11:00 AM - 11:15 AM
[S08-06] The Investigation of Stress Condition of the 2014 Northern Nagano Earthquake with Surface Rupture Dynamic Rupture Simulation
動力学的断層破壊シミュレーションを行う上で重要な初期応力条件を設定する方法として,Aochi and Tsuda(2023)では深さ依存性を考慮した方法を提案し,地表地震断層を伴った2014年長野県北部地震への適用を試みた(Tsuda・他,2022)。得られたシミュレーション結果は既往の震源インバージョン結果(引間・他, 2015)と比較して,最大すべりが2倍以上,断層面積が60%程度であった。これらの原因として,アスペリティ領域内では応力降下量を深さに依存して変化させているため,その領域内で応力降下量が負になってしまい,アスペリティの周辺で断層破壊が急激に減速してしまった等,動力学的断層破壊シミュレーションの初期応力パラメータの条件設定に関する課題が考えられた。 そこで本研究では,地表地震断層を伴った2014年長野北部地震を対象に,地表面の変位に着目した動力学的断層破壊シミュレーションの初期応力条件の設定について検討した。直応力とせん断応力はAochi and Tsuda(2023)を踏まえて設定し, 2つのアスペリティと背景領域からなる特性化震源モデル (Tsuda・他,2022)の応力降下量は,アスペリティ領域で負にならないように浅部のアスペリティ1で2.0 MPa,深部のアスペリティ2で7.4MPa,背景領域で0MPaの一定値とした。Dcに関しては,断層破壊が伝播するように,試行錯誤してアスペリティ領域は0.4m, 背景領域は0.9mと設定した。図1に設定した応力降下量分布を示す。媒質に関しては,地震発生層より浅い部分が深さ0.4kmとあまり大きくなく,単純な条件での検討を主眼としていることから,均質媒質(Vs3.4km/s, Vp 6.0km/s, ρ 2.75t/m3)とした。なお,地震発生層より浅い部分の媒質の違いが結果に与える影響については今後の課題である。また,初期破壊領域は引間・他(2015)を参考に,アスペリティ2の上端部分に設定した(図1の黒い□の領域)。図2にはシミュレーションで得られたすべり分布を示す。最大すべりは1.4mで,引間・他(2015)による値(1.1m)と同程度であった。また,推定された地震モーメント(3.81E+18Nm)とSomerville・他(1999)の規範に基づいて算定した断層面積(262.2km2)は,引間・他(2015)の地震モーメント(3.08E+18Nm),断層面積(292.5km2)と同程度であった。図3aには,断層近傍の地点(NGN005)における計算と観測の変位波形の比較を示す。両者の変位波形には,同じ0.5Hz以下のローパスフィルターを掛けている。シミュレーションでは純粋な逆断層を仮定しているため,計算波形のFP成分は振幅がほぼゼロであり観測波形を説明できていないが,FX成分とUD成分(鉛直成分)では計算波形と観測波形の最終変位は概ね対応している。図3bにシミュレーションによる地表の鉛直変位分布を,図3cにはInSARによる鉛直変位分布を示す。図より,アスペリティ1の直上の鉛直変位は計算では約50cm,InSARでは約30cm程度で概ね対応している。また,大きな鉛直変位が生じている範囲(図3bの白い□の領域)も観測記録(図3cの白い□の領域)と概ね対応している。以上より,本検討で設定した初期応力条件は,2014年長野県北部地震の地表面の変位を概ね再現できたものと考えられる。