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[S05-01] Heat flow anomalies as indicator for subseafloor excess pore fluid promoting slow earthquakes around seamounts
沈み込み帯では,プレートの境界面の一部が定常的に滑り,他は固着―地震滑りを繰り返すという単純なモデルは,固着域の周囲で繰り返し発生するスロー地震の発見により根本的に見直されることとなった.スロー地震の原因の一つが地下の流体による間隙水圧異常とされる.一方海山や突起の沈み込みがスロー地震発生に大きく影響することが認識されてきた(Barnes+, 2020など).露頭観察・数値計算・実験により,海山沈み込みが上盤地層を変形・破砕し,応力や強度の不均質を生じることが推定された(Dominguez 1998 Tectonophys.; Sun+, 2020 Ngeo).Wang & Bilek (2014 Tecto.)は,地震・測地研究から,沈み込み境界面の起伏が大きい場所では,プレート間の滑りはクリープが支配的だとした.海山周辺の高間隙流体圧がプレート間の固着を弱めクリープしている可能性も指摘された(Mochizuki+, 2008 Science; Ellis+, 2015 GJI). 宮崎沖日向灘,室戸岬沖などの前弧斜面下で頻繁にスロー地震が起きている(図)が,そこは海山などの「突起」が沈み込んだ場所と密接に関係するように見える.南海トラフの西端にあたる日向灘は,世界でも類を見ない複雑な現象が起きている沈み込み帯である.かつて島弧であった九州-パラオ海嶺(KPR)が沈み込んでいることが,地下構造の異常(Yamamoto+,2013 Tecto)や地磁気異常(Nakata+,2020 JpGU)から推定された (図3).KPRを境として,北東側には若く平坦な四国海盆が沈み込み,南西側では古く凹凸に富む西フィリピン海盆が沈み込む.海溝の陸側では,北東側では固着が強く大規模な地震が発生するのに対し,その南西側はM8級の巨大地震の記録は残っていない(Lallemand+2018 G3)ことから,固着が弱いとされる(Wallace+,2009 Geology).またKinoshita+(2020,JpGU)は,KPRおよびその西側では熱流量が極めて低く,東側で熱流量が急激に高くなることを示した. KPR上に位置する海山の周囲で微動・超低周波地震が時折発生し,震源位置が30-60 km/day 程度で移動していることが観測された(Yamashita+,2021 EPS; Tonegawa+,2020 GJI).その原因として海山上面やその上盤内の間隙流体の移動が提案されている.一方,沈み込んだKPRの詳細な状況が,構造探査(Park+ 2009 EPS)や地震波トモグラフィ(Arai+ NatureCom)によりマッピングされてきた.Arai+は沈み込む海嶺が作る上盤プレート中に,スロー地震発生域から海底面までつながる流体経路を発見した. 一方室戸沖は,土佐ばえ下にある沈み込んだ海山の南側で微動が頻発しており,さらに海山の上の熱流量が,付加体先端部(40㎞~)に比べて有意に低いことが示された.その転移は海山の海側わずか4㎞の範囲で起こり,海側に向かって熱流量が倍増している.これは地形効果や堆積・浸食効果では説明が困難であり,その周囲に見いだされる断層や破砕帯を流路とした,流体の流出入の存在が想定される.沈み込んだ海山の周囲で微動・低熱流量という特徴は日向灘にも共通し,海山周辺の変形・破砕や,それら起因する流体移動が起こり,プレート境界の滑り様式が海山などの沈み込みによって大きな影響を受けることを示唆する.しかしながら,これまでの調査で,流体移動の直接的な証拠は得られておらず,スロー地震と流体の関与を結びつけることができていない. そこでまず,3次元有限要素法により,海山沈み込みによる応力場の擾乱を計算し,downdip側で圧縮,updip側で引張場になることが確認された.一方海山とその周辺に適当な浸透率分布を与え,KPRを境に沈み込むプレートの年代が海山をはさんで急変する熱的影響を評価したところ,海山内部を高浸透率に設定すると,海山内部で熱水循環が発生し熱流量が部分的に低くなることが示された.本発表ではこれを発展させ,応力擾乱を原動力として加えた多孔質弾性体による熱・流体移動シミュレーションを行う.その際.海山の通過跡(海側)に破砕を想定し,間隙流体吸い込みによる低熱流量が再現できるかテストする予定である. 図 紀伊半島以西の熱流量分布、スロー地震分布と沈み込んだ海山、熱流量分布.(Nakamura+,2022; Takemura+,2019,2022, Yamamoto+,2022, Nakano+,2018, Yamashita+,2015,2021, Tamaribuchi+,2022, Ogiso+,2022ほか).