2:30 PM - 2:45 PM
[S06-05] Crustal structure in the 17th century Kuril earthquake and its linkage to the occurrence of the large shallow slip
北海道十勝沖〜根室沖では500年周期で活動する巨大地震の発生が高い切迫度で危惧される。17世紀地震の断層モデルには海溝から数十キロの範囲のすべり量が深部側よりも相対的に大きい特徴があり、東北沖地震の事例と類似するため、千島海溝地震も浅部大すべりを起こす可能性がある。日本海溝宮城沖では、浅部大すべり域に限定して上盤内部に顕著な反射帯が観測され、浅部すべりの発生条件が構造によって規定される可能性が示唆される。以上を背景に、東北沖地震と17世紀地震でプレート境界浅部のふるまいが類似するならば、千島海溝においてもすべりの空間変化に対応する構造変化があると考え、17世紀地震震源域の構造、特に根室沖の既往探査 (Nakanishi et al., 2004) で技術的な制約のために未把握であったプレート境界浅部の把握を、稠密OBS・MCS構造探査の解析により進めてきた (東・他、JpGU、2023)。本発表では得られた2次元Vpモデルの特徴の抽出と解釈を進め、17世紀地震断層モデルとの空間比較からプレート境界深部/浅部すべりの境界を規定する構造とその役割を考察する。
東・他(JpGU、2023)による初期値依存性を考慮した2次元走時トモグラフィにより、既往探査では未把握であった島弧地殻よりも海溝側の、海溝から60 kmの範囲においてプレート境界の上盤の速度構造が著しく変化する様子が把握されている。千島前弧の先端部構造は、0–30 kmにVp < 3.5 km/sのウェッジ堆積物、30–60 kmにVpが海溝側 (4 km/s) から陸側 (5.5 km/s) へ水平方向に大きく増加する遷移帯で構成される。遷移帯内部には、MCSイメージングにより、厚さ5 kmほどにわたり積み重なって分布する不連続な反射面群が存在し、反射面のジオメトリが速度変化の向きと平行である様子からは、走時解析では解像の難しい薄い低速度層のような貫入構造の存在が示唆される。
本研究により把握された遷移構造における速度差(4.0–5.5 km/s)の実態は、付加した古いウェッジ堆積物の固結具合に応じた速度増加 (Jamali Hondori and Park, 2022)、あるいは、島弧地殻先端部の水圧破壊による速度低下 (von Huene et al., 1994) を示すものと考えられる。一方、遷移帯内部の反射性の成因には、遷移帯の下端付近の温度環境 (65 km付近で100℃、Nakanishi et al., 2004) で活発化するプレート間堆積物の脱水反応 (Kimura, 2012)、あるいは、遷移帯が古いウェッジ堆積物で構成される場合には圧密による排水によって供給されるであろう水の存在が考えられる。そうした水の分布域から海底面への排水路がない場では、静水圧より高い状態の間隙圧が維持される (Jamali Hondori and Park, 2022)。実際、反射面群から海底へ伸びるような反射構造はみとめられず、遷移帯が高間隙圧状態にあると推察される。
このようなVp遷移帯はN断層とS断層の境界部に位置しており、両断層間の地震時の振る舞い方の違いへの関与が伺える。津波地震を含む浅部すべり域の上盤プレート構造には、一般的に、Vpが ~6 km/sより遅く海溝に近づくほど減少するために、剛性率が著しく低下する傾向がある (Sallarés and Ranero, 2019)。根室沖のS断層上に、~6 km/s よりも有意に低速度の遷移帯とウェッジが分布する様子は、Sallarés and Raneroの示したトレンドに矛盾せず、他の津波地震発生場と同様の地震学的構造の特徴を有することを示唆する。一方、根室沖に認められる構造-すべりの空間的な対応性は、東北沖における力学的固着強度の変化域 (Kubota et al., 2022) と反射帯 (Kodaira et al., 2017) との間にも酷似してみられる。こうした対応関係の共通性から、顕著な内部反射構造を持つVp遷移帯の形成がプレート境界の固着範囲を規定するひとつの要素であることが示唆され、根室沖S断層が東北沖において固着の弱い浅部大すべり域に対応すると考えられる。宮城沖では、JFAST掘削試料の摩擦実験(Ujiie et la., 2013) やプレート境界摩擦発熱の計測 (Fulton et al., 2013)、プレート境界すべり面の間隙圧分布 (Jamali Hondori and Park, 2022) によって、浅部大すべり域の摩擦強度が極めて低いことが指摘されており、同じような特性を根室沖のS断層も備えているかもしれない。
東・他(JpGU、2023)による初期値依存性を考慮した2次元走時トモグラフィにより、既往探査では未把握であった島弧地殻よりも海溝側の、海溝から60 kmの範囲においてプレート境界の上盤の速度構造が著しく変化する様子が把握されている。千島前弧の先端部構造は、0–30 kmにVp < 3.5 km/sのウェッジ堆積物、30–60 kmにVpが海溝側 (4 km/s) から陸側 (5.5 km/s) へ水平方向に大きく増加する遷移帯で構成される。遷移帯内部には、MCSイメージングにより、厚さ5 kmほどにわたり積み重なって分布する不連続な反射面群が存在し、反射面のジオメトリが速度変化の向きと平行である様子からは、走時解析では解像の難しい薄い低速度層のような貫入構造の存在が示唆される。
本研究により把握された遷移構造における速度差(4.0–5.5 km/s)の実態は、付加した古いウェッジ堆積物の固結具合に応じた速度増加 (Jamali Hondori and Park, 2022)、あるいは、島弧地殻先端部の水圧破壊による速度低下 (von Huene et al., 1994) を示すものと考えられる。一方、遷移帯内部の反射性の成因には、遷移帯の下端付近の温度環境 (65 km付近で100℃、Nakanishi et al., 2004) で活発化するプレート間堆積物の脱水反応 (Kimura, 2012)、あるいは、遷移帯が古いウェッジ堆積物で構成される場合には圧密による排水によって供給されるであろう水の存在が考えられる。そうした水の分布域から海底面への排水路がない場では、静水圧より高い状態の間隙圧が維持される (Jamali Hondori and Park, 2022)。実際、反射面群から海底へ伸びるような反射構造はみとめられず、遷移帯が高間隙圧状態にあると推察される。
このようなVp遷移帯はN断層とS断層の境界部に位置しており、両断層間の地震時の振る舞い方の違いへの関与が伺える。津波地震を含む浅部すべり域の上盤プレート構造には、一般的に、Vpが ~6 km/sより遅く海溝に近づくほど減少するために、剛性率が著しく低下する傾向がある (Sallarés and Ranero, 2019)。根室沖のS断層上に、~6 km/s よりも有意に低速度の遷移帯とウェッジが分布する様子は、Sallarés and Raneroの示したトレンドに矛盾せず、他の津波地震発生場と同様の地震学的構造の特徴を有することを示唆する。一方、根室沖に認められる構造-すべりの空間的な対応性は、東北沖における力学的固着強度の変化域 (Kubota et al., 2022) と反射帯 (Kodaira et al., 2017) との間にも酷似してみられる。こうした対応関係の共通性から、顕著な内部反射構造を持つVp遷移帯の形成がプレート境界の固着範囲を規定するひとつの要素であることが示唆され、根室沖S断層が東北沖において固着の弱い浅部大すべり域に対応すると考えられる。宮城沖では、JFAST掘削試料の摩擦実験(Ujiie et la., 2013) やプレート境界摩擦発熱の計測 (Fulton et al., 2013)、プレート境界すべり面の間隙圧分布 (Jamali Hondori and Park, 2022) によって、浅部大すべり域の摩擦強度が極めて低いことが指摘されており、同じような特性を根室沖のS断層も備えているかもしれない。