2:45 PM - 3:00 PM
[S06-06] Detailed structure of the old accretionary sediments revealed by reprocessing of OBS survey data in Nankai Trough
南海トラフ・熊野灘海域では、ケーブル式の海底地震津波観測網(DONET)により海底観測が10年以上も継続されているほか、2019年にはプレート沈み込み巨大地震発生帯の実態把握を目指した超深度科学研究掘削も実施されているなど、世界でもっとも注目され、詳しく研究されているプレート沈み込み帯の一つである。人工震源を用いた海域地震探査についても例外ではなく、大規模な三次元反射法地震探査(2003年、2006年)に加えて、海底地震計(OBS)を稠密(1km間隔)に展開した屈折法地震探査(2004年)も実施されているなど、地下構造イメージング研究でも先端的・大規模な調査が集中して実施されてきた海域である。
海域地震探査は海底下の構造を把握するもっとも効果的なアプローチであり、その解析技術は常に進歩し続けている。たとえば、熊野灘の三次元反射法地震探査データは、2007年にMoore et al. (2007, Science)が当時の最先端の技術で詳細な地下構造のイメージングに成功した後、2019年には Shiraishi et al. (2019, G3)が10年の解析技術の進化を生かすことで、沈み込みプレート境界付近に厚い高速度層の詳細を把握するなど、沈み込みプレート境界付近の描像を刷新することに成功した。
稠密OBS探査データについては、まず2008年に古典的な走時解析による長波長P波速度構造モデルが報告された後(Nakanishi et al., 2008, JGR)、2012年には波形インバージョン(FWI)解析による高解像度地震波速度構造モデルが報告された(Kamei et al., 2012, EPSL)。Kamei et al. (2012)のFWI解析は、走時解析ではまったく確認できなかったプレート境界付近の低速度層を検出することに成功するなど、走時解析とは文字通り桁違いの高い解像度でP波速度構造をモデル化できることを示した画期的な研究成果であった。しかし、これらの先行研究から既に10年以上が経過し、解析技術の更なる高度化が進むとともに、実データへの適用に関する知見の蓄積も進んできた。
そこで本研究では、過去10年間にJAMSTECで得られたFWIの実データ適用に関する知見をフル活用して、稠密OBS探査データを再解析した。その結果、BSRなど前弧海盆の詳細な堆積層構造などFWI解析によって捉えられた浅部の地震波速度構造は地震波反射法探査結果と非常に整合的であることが明らかなった。さらに、プレート境界付近では、Kamei et al (2012) が指摘した低速度層の他に、Shiraishi et al. (2019)が三次元地震波反射法データに基づいて指摘した高速度層も存在していることが明らかになった。また、超深度掘削点(C0002)における Logging データと比較したところ、FWI解析結果は Logging データと非常によい一致を示すことも分かった。このように、最先端のFWI解析技術を用いることで、過去10年に進展した反射法や掘削研究と整合性の高い地震波速度構造モデルを得ることができた。
さらに、我々の新しいFWI解析結果は、これまで他の研究では検出できなかった興味深い構造的な特徴も描き出している。もっとも注目される点の一つは、古い付加体堆積物内に覆瓦構造(imbricated structure)が明瞭にイメージングされた点である。これまでにも反射断面で観測される断片的な反射波から古い付加体内の覆瓦構造の存在は示唆されていたが、連続的・明瞭に覆瓦構造をイメージングできたのは画期的である。興味深いことに、覆瓦構造を構成する各 thrust は厚い高速度層の上面付近に収斂し、その下にある低速度層である underthrust sediment には到達していないように見える。この観測事実は、underthrust、高速度層を含めた付加体の形成史を紐解くための一つの重要な鍵となることが期待される。
本講演では、FWI解析の詳細や信頼性を示すとともに、得られた地下構造モデルに基づき、巨大地震やスロー活動と地下構造の関係性や高速度層など特徴的な構造の形成に関して議論する。
海域地震探査は海底下の構造を把握するもっとも効果的なアプローチであり、その解析技術は常に進歩し続けている。たとえば、熊野灘の三次元反射法地震探査データは、2007年にMoore et al. (2007, Science)が当時の最先端の技術で詳細な地下構造のイメージングに成功した後、2019年には Shiraishi et al. (2019, G3)が10年の解析技術の進化を生かすことで、沈み込みプレート境界付近に厚い高速度層の詳細を把握するなど、沈み込みプレート境界付近の描像を刷新することに成功した。
稠密OBS探査データについては、まず2008年に古典的な走時解析による長波長P波速度構造モデルが報告された後(Nakanishi et al., 2008, JGR)、2012年には波形インバージョン(FWI)解析による高解像度地震波速度構造モデルが報告された(Kamei et al., 2012, EPSL)。Kamei et al. (2012)のFWI解析は、走時解析ではまったく確認できなかったプレート境界付近の低速度層を検出することに成功するなど、走時解析とは文字通り桁違いの高い解像度でP波速度構造をモデル化できることを示した画期的な研究成果であった。しかし、これらの先行研究から既に10年以上が経過し、解析技術の更なる高度化が進むとともに、実データへの適用に関する知見の蓄積も進んできた。
そこで本研究では、過去10年間にJAMSTECで得られたFWIの実データ適用に関する知見をフル活用して、稠密OBS探査データを再解析した。その結果、BSRなど前弧海盆の詳細な堆積層構造などFWI解析によって捉えられた浅部の地震波速度構造は地震波反射法探査結果と非常に整合的であることが明らかなった。さらに、プレート境界付近では、Kamei et al (2012) が指摘した低速度層の他に、Shiraishi et al. (2019)が三次元地震波反射法データに基づいて指摘した高速度層も存在していることが明らかになった。また、超深度掘削点(C0002)における Logging データと比較したところ、FWI解析結果は Logging データと非常によい一致を示すことも分かった。このように、最先端のFWI解析技術を用いることで、過去10年に進展した反射法や掘削研究と整合性の高い地震波速度構造モデルを得ることができた。
さらに、我々の新しいFWI解析結果は、これまで他の研究では検出できなかった興味深い構造的な特徴も描き出している。もっとも注目される点の一つは、古い付加体堆積物内に覆瓦構造(imbricated structure)が明瞭にイメージングされた点である。これまでにも反射断面で観測される断片的な反射波から古い付加体内の覆瓦構造の存在は示唆されていたが、連続的・明瞭に覆瓦構造をイメージングできたのは画期的である。興味深いことに、覆瓦構造を構成する各 thrust は厚い高速度層の上面付近に収斂し、その下にある低速度層である underthrust sediment には到達していないように見える。この観測事実は、underthrust、高速度層を含めた付加体の形成史を紐解くための一つの重要な鍵となることが期待される。
本講演では、FWI解析の詳細や信頼性を示すとともに、得られた地下構造モデルに基づき、巨大地震やスロー活動と地下構造の関係性や高速度層など特徴的な構造の形成に関して議論する。