[S03P-03] 南海トラフ域でのプレート境界深部において発生した短期的ゆっくりすべりの特徴とその整理について
1.はじめに
気象庁では、南海トラフ域でのプレート境界深部において発生した短期的ゆっくりすべりについて、ひずみ波形に変化が見られた期間におけるひずみ変化量から断層モデルを解析し、南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会等で結果を報告している。2011年から2022年までに、現在の手法により短期的ゆっくりすべりを解析した事例は250件を超えた。短期的ゆっくりすべりの断層モデルの特徴などを整理し、領域ごとの発生間隔や地震モーメントの積算などを統計的に把握することは、南海トラフ域での地殻変動等の監視にとって重要である。本発表では、これらの現時点での整理結果に基づいて、その特徴等を調査したので報告する。
2.手法
本調査における短期的ゆっくりすべりの解析では、産業技術総合研究所の手法(大谷・板場, 2013, 地質調査研究報告)と同様に、すべり位置の推定を2段階で行っており、第一段階の推定では断層位置とすべり量をグリッドサーチにより求めている。このとき、断層サイズは幅・長さともに20kmとし、深さはプレート境界に固定している。プレート境界は、Hirose et al.(2008, JGR)を基にしており、走向・傾斜はこの情報に基づきグリッドごとに設定している。すべり角は、フィリピン海プレートの沈み込みの向きと反対方向のすべりとなるようにグリッドごとに設定している。第二段階の推定では、第一段階で求まったグリッド位置から、あらかじめ設定した範囲で断層中心位置を動かすとともに断層パラメータ(走向・傾斜・すべり角・断層幅・長さ・すべり量)も一定範囲で動かし、理論変化量と観測値の決定係数を評価関数としたSCE-UA(Shuffled Complex Evolution method developed at the University of Arizona)法(Duan et al. 1992, Water Resource Research;田齋・他, 2006, 九大農学芸誌)を用いて最適なパラメータを推定している。第一、第二段階ともに、断層モデルは矩形断層の一様なすべりを仮定している。統計的に整理するにあたっては、深部低周波地震(微動)の群発的な活動領域を基に、ひずみ波形変化の特徴や断層モデルの中心位置などによって領域分け(長野県南部や愛知・長野県境など)を行っている。
3.結果・考察
各領域において、断層サイズやすべり量から計算した地震モーメントの積算では、多くの領域で時間経過とともに積算値が線形に増加する傾向が見られた。ただし、隣接する領域と同時期に短期的ゆっくりすべりが発生することが多い領域(愛知県東部と愛知県中部など)では、地震モーメントの積算の増加傾向にばらつきが見られた。これは複数領域で発生した短期的ゆっくりすべりが1つの領域の短期的ゆっくりすべりとして解析されたことに起因すると推測される。また、多くの領域で短期的ゆっくりすべりの規模とすべり量には相関が見られたが、規模と断層サイズについては明瞭な相関が見られなかった。
今回のような解析結果の整理は、発生した短期的ゆっくりすべりと過去の活動との規模や発生間隔などの定量的な比較が容易となるなど、より客観的な評価に資するものである。
4.謝辞
本調査には、静岡県及び産業技術総合研究所のひずみ計データを使用させていただきました。
気象庁では、南海トラフ域でのプレート境界深部において発生した短期的ゆっくりすべりについて、ひずみ波形に変化が見られた期間におけるひずみ変化量から断層モデルを解析し、南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会等で結果を報告している。2011年から2022年までに、現在の手法により短期的ゆっくりすべりを解析した事例は250件を超えた。短期的ゆっくりすべりの断層モデルの特徴などを整理し、領域ごとの発生間隔や地震モーメントの積算などを統計的に把握することは、南海トラフ域での地殻変動等の監視にとって重要である。本発表では、これらの現時点での整理結果に基づいて、その特徴等を調査したので報告する。
2.手法
本調査における短期的ゆっくりすべりの解析では、産業技術総合研究所の手法(大谷・板場, 2013, 地質調査研究報告)と同様に、すべり位置の推定を2段階で行っており、第一段階の推定では断層位置とすべり量をグリッドサーチにより求めている。このとき、断層サイズは幅・長さともに20kmとし、深さはプレート境界に固定している。プレート境界は、Hirose et al.(2008, JGR)を基にしており、走向・傾斜はこの情報に基づきグリッドごとに設定している。すべり角は、フィリピン海プレートの沈み込みの向きと反対方向のすべりとなるようにグリッドごとに設定している。第二段階の推定では、第一段階で求まったグリッド位置から、あらかじめ設定した範囲で断層中心位置を動かすとともに断層パラメータ(走向・傾斜・すべり角・断層幅・長さ・すべり量)も一定範囲で動かし、理論変化量と観測値の決定係数を評価関数としたSCE-UA(Shuffled Complex Evolution method developed at the University of Arizona)法(Duan et al. 1992, Water Resource Research;田齋・他, 2006, 九大農学芸誌)を用いて最適なパラメータを推定している。第一、第二段階ともに、断層モデルは矩形断層の一様なすべりを仮定している。統計的に整理するにあたっては、深部低周波地震(微動)の群発的な活動領域を基に、ひずみ波形変化の特徴や断層モデルの中心位置などによって領域分け(長野県南部や愛知・長野県境など)を行っている。
3.結果・考察
各領域において、断層サイズやすべり量から計算した地震モーメントの積算では、多くの領域で時間経過とともに積算値が線形に増加する傾向が見られた。ただし、隣接する領域と同時期に短期的ゆっくりすべりが発生することが多い領域(愛知県東部と愛知県中部など)では、地震モーメントの積算の増加傾向にばらつきが見られた。これは複数領域で発生した短期的ゆっくりすべりが1つの領域の短期的ゆっくりすべりとして解析されたことに起因すると推測される。また、多くの領域で短期的ゆっくりすべりの規模とすべり量には相関が見られたが、規模と断層サイズについては明瞭な相関が見られなかった。
今回のような解析結果の整理は、発生した短期的ゆっくりすべりと過去の活動との規模や発生間隔などの定量的な比較が容易となるなど、より客観的な評価に資するものである。
4.謝辞
本調査には、静岡県及び産業技術総合研究所のひずみ計データを使用させていただきました。