日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

C会場

一般セッション » S03. 地殻変動・GNSS・重力

[S03] AM-2

2023年10月31日(火) 11:00 〜 12:15 C会場 (F202)

座長:富田 史章(東北大学)、大塚 英人(東北大学)

11:00 〜 11:15

[S03-04] 東北地方太平洋沖地震後の地震波減衰の時間変化

*手老 勇登1、中島 淳一1 (1. 東京工業大学)

東北地方太平洋沖地震では,東北地方の太平洋沿岸で最大で5 m,震源近くの海底では50 m程度の東向き水平移動が観測され,その後陸上は年間数cm~数十cmずつ東へ移動している.しかし,海底の水平変位は陸上とは逆の西向きを示しており,両者を説明するためにはアフタースリップと粘弾性緩和の両方が必要である.一方,アフタースリップと粘弾性緩和の地表変位に対する寄与はトレードオフの関係にある.従って,地表変位観測のみでは粘弾性緩和とアフタースリップの大きさを同定できないという問題を抱えている.本研究はそのようなトレードオフに対し,地震波減衰の時間変化の解析から観測的制約を与えることを目的とした.

 主に宮城県沖で2011-2019年に発生したM3.0-6.5の東北沖地震の余震約2600個を解析対象とした.その約2600個の内,古いものから1200個を選び1つ目のデータセットとした.まず,データセットの中で震源が5 km以内にある地震ペアを選択し,同一観測点における P 波初動のスペクトル比を計算した.次にそのスペクトル比を理論的な震源スペクトルで補正した後,2つの地震の観測走時の平均で割り算して震源距離の影響を取り除いた.最後に,スペクトル比の分母の地震が分子よりも必ず古くなるような全ての地震ペアをスタックすることで観測スペクトル比を計算し,それに理論スペクトル比をフィッティングした.もし2つの地震間で減衰が変化していなければスペクトル比の傾きはゼロになるのに対し,時間変化があると正(減衰が徐々に小さくなる場合)または負(減衰が徐々に大きくなる場合)の傾きを持つ.本研究ではスペクトル比の傾きから減衰の時間変化を推定した.以上の操作を,データセットの1200個の地震を古い順に10個ずつ入れ替えながら計140回行った.

 得られた結果は,本震直後は減衰の減少量が大きく,時間の経過に伴い変化量が小さくなることを示している.この減衰の変化が東北沖地震後の粘弾性緩和を反映していると仮定すると,本震直後に減衰が急上昇した後,指数関数的に減少したことになる.この現象の緩和時間を求めるためにフィッティングをしたところ,単一の緩和時間では説明できず,少なくとも2つの緩和時間(約3ヶ月,約3年)が必要であることが判明した.この結果は2つ,もしくはそれ以上の時定数を持つ緩和現象が進行していたことを示唆している.