The 2023 SSJ Fall Meeting

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Room A

Regular session » S08. Earthquake physics

[S08] AM-1

Wed. Nov 1, 2023 9:30 AM - 10:45 AM Room A (F205+206)

chairperson:Saeko Kita(Building research institute), Toshiko Terakawa(Nagoya University)

10:15 AM - 10:30 AM

[S08-19] Estimation of the spatial distribution of the "internal friction coefficient" in the crust beneath the Japanese Islands

*Yuta MITSUI1 (1. Department of Geosciences, Shizuoka University)

メカニズム解などの地震学的データから地下の主応力の向きや応力比を推定するための応力インバージョン手法は数多く開発され(岩田・他, 2019)、日本列島下の応力状態も3次元的に推定されるようになった(e.g., Terakawa and Matsu’ura, 2010; Yukutake et al., 2015; Uchide et al., 2022)。これらと少し異なった試みとして、Iio [1997]は、メカニズム解データからモール・クーロン破壊基準の内部摩擦係数を推定する先駆的な研究をしている。そして、Vavrycuk [2014]では、メカニズム解の2つの節面のどちらが真のすべり面か、モール・クーロン破壊基準からの「近さ」を基準に決める応力インバージョン手法を提案しており、この際に内部摩擦係数についてもグリッドサーチすることで最適値を推定している。この、モール・クーロン破壊基準からの「近さ」を基準に真のすべり面を決めるという概念は、Terakawa and Matsu’ura (2010)などのCMT解自体に基づくインバージョン手法の原理とも矛盾しない。本研究では、このVavrycuk [2014]の手法に基づいて、日本列島下の地殻内地震のメカニズム解から内部摩擦係数を推定する。

メカニズム解のデータとして、Uchide et al. [2022]による、日本列島下の深さ20km以浅のP波初動発震機構解を用いる。空間グリッドを0.3度ずつ取り、スムージングをかけず、各グリッド内の全メカニズム解に対して素朴に応力インバージョン解析を行った。内部摩擦係数のグリッドサーチを0.1から0.9の範囲で行い、3次元のモール円上でモール・クーロン破壊基準と各メカニズム解との距離の平均が最小となるものを最適値とした。Vavrycuk [2014]の手法は、2つの節面のどちらが真のすべり面かを決める部分以外は、古典的なMichael [1984]の手法を踏襲している。本研究でも、応力インバージョン自体の結果(主応力の向き・応力比)に特筆すべきところはなく、Uchide et al. [2022]が行った応力インバージョンと概ね同様の結果が得られたことを確認した。

その上で、同時に推定された内部摩擦係数の分布を図に示す。この結果は、2002年元旦から2011年東北地方太平洋沖地震の発生前までのメカニズム解データに基づいている。各グリッドの値の推定誤差は小さくないと考えられるため、空間的傾向のみを議論する。全体として、南海トラフ沿いの中国・四国地方から中部地方にかけて高い値が推定された一方、九州地方の一部と東北地方から北海道南部にかけての一部で、0.2以下の低い値が推定された。九州地方の中で特に内部摩擦係数の低い場所は別府湾周辺地域および雲仙天草地域であり、正断層系の発達した場所である。このことには何らかの意味があるかもしれない。しかし、同じく内部摩擦係数の低い東北地方から北海道南部にかけての一部には、このような地域的特徴はない。

先行研究(e.g., Yukutake et al., 2015)で示唆された、地表活断層に沿っての高いslip tendencyに類する結果は、本研究の内部摩擦係数の推定では得られていない。また、低い内部摩擦係数の原因が岩石物性の違いなのか、あるいは間隙流体圧(e.g., Sibson and Xie, 1998)の影響なのかについて、現時点で判断する材料もない。これらについては、より空間的に範囲を絞った、詳細な解析が必要と考えられる。