The 2023 SSJ Fall Meeting

Presentation information

Poster session (Sep. 16th)

Regular session » S08. Earthquake physics

[S08P] PM-P

Tue. Oct 31, 2023 5:00 PM - 6:30 PM Room P11 (F203) (Hall Annex)

[S08P-03] Spatial Variation of Stress Field around Turkey Estimated from Earthquake Focal Mechanisms and the 2023 Mw7.8 and Mw7.7 earthquakes

*Keisuke YOSHIDA1 (1. Research Center for Prediction of Earthquakes and Volcanic Eruptions, Tohoku University)

2023年2月6日にトルコ東アナトリア断層帯周辺で Mw 7.8の左横ずれ断層型地震 (Nurdağı-Pazarcık地震)が発生し,その約 9時間後には Mw 7.7の左横ずれ断層型地震 (Ekinözü地震)が発生した.その発生機構・発生過程の理解のためには,地震発生の原因となった地殻応力場の詳細の理解が不可欠である.本講演では,地震メカニズム解を用いて推定したトルコ周辺の応力場の空間変化の特徴について紹介する.

最初に,応力場を推定するためのデータとして,Global CMT (GCMT)カタログ (Ekström et al., 2012),ボアジチ大学カンデリ地震観測研究所 (KOERI) CMTカタログ,およびトルコ災害緊急事態対策庁 (AFAD) メカニズム解カタログから,トルコ全域を含む領域で過去に発生した地震のメカニズム解を取得した.GCMTカタログからは,1979年から 2023年7月までに発生した 1325 個の地震のメカニズム解を,KOERIカタログからは,2015年から2023年6月までに発生した 379個の地震のメカニズム解を,AFADカタログからは,2007年から2023年 8月までに発生した 1660個の地震のメカニズム解を取得した.重複する地震がある際には GCMTカタログ,KOERIカタログ,AFADカタログの優先順位で解を採用することにして, 3182 個の地震データからなるデータ・セットを作製した.アナトリア断層周辺の地震の中では (717個),横ずれ断層型地震 (344個)が最も多く,次いで正断層型地震 (263個)が多い.

得られたメカニズム解カタログに,Yoshida et al. (2016)と同様の手順で応力インバージョン法を適用し,トルコ周辺域の応力場の空間変化を推定した.具体的には,研究対象領域全域に 0.1°間隔でグリッド網を配置し,各グリッドにおける応力場の方向を表す 4パラメータの推定を行った.この際,各グリッド中心から水平距離 120 km 以内の範囲に含まれる地震データをグリッド中心に近いものから最大 25 個に対し,Michael (1984, 1987)の手法を適用し,応力場のパラメータを推定した.

図に得られた最大水平圧縮方向と応力レジーム A_ϕの結果を示す.Anatoliaプレート内部で横ずれ断層場の領域と正断層場の領域が分布している.Anatoliaプレートと Arabiaプレートの境界に位置する東アナトリア断層周辺においては,最大圧縮軸がおよそ南北方向で一様であるのに対して,応力レジームは北側の横ずれ断層場から南側の正断層場への空間変化を示している.

このような応力場の空間変化は,本震の破壊伝播・停止に影響を与えた可能性がある. 2023年 Mw7.8 Nurdağı-Pazarcık地震震源南部側で推定された応力場も正断層型であり,余震のメカニズム解も北北東-南南西方向に走向方向を持つ正断層型のタイプが多かった.このことは,シンプルには,本震も震源より南側では正断層すべりを生じさせた可能性を思わせる.ただし,このM7.8地震の南部破壊域においては,本震前のメカニズム解が少なかったため,本震前からこの地域の応力場が正断層型であったのかどうかは定かではない.しかし,本震の応力変化により応力場が一様に南北方向に最大圧縮軸を持つ正断層場に変化することは,あまり考えやすくなさそうである.

一方,地震波形の解析からは,2023年 Mw7.8 Nurdağı-Pazarcık地震時には,左横ずれ型断層滑りが震源よりも 100 km以上南部にまで拡大したことが推定されている (Okuwaki et al., 2023; Barbot et al., 2023).この地域の応力場が本震前から正断層型であったとした場合,M7.8地震の南部破壊域には,せん断応力が掛かりにくくなっていたことが考えられる.その上で本震破壊が伝播したことは,この断層の摩擦強度が周辺の断層に比べて小さくなっていたことを意味するのかもしれない.

謝辞:本研究はJSPS科研費 JP23K17482の助成を受けたものです。ボアジチ大学カンデリ地震観測研究所 (KOERI) CMTカタログ,およびトルコ災害緊急事態対策庁 (AFAD) のメカニズム解カタログ・震源カタログのデータを使用させていただきました.