11:30 AM - 11:45 AM
[S03-06] Estimate the interplate coupling around the Southern Kuril Trench
千島海溝南部は太平洋プレートがオホーツクプレートの下に沈み込む沈み込み帯で、1952年十勝沖地震や1969年北海道東方沖地震などのM8クラスのプレート境界地震が発生している。地震本部の長期評価による30年以内発生確率は、M8.8以上の超巨大地震で7-40%、根室沖のM8クラスでは80%程度と高い状態となっている。沈み込み帯においては、プレート収束速度とすべり遅れの比をとることでプレート間の固着率を推定する考え方(Savage,1983)が知られている。しかし、千島海溝南部における地殻変動データは地上観測が主であり、海溝付近のプレート境界から比較的浅い部分に関しては、地上観測点から距離があるため、解像度の低さや値の不確実性の高さが課題となっている。
よって、本研究では応力拘束を伴うインバージョン手法 (Lindsey et al.(2021))を用い、千島海溝付近における、プレート境界浅部まで高い解像度を維持したプレート間固着度の推定に取り組んだ。これは、地震間期を通してプレート間に蓄積する応力は非負であるという拘束を指し、設定期間に短期的なSSE等の応力を解放するイベントを含んでいても、時系列をある程度長くとれば、応力の解放が蓄積を上回ることはないという仮定に基づいている。当該研究においては、海岸から離れたプレート境界浅部におけるプレート間固着度の不確実性が大幅に低減された。今井・他(2022,地震学会)では、同手法によって、2003年十勝沖地震の前後で十勝沖付近の海溝付近において固着度の低下がみられたことなど、海溝付近での固着の度合について先行研究と比較した。本発表では、計算範囲をより東側に拡張することによって、得られる結果の違いや海底局のデータ有無によるデータ不確実性の違いなどについて報告する。
今井・他(2022,地震学会)において示した結果は、Lindsey et al. (2020)が公開しているMatlabプログラムに内包されたプレート境界モデルをそのまま流用したものであったが、東端が根室沖をカバーしていなかったため、Lindsey(2020)が公開したslabmeshを用いて、新たにslab2モデルより千島海溝南部を広くカバーした三角メッシュの構築を試みた。インバージョン計算においては、南から境界面の一番浅い点を海溝軸からの深さが0kmと定義し、モデル中の最深部はプレート境界の地表からの深さ100kmとした。0kmと100kmの定義が異なることには注意が必要である。緯度の違いによる平面距離の違いや、実際のプレート境界面形状は頂点の決定の際には考慮していないため、メッシュの面積は均一ではない。
入力する変位速度データとして、国土地理院電子基準点日々座標値のF5解を時系列の東西、南北、上下変位に変換した上で期間を①2003年十勝沖地震前(1996~2003)、②2011年東北沖地震前(2006~2011)、③2011年東北沖地震後(2014~2019)、④直近4年間(2019~2023)の4つの期間に分けた。期間設定については、各地震の余効変動の影響を考慮して、地震後3年の時間を空けている。年周・半年周運動の影響を除外した直線近似の傾きを変位速度(mm/yr)とした。F5解はITRF14に準拠しており、北米プレート準拠の基準系に変換するため、plate motion calculator(UNAVCO web site)を用いて各観測点の北米プレートによる理論変位を計算して速度ベクトルを平行移動させて入力に用いる変位速度を導出した。
推定された固着分布は、プレート境界モデルの変更前と比較し、根室沖で顕著な違いがみられた。2003年十勝沖地震の前後では、根室沖深部の固着度は低い状態を維持した一方、浅部では高い状態を維持した。また、2011年東北沖地震以降では根室沖の固着度の高い領域は拡大している結果となった。プレート境界モデルの変更前後でモデルの適合性について調べるため、予測された地表の変位速度と実測の速度の残差を比較したところ、変更後のモデルは根室地方で有意に小さい値を取った。また、平滑性制約のパラメータを変更し、ABICが最小となるパラメータから10%以内の数値で計算を行った際、メッシュ1区画ごとに固着度の取りうる最大・最小の差を不確実性として算出したところ、変更後のモデルでは、GEONETの観測点東端(根室)から離れた東経147度以東で顕著に上昇し、以西では低い値を取った。これらの結果から、変更後のモデルは観測結果をよりよく説明し、根室沖までの計算結果は、より南部の十勝沖等と同様に評価できることが示された。
期間設定によって2003年および2011年の各地震の余効変動の影響を回避しようと試みたが、考慮が十分ではない可能性がある。今後は余効変動の影響を除去し、時間分布の推定精度向上を図る予定である。
よって、本研究では応力拘束を伴うインバージョン手法 (Lindsey et al.(2021))を用い、千島海溝付近における、プレート境界浅部まで高い解像度を維持したプレート間固着度の推定に取り組んだ。これは、地震間期を通してプレート間に蓄積する応力は非負であるという拘束を指し、設定期間に短期的なSSE等の応力を解放するイベントを含んでいても、時系列をある程度長くとれば、応力の解放が蓄積を上回ることはないという仮定に基づいている。当該研究においては、海岸から離れたプレート境界浅部におけるプレート間固着度の不確実性が大幅に低減された。今井・他(2022,地震学会)では、同手法によって、2003年十勝沖地震の前後で十勝沖付近の海溝付近において固着度の低下がみられたことなど、海溝付近での固着の度合について先行研究と比較した。本発表では、計算範囲をより東側に拡張することによって、得られる結果の違いや海底局のデータ有無によるデータ不確実性の違いなどについて報告する。
今井・他(2022,地震学会)において示した結果は、Lindsey et al. (2020)が公開しているMatlabプログラムに内包されたプレート境界モデルをそのまま流用したものであったが、東端が根室沖をカバーしていなかったため、Lindsey(2020)が公開したslabmeshを用いて、新たにslab2モデルより千島海溝南部を広くカバーした三角メッシュの構築を試みた。インバージョン計算においては、南から境界面の一番浅い点を海溝軸からの深さが0kmと定義し、モデル中の最深部はプレート境界の地表からの深さ100kmとした。0kmと100kmの定義が異なることには注意が必要である。緯度の違いによる平面距離の違いや、実際のプレート境界面形状は頂点の決定の際には考慮していないため、メッシュの面積は均一ではない。
入力する変位速度データとして、国土地理院電子基準点日々座標値のF5解を時系列の東西、南北、上下変位に変換した上で期間を①2003年十勝沖地震前(1996~2003)、②2011年東北沖地震前(2006~2011)、③2011年東北沖地震後(2014~2019)、④直近4年間(2019~2023)の4つの期間に分けた。期間設定については、各地震の余効変動の影響を考慮して、地震後3年の時間を空けている。年周・半年周運動の影響を除外した直線近似の傾きを変位速度(mm/yr)とした。F5解はITRF14に準拠しており、北米プレート準拠の基準系に変換するため、plate motion calculator(UNAVCO web site)を用いて各観測点の北米プレートによる理論変位を計算して速度ベクトルを平行移動させて入力に用いる変位速度を導出した。
推定された固着分布は、プレート境界モデルの変更前と比較し、根室沖で顕著な違いがみられた。2003年十勝沖地震の前後では、根室沖深部の固着度は低い状態を維持した一方、浅部では高い状態を維持した。また、2011年東北沖地震以降では根室沖の固着度の高い領域は拡大している結果となった。プレート境界モデルの変更前後でモデルの適合性について調べるため、予測された地表の変位速度と実測の速度の残差を比較したところ、変更後のモデルは根室地方で有意に小さい値を取った。また、平滑性制約のパラメータを変更し、ABICが最小となるパラメータから10%以内の数値で計算を行った際、メッシュ1区画ごとに固着度の取りうる最大・最小の差を不確実性として算出したところ、変更後のモデルでは、GEONETの観測点東端(根室)から離れた東経147度以東で顕著に上昇し、以西では低い値を取った。これらの結果から、変更後のモデルは観測結果をよりよく説明し、根室沖までの計算結果は、より南部の十勝沖等と同様に評価できることが示された。
期間設定によって2003年および2011年の各地震の余効変動の影響を回避しようと試みたが、考慮が十分ではない可能性がある。今後は余効変動の影響を除去し、時間分布の推定精度向上を図る予定である。