12:00 〜 12:15
[S03-08] OBPデータに対するPCA適用によるSSE検出能力の事例研究―ヒクランギ沖,アラスカ半島沖の場合―
海底水圧計 (Ocean Bottom Pressure gauge; 以下,OBP) は海底の地殻変動場を連続的に観測できるセンサである.その一方,特にスロースリップイベント (Slow Slip Event; SSE) 等の非定常地殻変動の抽出には,その時定数の近さから非潮汐海洋変動の適切な評価,除去が重要となる.Otsuka et al. (EPS, 2023) は,DONET OBPデータに主成分分析 (Principal Component Analysis; PCA) を適用した.その結果,水深方向に反相関する海洋変動成分が第2主成分 (PC2) に現れ,OBPデータに含まれる海洋変動成分の水深依存性を反映することを示した.また,SSEに起因する地殻変動成分を模した信号をOBP時系列に重畳させ,その時系列にPCAを適用することで, 地殻変動成分を含む主成分がその振幅に応じて変化することを見出した.さらに,基準の主成分からの変化を規格化内積値 (Normalized Inner Product; NIP) を用いて評価することで,定常的な海洋変動と異なる現象を検出する手法を提案した.また,海洋変動の空間的特徴が時間的に安定していれば,時系列を任意の時間幅毎に切り出し,それを用いることで実データからNIPによる非定常イベントが検出可能なことを示した.一方で,実際のDONET OBPデータからSSEを検出した例は示すことができていない.また,海洋変動の空間的特徴は海域毎に異なる (e.g., Dobashi and Inazu, 2021) ことから,NIPを用いた非定常イベントの検出手法が適用可能かまでは明らかになっていない.そこで本研究では,同手法によるデータから実際の非定常イベントの検出可能性を評価し,同手法の他海域での性能評価をNIP変化を用いることで実施した.
本研究では,事例研究としてOBPに基づくSSE検出の報告例があるニュージーランド ヒクランギ沖 (HOBITSS) (e.g., Wallace et al., 2016; Muramoto et al., 2019) およびアラスカ半島沖 (AACSE) (e.g., He et al., 2023) のOBPデータを用い,その海洋変動の特徴とNIP手法の性能評価を実施した.本研究で用いたHOBITSSは2014年5月〜2015年6月の14観測点,AACSEは2018年5月〜2019年8月の21観測点をそれぞれ用いた.HOBITSS,AACSE観測網データはIRISからダウンロードした.OBPデータはオリジナルのデータを平均化処理により1時間値にダウンサンプリングしたのち,含まれる潮汐成分は潮汐除去フィルタ,機器ドリフト成分は指数関数と線形近似を用いそれぞれ除去した.これら事前処理後のデータに対し,PCAを適用した.HOBITSS,AACSEともに水深200m以浅の陸棚上観測点と2,000m以深の観測点が含まれる.特に陸棚上の浅部観測点に含まれる海洋変動の振幅は相対的に大きい (e.g., Fredrickson et al., 2023) ことから,浅部観測点の振幅の影響を低減させるために,荷重PCA (Weighted-PCA; WPCA) を用いた.さらに,非定常イベント検出においては,時系列全体のPCの空間分布を,20または30日の時定数で切り出した時系列でのPCの空間分布と比較することでNIPの変動を調べた.同時定数は,先行研究で検出されたSSEの時定数 (20〜30日) を考慮し設定した.
HOBITSS,AACSEにW-PCAを適用した結果,DONETと同様に共通成分がPC1,傾斜成分がPC2に見られた.そのため,DONETでみられた海洋変動の水深依存をもつ特徴はこれら異なる海域でも共通であることが明らかとなった.一方で主成分毎の寄与率はAACSEで大きく異なったが,これは観測網の形状や空間分布に基づく可能性がある.海洋変動の空間分布の時間変化および先行研究でSSEが検出された期間でのNIP変動を調べた.その結果,SSE期間で極端なNIPの低下はどちらの観測網でも見られなかった.これは,観測点形状および地殻変動の空間分布により,PCAで適切に非定常地殻変動を分離できなかった可能性がある.一方,NIPでは非定常イベントを検出できることから,それらには地殻変動以外が含まれうる.そこで,NIPの変化が大きかった時点での各PCの空間分布についても比較する必要がある.発表では,SSE期間を中心にNIP変化に基づき,これら観測網での非定常地殻変動,および海洋変動の特徴について詳細に報告する.
本研究では,事例研究としてOBPに基づくSSE検出の報告例があるニュージーランド ヒクランギ沖 (HOBITSS) (e.g., Wallace et al., 2016; Muramoto et al., 2019) およびアラスカ半島沖 (AACSE) (e.g., He et al., 2023) のOBPデータを用い,その海洋変動の特徴とNIP手法の性能評価を実施した.本研究で用いたHOBITSSは2014年5月〜2015年6月の14観測点,AACSEは2018年5月〜2019年8月の21観測点をそれぞれ用いた.HOBITSS,AACSE観測網データはIRISからダウンロードした.OBPデータはオリジナルのデータを平均化処理により1時間値にダウンサンプリングしたのち,含まれる潮汐成分は潮汐除去フィルタ,機器ドリフト成分は指数関数と線形近似を用いそれぞれ除去した.これら事前処理後のデータに対し,PCAを適用した.HOBITSS,AACSEともに水深200m以浅の陸棚上観測点と2,000m以深の観測点が含まれる.特に陸棚上の浅部観測点に含まれる海洋変動の振幅は相対的に大きい (e.g., Fredrickson et al., 2023) ことから,浅部観測点の振幅の影響を低減させるために,荷重PCA (Weighted-PCA; WPCA) を用いた.さらに,非定常イベント検出においては,時系列全体のPCの空間分布を,20または30日の時定数で切り出した時系列でのPCの空間分布と比較することでNIPの変動を調べた.同時定数は,先行研究で検出されたSSEの時定数 (20〜30日) を考慮し設定した.
HOBITSS,AACSEにW-PCAを適用した結果,DONETと同様に共通成分がPC1,傾斜成分がPC2に見られた.そのため,DONETでみられた海洋変動の水深依存をもつ特徴はこれら異なる海域でも共通であることが明らかとなった.一方で主成分毎の寄与率はAACSEで大きく異なったが,これは観測網の形状や空間分布に基づく可能性がある.海洋変動の空間分布の時間変化および先行研究でSSEが検出された期間でのNIP変動を調べた.その結果,SSE期間で極端なNIPの低下はどちらの観測網でも見られなかった.これは,観測点形状および地殻変動の空間分布により,PCAで適切に非定常地殻変動を分離できなかった可能性がある.一方,NIPでは非定常イベントを検出できることから,それらには地殻変動以外が含まれうる.そこで,NIPの変化が大きかった時点での各PCの空間分布についても比較する必要がある.発表では,SSE期間を中心にNIP変化に基づき,これら観測網での非定常地殻変動,および海洋変動の特徴について詳細に報告する.