地震発生時期を可能な範囲において変更し、有限要素法を用いて得られた粘弾性応答を考慮した隆起モデルを採用し、それに基づき評価した。沿岸プロセスモデルにおいても、最大侵食速度、波浪の陸側到達限界、サンゴの最大成長速度の3つのパラメータを変更し、算出した隆起モデルと組み合わせてグリッドサーチ的な数値解析法により最適な3つのパラメータの推定を実施した。 2023年日本地球惑星科学連合大会での発表時点では、4段の海岸段丘の再現には至らなかったが、形成されない原因を地震発生時期にあるとし、2回目の地震の発生年を、1回目と3回目の地震の発生時期の間、つまり3600〜5300年前で変更することによって4段の海岸段丘の再現が可能になった(図)。また、1回目の地震の発生時期によってはⅠ面が残存しない事象が生じたが、同様に6050〜6250年前の間で数値シミュレーションを行うことによってⅠ面が残存する閾値についても特定することができた。これらの結果から、喜界島における海岸段丘面の形成に必要な地震のマグニチュードや地震発生時期の推定が可能であることが示された。さらに、マントルの粘性率を1.0×1020〜2.0×1019 Pa・sの間で変更させつつ、沿岸プロセスの3パラメータを変更して網羅的に解析を行った。この解析により、より現実的なパラメータの推定が可能となる見通しが得られた。今後の研究では、これらの考察を基に粘性率や侵食速度の推定などを行い、関連する条件について詳細な考察を進める予定である。