[S03P-06] 2017-2022年における琉球海溝SSEの時空間発展
はじめに
八重山諸島は日本列島の南西端に位置し,フィリピン海プレートが琉球海溝に沿って北西に沈み込んでおり,その速度は南シナ海ブロックに対して8.0〜8.5cm/年である(Sella et al. 2002).また島々の北にある沖縄トラフ沿いでは背弧拡大が起きており(Sibuet et al. 1998),その速度は3.5~5.0cm/年と推定されている(Nishimura et al. 2004).世界各地のプレート沈み込み帯では低周波地震(LFE)や超低周波地震(VLFE),スロースリップイベント(SSE)といったスロー地震が観測されており(Obara & Kato, 2016),琉球海溝でも同様に多様なスロー地震が観測されている.八重山諸島の深さ40km付近のプレート境界では,Mw〜6.6のSSEが6〜7ヶ月の間隔で繰り返し発生し,継続時間はおよそ20-50日である(Heki & Kataoka, 2008; Nishimura, 2014; Kano et al., 2018).一方,八重山諸島の南方の深さ25km以浅のプレート境界でVLFEやLFEが検出されている(Ando et al., 2012; Nakamura, 2017).西南日本の南海トラフ沈み込み帯では短期的SSEに同期して微動やLFEが観測されているが,八重山諸島ではVLFEとLFEの活動分布とSSEは空間的に相補的である(Kano et al., 2018).SSEのすべり分布はよく似ているが,エピソードにより数日ですべりが成長するSSEと50日程かけてゆっくりとすべりが成長するSSEの時空間発展が報告されている(Kano et al., 2018).本研究では,2017年以降に発生したSSEの時空間発展を推定し,Kano et al. (2018)で報告されたすべりの成長過程の違いが見られるかどうかを調査する.
データと解析手法
本研究では八重山諸島に設置されたGNSS観測点の国土地理院GEONETの8観測点と京都大学と九州大学によって設置管理されている10観測点のデータを使用した.京都大学防災研究所西村卓也教授により,RINEXデータからGipsyX Ver1.3/1.4の精密単独測位法により計算された日座標値を解析に使用した.2017年1月1日から2020年12月31日の日座標値時系列から年周・半年周及び線形トレンド成分を推定して時系列から取り除いた.2017年1月1日から2023年6月17日の期間の補正後の時系列に対し改良型のNetwork Inversion Filter(Fukuda et al., 2008)を適用しプレート境界におけるすべりの時空間発展を推定した.すべりを推定した断層はフィリピン海プレート境界面上として,プレート形状はHayes et al.(2012)を採用し,2733個の三角形小断層を用いて曲面を再現した.すべりの向きはアムールプレートに対するフィリピン海プレートの沈み込み方向(Sella et al., 2002)と平行に固定した.
結果と考察
2017年から2022年の6年間で,2017年5月から7月,2017年12月から2018年1月,2018年8月から10月,2019年1月から3月,2019年7月から9月,2020年1月から3月,2020年6月から12月,2021年3月から4月,2021年9月から11月,2022年6月から8月の10個の期間に西表島北西沖の深さ30~60kmにSSEによるすべりを推定した.推定されたすべり量は6-11 cm,SSEの規模はモーメントマグニチュード(Mw)6.5-6.7であった.SSEの継続期間はおよそ20-50日と先行研究で報告されているが,2020年6月から12月の期間に継続期間がおよそ60~150日のSSEが推定された.このエピソードは前処理として行った時系列から季節成分の補正の仕方で継続期間の長さと開始時期が変わってしまうが,前処理の方法を問わずこのSSEによって解放されたモーメント量は概ね同程度に推定された.2020年1月に発生したエピソードでは最初の20日ほど西表島北西沖ですべりが推定され,その後すべりの中心が6日ほどで約35km東へ移動する時空間発展が推定された.
謝辞
国土地理院GEONETのGNSSデータを利用させていただきました.また,京都大学と九州大学により設置管理されているGNSS観測点のデータを利用させていただきました.これらの観測点の維持管理は文部科学省 科学研究費助成事業 学術変革領域研究(A) Slow-to-Fast地震学の支援を受けています.また解析に使用した日座標値は京都大学防災研究所の西村卓也教授よりご提供いただきました.記して感謝いたします.
八重山諸島は日本列島の南西端に位置し,フィリピン海プレートが琉球海溝に沿って北西に沈み込んでおり,その速度は南シナ海ブロックに対して8.0〜8.5cm/年である(Sella et al. 2002).また島々の北にある沖縄トラフ沿いでは背弧拡大が起きており(Sibuet et al. 1998),その速度は3.5~5.0cm/年と推定されている(Nishimura et al. 2004).世界各地のプレート沈み込み帯では低周波地震(LFE)や超低周波地震(VLFE),スロースリップイベント(SSE)といったスロー地震が観測されており(Obara & Kato, 2016),琉球海溝でも同様に多様なスロー地震が観測されている.八重山諸島の深さ40km付近のプレート境界では,Mw〜6.6のSSEが6〜7ヶ月の間隔で繰り返し発生し,継続時間はおよそ20-50日である(Heki & Kataoka, 2008; Nishimura, 2014; Kano et al., 2018).一方,八重山諸島の南方の深さ25km以浅のプレート境界でVLFEやLFEが検出されている(Ando et al., 2012; Nakamura, 2017).西南日本の南海トラフ沈み込み帯では短期的SSEに同期して微動やLFEが観測されているが,八重山諸島ではVLFEとLFEの活動分布とSSEは空間的に相補的である(Kano et al., 2018).SSEのすべり分布はよく似ているが,エピソードにより数日ですべりが成長するSSEと50日程かけてゆっくりとすべりが成長するSSEの時空間発展が報告されている(Kano et al., 2018).本研究では,2017年以降に発生したSSEの時空間発展を推定し,Kano et al. (2018)で報告されたすべりの成長過程の違いが見られるかどうかを調査する.
データと解析手法
本研究では八重山諸島に設置されたGNSS観測点の国土地理院GEONETの8観測点と京都大学と九州大学によって設置管理されている10観測点のデータを使用した.京都大学防災研究所西村卓也教授により,RINEXデータからGipsyX Ver1.3/1.4の精密単独測位法により計算された日座標値を解析に使用した.2017年1月1日から2020年12月31日の日座標値時系列から年周・半年周及び線形トレンド成分を推定して時系列から取り除いた.2017年1月1日から2023年6月17日の期間の補正後の時系列に対し改良型のNetwork Inversion Filter(Fukuda et al., 2008)を適用しプレート境界におけるすべりの時空間発展を推定した.すべりを推定した断層はフィリピン海プレート境界面上として,プレート形状はHayes et al.(2012)を採用し,2733個の三角形小断層を用いて曲面を再現した.すべりの向きはアムールプレートに対するフィリピン海プレートの沈み込み方向(Sella et al., 2002)と平行に固定した.
結果と考察
2017年から2022年の6年間で,2017年5月から7月,2017年12月から2018年1月,2018年8月から10月,2019年1月から3月,2019年7月から9月,2020年1月から3月,2020年6月から12月,2021年3月から4月,2021年9月から11月,2022年6月から8月の10個の期間に西表島北西沖の深さ30~60kmにSSEによるすべりを推定した.推定されたすべり量は6-11 cm,SSEの規模はモーメントマグニチュード(Mw)6.5-6.7であった.SSEの継続期間はおよそ20-50日と先行研究で報告されているが,2020年6月から12月の期間に継続期間がおよそ60~150日のSSEが推定された.このエピソードは前処理として行った時系列から季節成分の補正の仕方で継続期間の長さと開始時期が変わってしまうが,前処理の方法を問わずこのSSEによって解放されたモーメント量は概ね同程度に推定された.2020年1月に発生したエピソードでは最初の20日ほど西表島北西沖ですべりが推定され,その後すべりの中心が6日ほどで約35km東へ移動する時空間発展が推定された.
謝辞
国土地理院GEONETのGNSSデータを利用させていただきました.また,京都大学と九州大学により設置管理されているGNSS観測点のデータを利用させていただきました.これらの観測点の維持管理は文部科学省 科学研究費助成事業 学術変革領域研究(A) Slow-to-Fast地震学の支援を受けています.また解析に使用した日座標値は京都大学防災研究所の西村卓也教授よりご提供いただきました.記して感謝いたします.