日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(1日目)

一般セッション » S08. 地震発生の物理

[S08P] PM-P

2023年10月31日(火) 17:00 〜 18:30 P11会場 (F203) (アネックスホール)

[S08P-14] 2023年ロイヤリティ諸島南東部地震で発生した逆破壊伝播

*村上 明叶1、八木 勇治1、奥脇 亮1 (1. 筑波大学)

2023年5月19日02:57:03 (UTC),ロイヤリティ諸島南東部でモーメントマグニチュード(Mw)7.7の地震が発生した (USGS, 2023).震源域はバヌアツ沈み込み帯南端アウターライズ領域に位置している.震源域周辺ではオーストラリアプレートが太平洋プレートに対して東北東に75 mm/yrの速さで沈み込んでおり,沈み込み帯南部のアウターライズ領域では正断層型の地震活動がみられる.米国地質調査所 (USGS) によるモーメントテンソル解は,非ダブルカップル成分を53 %含んだ南北方向に引張軸を持つ正断層型を示している.またUSGSにより決定された本震後2日間の余震は,おおよそ海溝と並行に,本震の震央を中心にして東西150 kmの範囲に渡って分布している.一方でUSGSによる有限断層モデルは,遠地実体波P波の観測波形の特徴をほとんど説明できておらず,2023年ロイヤリティ諸島南東部地震の震源過程は,通常の震源過程解析手法ではその推定が困難であることを示唆している.一般に海溝付近で発生する海洋プレート内地震は複雑な震源過程を有している場合が多く,2023年ロイヤリティ諸島南東部地震も単純な震源過程モデルでは表現できない可能性がある.複雑な震源過程を明らかにするには,断層形状や破壊伝播方向に自由度を持たせた高自由度な震源過程モデルを用いた解析が相応しい.
そこで本研究は,ポテンシー密度テンソルインバージョン (PDTI) を使用して,2023年ロイヤリティ諸島南東部地震の震源過程を推定した.PDTIは,断層すべりの時空間分布を5つの基底ダブルカップル成分の重ね合わせで表現する.これにより,予め断層面を仮定することなく,破壊進展中の断層形状の変化やすべりベクトルの変化を柔軟に推定できる.解析には,USGSの余震分布を参考に108°の走向を持つ135 km × 28 kmの鉛直モデル平面を設定した.破壊伝播方向も予め規定せず,モデルの時空間を広く設定することで,破壊進展中の揺らぎや反転 (逆破壊伝播) を許した解析を行った.仮想的な破壊フロントの最大速度は,震源近傍のS波速度を参考に3.2 km/sと設定した.解析には,震源メカニズムの変化に敏感で,かつ,初動をピックしやすい遠地実体波P波の鉛直成分を用いた.破壊進展中の震源メカニズム変化を捕捉できるよう,可能な限り方位の偏りがないように,震源域を囲む51観測点を選定した.グリーン関数の計算には,一次元速度構造モデルであるCRUST1.0を用いた.
解析により得られたポテンシーレート密度分布を時空間方向に積分することで得られるトータルのモーメントテンソルは,正断層型で58%の非ダブルカップル成分を持ち,地震モーメントは6.5×1020 Nm(Mw 7.8)である.トータルのモーメントテンソルから推定されるダブルカップル節面のうち,63°の高角な傾斜をもつ節面の走向は275°であり,余震分布と調和的である.モーメントレート関数は,破壊開始から5秒後と12秒後に鋭いピークを持ち,破壊開始後24秒で収束する.本研究の震源過程モデルを用いて計算した理論波形は,観測波形の詳細な特徴をよく説明することができた.
破壊開始から8秒間,初期破壊は主に東南東方向に伝播する.震源メカニズムがもつ二つの節面のうち,余震分布と調和的な節面の走向と傾斜は,おおよそ290°と70°である.その後,震源の東南東側から主破壊が開始する.8〜13秒後まではバイラテラルに伝播,12秒後から23秒後は,主に西北西方向つまり震源に向かって逆伝播していく様子が得られた.逆破壊伝播時の余震分布と調和的な節面の走向と傾斜は,おおよそ270°と65°である.
本研究により,主破壊時の走向が初期破壊時の走向反時計回りに約20°回転し,さらに初期破壊と主破壊の破壊伝播方向が反転していることがわかった.これは,初期破壊と主破壊の断層形状がそれぞれ異なること唆しており,隣接する二つの断層が連動して破壊したことで,結果的に破壊伝播方向の反転が発生したと考えられる.また本研究結果は,従来型の震源過程解析では多様性のある震源過程を認知することが困難であり,震源過程の多様性を理解するためには自由度の高い震源過程モデリングを行う必要性を示している.