10:00 AM - 10:15 AM
[S08-18] Background stress in the source region of the 2016 Kumamoto earthquake based on shear strain energy and stress rotation
地震は,地下に蓄えられた弾性歪エネルギーを,断層運動により一気に解放する物理過程である.弾性歪エネルギーは絶対応力の関数であり,地下の応力状態を把握できれば,地震の発生メカニズムの解明に大きく貢献する.しかし,震源域の応力を直接測定することは難しく,とりわけ,偏差応力の大きさを推定することが本質的な課題となっている.偏差応力を拘束する情報としては,応力インバージョンによる大地震前後の応力の向き変化,動的破壊の再現,剪断歪エネルギーの変化の総量等が提案されている.2016年熊本地震の震源域では,これらの3種類の情報に基づき,偏差応力の大きさが見積もられているが,統一的な見解は得られていない(Yoshida et al., 2016; Mitsuoka et al. 2020; Urata et al., 2017; Noda et al., 2020).
本研究では,熊本地震震源周辺域の絶対応力6成分のモデリングを通じて,剪断歪エネルギーの変化と地震前後の応力の向きの変化の両方を分析し,地震前の偏差応力の大きさを調べることを目的とする.具体的には,まず,熊本地震発生直前(一連の地震活動のスタートとなった最大前震発生直前)の震源域周辺域の背景応力場を,実効摩擦係数を支配する無次元間隙流体圧パラメータ(C = 0.0, 0.5, 0.8)を変化させて3ケース計算した(Terakawa & Hauksson, 2018).C = 0.0, 0.5, 0.8に対応する実効摩擦係数は,m’ = 0.38,0.18,0.08である.次に,熊本地震の本震と最大前震のすべり分布(Asano & Iwata, 2016)からすべりによる応力応答関数(Fukahata & Matsu’ura, 2005)を用いて地震時応力変化を計算した.地震前の背景応力場と地震時応力変化を合わせれば,仮定した3つの実効摩擦係数に対応して,地震後の絶対応力場を計算することができる.地震前後の全応力成分が得られることで,地震前後の弾性歪エネルギーや地震前後の理論的な応力の向きの変化を直接計算することができる.
エネルギーバランスを考慮すれば,地震で解放される剪断歪エネルギーは少なくとも放射エネルギーよりも大きい必要がある.剪断歪エネルギーの解放量は地震前の偏差応力レベルが高いほど大きくなるが(Noda et al., 2020; Terakawa et al., 2020),熊本地震の場合,最も偏差応力の小さい場合でも放射エネルギーの推定値(Kanamori et al., 2020; Kaneko & Goto, 2022)を超えており,エネルギーの解放量だけでは偏差応力レベルを推定することは難しい.また,すべりに伴う断層面上の剪断応力の変化のパターンは偏差応力レベルには依らない.しかし,剪断応力の代わりに偏差応力の大きさをとると,数kmより浅い部分での振る舞いにモデル間で違いがみられた.偏差応力が大きく,地殻に剪断歪エネルギーが十分蓄えられている場合は(C = 0.0, 0.5),偏差応力を小さくするようにすべりが進行する(C = 0.5の震源域南部の浅部の一部を除く).一方,偏差応力が最も小さいケース(C = 0.8)では,偏差応力がすべりと共に増加するか,または一旦減少した後に再び増加する.これは,すべりの途中で応力の向きが変化し,すべることで剪断歪エネルギーを増加させてしまうためである.地震はすべりにより剪断歪エネルギーを解放する物理過程であるため,大きくすべった領域では偏差応力が減少するモデルの方が合理的である.
また,熊本地震前後の絶対応力場から,理論的な応力の向きの変化を調べた.偏差応力が最も小さい場合でも,顕著な応力変化が予想されるのは震源断層のごく近傍に限られる.本震後の絶対応力場3ケースに対して,本震後約3年間に震源断層から10km以内で発生した地震のメカニズム解のミスフィット角を計算したところ,C = 0.0, 0.5, 0.8に対してその平均値は23.9度,23.6度,30.5度となった.つまり,剪断歪エネルギーと応力場の時間変化に基づく分析の結果は,どちらも偏差応力の大きい2つのケースの方が偏差応力の最も小さいケースより合理的であることを示した.この結果,熊本地震震源周辺域の実効的摩擦係数は,少なくとも0.2程度以上である.これは,従来,応力インバージョンによる推定結果よりも有意に大きい.本震後の地震のデータセットの約3割はどの応力場の下でも説明できず,応力以外の要因で発生した地震の可能性がある.これらを応力インバージョンのデータに含めてしまうと,本震前後の応力の向きの変化を過大評価し,偏差応力レベルを過小評価することになるのかもしれない.
本研究では,熊本地震震源周辺域の絶対応力6成分のモデリングを通じて,剪断歪エネルギーの変化と地震前後の応力の向きの変化の両方を分析し,地震前の偏差応力の大きさを調べることを目的とする.具体的には,まず,熊本地震発生直前(一連の地震活動のスタートとなった最大前震発生直前)の震源域周辺域の背景応力場を,実効摩擦係数を支配する無次元間隙流体圧パラメータ(C = 0.0, 0.5, 0.8)を変化させて3ケース計算した(Terakawa & Hauksson, 2018).C = 0.0, 0.5, 0.8に対応する実効摩擦係数は,m’ = 0.38,0.18,0.08である.次に,熊本地震の本震と最大前震のすべり分布(Asano & Iwata, 2016)からすべりによる応力応答関数(Fukahata & Matsu’ura, 2005)を用いて地震時応力変化を計算した.地震前の背景応力場と地震時応力変化を合わせれば,仮定した3つの実効摩擦係数に対応して,地震後の絶対応力場を計算することができる.地震前後の全応力成分が得られることで,地震前後の弾性歪エネルギーや地震前後の理論的な応力の向きの変化を直接計算することができる.
エネルギーバランスを考慮すれば,地震で解放される剪断歪エネルギーは少なくとも放射エネルギーよりも大きい必要がある.剪断歪エネルギーの解放量は地震前の偏差応力レベルが高いほど大きくなるが(Noda et al., 2020; Terakawa et al., 2020),熊本地震の場合,最も偏差応力の小さい場合でも放射エネルギーの推定値(Kanamori et al., 2020; Kaneko & Goto, 2022)を超えており,エネルギーの解放量だけでは偏差応力レベルを推定することは難しい.また,すべりに伴う断層面上の剪断応力の変化のパターンは偏差応力レベルには依らない.しかし,剪断応力の代わりに偏差応力の大きさをとると,数kmより浅い部分での振る舞いにモデル間で違いがみられた.偏差応力が大きく,地殻に剪断歪エネルギーが十分蓄えられている場合は(C = 0.0, 0.5),偏差応力を小さくするようにすべりが進行する(C = 0.5の震源域南部の浅部の一部を除く).一方,偏差応力が最も小さいケース(C = 0.8)では,偏差応力がすべりと共に増加するか,または一旦減少した後に再び増加する.これは,すべりの途中で応力の向きが変化し,すべることで剪断歪エネルギーを増加させてしまうためである.地震はすべりにより剪断歪エネルギーを解放する物理過程であるため,大きくすべった領域では偏差応力が減少するモデルの方が合理的である.
また,熊本地震前後の絶対応力場から,理論的な応力の向きの変化を調べた.偏差応力が最も小さい場合でも,顕著な応力変化が予想されるのは震源断層のごく近傍に限られる.本震後の絶対応力場3ケースに対して,本震後約3年間に震源断層から10km以内で発生した地震のメカニズム解のミスフィット角を計算したところ,C = 0.0, 0.5, 0.8に対してその平均値は23.9度,23.6度,30.5度となった.つまり,剪断歪エネルギーと応力場の時間変化に基づく分析の結果は,どちらも偏差応力の大きい2つのケースの方が偏差応力の最も小さいケースより合理的であることを示した.この結果,熊本地震震源周辺域の実効的摩擦係数は,少なくとも0.2程度以上である.これは,従来,応力インバージョンによる推定結果よりも有意に大きい.本震後の地震のデータセットの約3割はどの応力場の下でも説明できず,応力以外の要因で発生した地震の可能性がある.これらを応力インバージョンのデータに含めてしまうと,本震前後の応力の向きの変化を過大評価し,偏差応力レベルを過小評価することになるのかもしれない.