2:30 PM - 2:45 PM
[S09-01] Design and Implementation of the National Seismic Monitoring Network in the Kingdom of Bhutan (2)
1.はじめに :ブータン・ヒマラヤ地域は、インドプレートとユーラシアプレートの衝突帯に位置しており、世界で最も地震活動が活発な地域のひとつであると考えられている。我々は、2013年以来、複数のプロジェクトの支援を受けながら、ブータンにおける恒久的な地震活動監視観測網の構築を行ってきた。本稿では、ブータンの地震観測網構築の経緯と現在の稼働状況、ならびに観測結果の速報的な報告をおこなう。
2.観測網の概要: 本計画の当初の段階では、地質鉱山局(DGM)の観測網は6点のオンライン観測点と3点のオフライン観測点(以後、DGM-NETとよぶ)から成り、短周期高感度地震計、強震計、広帯域地震計等を設置して運用することが計画された。これらのうち、オンライン観測点は、自動車により近傍までアクセスが可能な点を選点し、2015年から2017年にかけて稼働を開始した。オフライン観測点は短周期高感度地震計のみで構成され、通信環境が劣悪で自動車アクセスが困難な北部国境地域を中心に、2017年から2019年にかけて最初期の観測を実施し、2023年3月末までに一旦撤収した。データは、首都ThimphuのDGMのデータセンターにて、GFZ/Gempaによる地震データ解析処理プログラムSeisCompにて解析を行うこととした。また、DGM-NETの構築と並行して、Bangkokに本拠があるRIMES (Regional Integrated Multi-Hazard Early Warning System)による独立プロジェクトとして、2017年から8点の広帯域地震計と強震計からなる観測網も構築が進められた(以下、RIMES-NETとよぶ)。そのため、2023年3月末現在では、ブータン国内では合計14点のオンライン地震観測点が稼働していることになる。2021年から2023年にかけては、RIMES側の了解を経て、これらの14点のオンライン観測点データをSeisCompにより統合処理するシステムの構築を目指した。
3.運用上の問題点:DGM-NETの構築・運用は多くの困難に直面した。その大部分は、通信回線の脆弱さに起因するもので、オンライン観測点と銘打っていながら、リアルタイムでのデータ収集が充分に行えていない状況が続いている。当初の設計では、これら6点のオンライン点は、地上回線でのデータ伝送が可能という事前調査結果に基づき地点選定を行ったが、その後の情勢の変化により、Cellular 回線に転換せざるを得ない状況になり、地上回線とCellular回線では視通やサービス地域等の選点の条件が異なるため、稼働状況が悪化している。そのため、データ伝送状況の悪い観測点については、定期的に現地でのデータ回収を試みていたが、2020年以降はCOVID-19の影響により、それもままならない状況が続いた。2023年現在は、地上伝送回線を同国のICT部門直轄の回線に転換する計画が進んでおり、その結果に期待しているところである。また、RIMES-NETは当初からCellular回線による伝送を行なっているが、必ずしも伝送状況は良好ではなく、今後はこちらも伝送状況の改良を試みる必要がある。
4.得られたデータの解析:構築した観測網の稼働率が必ずしも高くないため、稼働中の少数の観測点のデータのみでも震源決定等の作業が効率的に行えるように 2021年から2023年にかけてSeisCompのlocal earthquake monitoring用のモジュールとして、scanlocとscevalの有償モジュールを導入してシステムの改良を行った。2016年2月から2020年5月までの、利用可能な全てのデータに、IRIS DCから入手可能な近隣国のデータとして、Nepal/KathmanduとIndia/Shironのデータを加え、local monitoring 用にパラメタを調整したSeisCompで自動処理したところ、この期間に約1600個の地震を検出・震源決定することができた。この期間の地震活動の最も顕著な特徴は、インドのアッサム/西ベンガル州からブータンの南西部を通り、同じくインドのシッキム州にかけての帯状に分布する地震帯で、ISCのカタログや他の過去の研究でも既に確認されている。このほか、ブータン中部から西部、東部でも活動が見られる。なお、データ通信環境が貧弱なため、データ品質が時間的に均質ではなく、現段階では検出率や精度が時間的にも空間的にも一様でないことに留意する必要がある。観測網の稼働率が不充分な現状でも、ISC等のグローバルなカタログと比較して同等以上の地震を検出・震源決定できていることから、懸案であるデータ通信インフラの品質改善を図ることにより、比較的短期間に、同国の地震活動監視が可能になることが期待される。
2.観測網の概要: 本計画の当初の段階では、地質鉱山局(DGM)の観測網は6点のオンライン観測点と3点のオフライン観測点(以後、DGM-NETとよぶ)から成り、短周期高感度地震計、強震計、広帯域地震計等を設置して運用することが計画された。これらのうち、オンライン観測点は、自動車により近傍までアクセスが可能な点を選点し、2015年から2017年にかけて稼働を開始した。オフライン観測点は短周期高感度地震計のみで構成され、通信環境が劣悪で自動車アクセスが困難な北部国境地域を中心に、2017年から2019年にかけて最初期の観測を実施し、2023年3月末までに一旦撤収した。データは、首都ThimphuのDGMのデータセンターにて、GFZ/Gempaによる地震データ解析処理プログラムSeisCompにて解析を行うこととした。また、DGM-NETの構築と並行して、Bangkokに本拠があるRIMES (Regional Integrated Multi-Hazard Early Warning System)による独立プロジェクトとして、2017年から8点の広帯域地震計と強震計からなる観測網も構築が進められた(以下、RIMES-NETとよぶ)。そのため、2023年3月末現在では、ブータン国内では合計14点のオンライン地震観測点が稼働していることになる。2021年から2023年にかけては、RIMES側の了解を経て、これらの14点のオンライン観測点データをSeisCompにより統合処理するシステムの構築を目指した。
3.運用上の問題点:DGM-NETの構築・運用は多くの困難に直面した。その大部分は、通信回線の脆弱さに起因するもので、オンライン観測点と銘打っていながら、リアルタイムでのデータ収集が充分に行えていない状況が続いている。当初の設計では、これら6点のオンライン点は、地上回線でのデータ伝送が可能という事前調査結果に基づき地点選定を行ったが、その後の情勢の変化により、Cellular 回線に転換せざるを得ない状況になり、地上回線とCellular回線では視通やサービス地域等の選点の条件が異なるため、稼働状況が悪化している。そのため、データ伝送状況の悪い観測点については、定期的に現地でのデータ回収を試みていたが、2020年以降はCOVID-19の影響により、それもままならない状況が続いた。2023年現在は、地上伝送回線を同国のICT部門直轄の回線に転換する計画が進んでおり、その結果に期待しているところである。また、RIMES-NETは当初からCellular回線による伝送を行なっているが、必ずしも伝送状況は良好ではなく、今後はこちらも伝送状況の改良を試みる必要がある。
4.得られたデータの解析:構築した観測網の稼働率が必ずしも高くないため、稼働中の少数の観測点のデータのみでも震源決定等の作業が効率的に行えるように 2021年から2023年にかけてSeisCompのlocal earthquake monitoring用のモジュールとして、scanlocとscevalの有償モジュールを導入してシステムの改良を行った。2016年2月から2020年5月までの、利用可能な全てのデータに、IRIS DCから入手可能な近隣国のデータとして、Nepal/KathmanduとIndia/Shironのデータを加え、local monitoring 用にパラメタを調整したSeisCompで自動処理したところ、この期間に約1600個の地震を検出・震源決定することができた。この期間の地震活動の最も顕著な特徴は、インドのアッサム/西ベンガル州からブータンの南西部を通り、同じくインドのシッキム州にかけての帯状に分布する地震帯で、ISCのカタログや他の過去の研究でも既に確認されている。このほか、ブータン中部から西部、東部でも活動が見られる。なお、データ通信環境が貧弱なため、データ品質が時間的に均質ではなく、現段階では検出率や精度が時間的にも空間的にも一様でないことに留意する必要がある。観測網の稼働率が不充分な現状でも、ISC等のグローバルなカタログと比較して同等以上の地震を検出・震源決定できていることから、懸案であるデータ通信インフラの品質改善を図ることにより、比較的短期間に、同国の地震活動監視が可能になることが期待される。