日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

A会場

一般セッション » S08. 地震発生の物理

[S08] PM-1

2023年11月1日(水) 13:30 〜 14:30 A会場 (F205+206)

座長:吉田 圭佑(東北大学)

13:30 〜 13:45

[S08-26] 地殻内地震におけるMw 5.1付近を境とした震源パラメータのスケーリング則の変化

*新本 翔太1、三宅 弘恵1 (1. 東京大学地震研究所)

本研究では、応力降下量、見かけの応力、放射効率および破壊エネルギーのスケーリング則を検討した。まず、日本の中小規模(Mw 3.2–6.0)の地殻内地震の地震波の放射エネルギーと応力降下量をスペクトル比解析から求めた。解析にはHi-netの速度波形データを使用した。地震波の放射エネルギーは、地震モーメントと観測スペクトル比のコーナー周波数からω-2モデルを仮定して推定した。一方、応力降下量は、Shimmoto (2022)が開発したスペクトル比法を適用して推定した。この手法では、各観測点で得られたスペクトル比から均質な長方形震源の面積や破壊伝播速度等の有限震源特性を推定する。この手法で推定される有限震源特性は、地震すべり量が大きい局所領域(最大アスペリティ領域)に対応する。この結果を踏まえ、従来の中小規模の地震の解析で広く使われている均質な円形震源に対して、高い応力降下量が集中する局所領域を一つ有する不均質震源モデルを導入し、応力降下量を計算した。この際、Somerville et al. (1999)による最大アスペリティの面積が平均的に破壊領域全体の17.5%であるという結果を利用した。推定した応力降下量と放射エネルギーを用いて放射効率と破壊エネルギーを算出した。
 次に、本研究の結果と既往研究による小規模地震(Mw<3.0)と大規模地震(Mw >6.0)の震源パラメータの推定結果を合わせて震源パラメータのスケーリング則を検討した。既往の小規模地震の研究では、応力降下量は震源スペクトルのコーナー周波数の方法で推定されている。コーナー周波数の方法では、震源モデルを仮定してコーナー周波数と応力降下量を結びつける定数(以下、k値)を決める必要がある。しかしながら、仮定する震源モデル(k値)によって、コーナー周波数から推定される応力降下量は著しく異なる。例えば、広く使われている円形震源モデルにBrune (1970)とMadariaga (1976)があるが、これらの震源モデルは同じコーナー周波数に対して5.6倍異なる応力降下量の推定値を与える。コーナー周波数の方法におけるk値の選択の任意性は、応力降下量のスケーリング則を調べる際に問題となる。本研究では、観測スペクトル比のコーナー周波数から推定した応力降下量と、Shimmoto (2022)の手法から推定した応力降下量の中央値を比較してk値を求め、既往研究の小規模地震の応力降下量を再計算した。
 既往研究と本研究に基づく震源パラメータの推定結果と合わせて、応力降下量、見かけの応力、放射効率のマグニチュード依存性を検討し、次の結果を得た:(1)応力降下量と見かけの応力はMw 5.1付近まではマグニチュードとともに増加し、Mw 5.1より大きくなるとマグニチュードに依存しなくなる。(2)放射効率はマグニチュードにおおむね依存しない。観測された応力降下量、見かけの応力、放射効率、破壊エネルギーの地震すべり量依存性は、Rice (2006)による地震時の摩擦発熱による間隙圧上昇(Thermal pressurization)の影響を考慮したすべり弱化モデルによって概ね再現できることが分かった。今後、地震時の摩擦発熱による間隙圧上昇を含め、他のメカニズムの震源パラメータのスケーリング則に対する影響についてのさらなる研究が望まれる。