The 2023 SSJ Fall Meeting

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Poster session (Sep. 16th)

Regular session » S08. Earthquake physics

[S08P] PM-P

Tue. Oct 31, 2023 5:00 PM - 6:30 PM Room P11 (F203) (Hall Annex)

[S08P-01] Stress field related to the 2017 Southern Nagano Prefecture earthquake (Mj5.6)

*Yoshihisa IIO1, Hikari Nogi1, Shinya Kato2, Kazuhide Tomisaka1, Masayo Sawada1, Shunta Noda3, Issei Doi1 (1. DPRI, Kyto Univ., 2. ERI, Tokyo Univ., 3. RTRI)

1. はじめに  
 2017年6月25日7時2分の長野県南部の地震(Mj5.6)は、1984年長野県西部地震(Mj6.8)の余震域の北東端付近、深さ1.5~4.5kmで発生した逆断層型の地震である。この付近の地震発生層の下限は5~6kmと非常に浅く、M5.6であるが、地震発生域をほとんど断ち切るような「大地震」であった。この地域は、長野県西部地震の震源断層から2~4kmほど北へ離れているが、1986年の合同観測の頃にも地震活動が活発だった(Yamazaki et al., 1992)。付近では、水準測量により2003年ごろに異常隆起が観測された(Kimata et al., 2010)。また、Vp/Vsの小さい顕著な低速度異常域が推定されており(Doi et al.,2013)、地震波速度構造が時間変化した可能性がある領域も存在する(土井・他,2014)。
 この地域では、1995年より、10kHzサンプリングの地震観測が行われていたが(Iio et al., 1999)、2008年に満点地震計が追加された。満点観測網は主に、上記の低速度異常域を詳細に調べるために配置されたが、はからずも、Mj5.6を直上で待ち受ける体制となった。たまたまMj5.6の発生直前の6月22日ごろに、トリガー方式である10kHzサンプリング観測点のCFカードの交換を行ったため、多くの点において、地震の翌日である6月26日正午くらいまでデータを取得することが出来た。残念ながら、地震後に初めてデータ回収を行ったのは7月1日であり、その間は欠測となる観測点も多かったが、その後もしばらくは1,2週間間隔でデータ回収を行い、欠測を最小限とするように努めた。これらのデータから、M5.6の余震域付近の地震分布や応力場が詳しく検討された(野木・他, 2021)。この地域の広域の応力場として、Terakawa et al.(2013)は、平均的な最大圧縮応力σ1の方位はN125°Eであるとしている。野木・他(2021)は、M5.6の発生前のデータから、長野県西部地域の平均的なσ1の方位はN110°Eであり、M5.6の断層付近、およびその南側の深さ4-5kmにおいて、σ1の方位がさらに東西方向に回転していることを見出した。本研究では、加藤(2022)による機械学習を活用した手法により得られた読み取り値を加え、地震前および地震後の応力場をより精度よく推定した。
2. 結果
 M5.6の余震域付近のσ1の方位の回転については、M5.6の断層付近から1984年長野県西部地震の断層付近まで、系統的に東西への回転が見られ、95%の信頼区間を超えて有意なものであると推定された。野木・他(2021)は、この主応力軸の回転を、地震発生域より深部の逆断層的なゆっくりすべり(長さ10km, 幅16km)により説明した。今回、より広い領域で系統的な回転が推定され、この説明をサポートするものとなった。ただし、M5.6の断層の北側では回転は見られず、他の要因を考慮する必要がある。
 地震後については、M5.6による応力変化の空間変化のスケールが小さく、各解析領域で地震数が確保できる1kmグリッドで推定された応力場では詳細な議論が難しいため、メカニズム解のP,T軸の方位分布を調べ、推定断層面の上下において、顕著なP,T軸の方位分布の違いがみられた。これまでも、余震域の北側で横ずれ型の余震が多いことが知られていたが(気象庁, 2017)、特に、上盤側において、推定断層の北端付近で横ずれ型が顕著であることが分かった。一方、南端付近では、断層端に沿って、逆断層型の余震が多数発生している。これらの特徴は、摩擦係数0.6を仮定して計算されたクーロン破壊応力(dCFS)の空間分布とはむしろ逆センスであるが、せん断応力の空間変化とは矛盾しないことが分かった。このことは、摩擦係数が小さいことを示唆しているのかもしれないが、M5.6の断層モデルやすべり分布などを詳しく検討するとともに、地震前の応力場との関連も調べたい。
謝辞:高精度地震観測は、防災科研の特別研究「直下型地震のダイナミクス」により開始され、地震及び火山噴火予知のための観測研究計画、災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画や科研費(課題番号19204043)のプロジェクトで維持されてきた。10kHz観測では産総研のボアホール地震計データを、2008年8月以降には、防災科研、名古屋大学、気象庁による定常地震観測点のデータも使わせていただいている。観測においては、長野県王滝村・木曽町、木曽森林管理署、長野県林務課、名古屋市市民休暇村ほか、地元の方々に大変お世話になった。