[S06P-05] Estimation of shear velocity structure near the Japan and Kuril Trench junction using ambient noise records
日本海溝・千島海溝会合部では微動に代表されるスロー地震と通常地震が空間相補的に発生している。プレート走向方向に分布する微動発生帯には空白域(北緯40〜41度)が存在し、その領域に1968年十勝沖地震と1994年三陸はるか沖地震の破壊開始点及びその余震が分布する(Tanaka et al., 2019)。この日本海溝・千島海溝会合部におけるプレート境界滑り様式の空間変化の要因を明らかにするため、本研究では、常時微動を用いた表面波解析により同領域のS波速度構造を推定する。使用するデータは、2006年10月から2007年6月までに実施された自己浮上型海底地震計を用いた海底地震観測による連続記録である。観測点間隔は約20 kmであり、S-netに比べてプレート傾斜方向に2/3程度、走向方向に1/3〜1/2程度とより稠密である。まず、水平成分の方位を推定・補正し、常時微動の相互相関関数の全観測期間平均を計算した。その結果、周期10〜20秒において、鉛直成分と Radial成分からレイリー波基本モードを、Transverse成分からラブ波基本モードを抽出した。次に、Takagi & Nishida (2022)の手法を用いて、抽出した表面波の位相速度分散曲線を推定した結果、例えば周期14秒のレイリー波基本モードでは観測網北部の微動発生域で2.76±0.05 km/s、南部の微動空白域では3.34±0.07 km/sと、微動空白域における位相速度が微動発生域に比べて20%程度速いと推定された。この位相速度の空間変化は、上盤内及びプレート境界付近のS波速度構造が微動発生域と微動空白域で異なることを示しており、構造不均質によるプレート境界における滑り様式への制約が示唆される。今後日本海溝・千島海溝会合部におけるより詳細なS波速度構造を推定し、S-netを用いて推定した広域3次元S波速度構造と合わせて解釈することで、日本海溝・千島海溝会合部における不均質構造とプレート境界における滑り現象の関係の理解を深められると考えられる。