4:15 PM - 4:30 PM
[S09-07] Focal mechanisms based on the 3D velocity model for the Nankai Trough area
プレートの沈み込み帯において,地震が発生した場所を評価するための重要な情報のひとつとして発震機構解がある.初動発震機構解(初動解)は,初動極性を読み取った観測点の分布に強い影響を受けるものの,MT解/CMT解に比べて規模が小さい地震も評価できること,計算量が少ないこと等の利点がある.一方,南海トラフ周辺のプレート境界付近で発生する逆断層型の地震に対し,一次元地震波速度構造(1D構造)を用いて求めた初動解は正断層型を示すことがある(Takemura et al., 2016; doi: 10.1186/s40623-016-0527-9).これは,観測点への射出角評価の際,低角で沈み込むフィリピン海プレートの影響を正しく考慮していないことに起因する.
防災科研では,文部科学省委託研究「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」(防災南海PJ)において,三次元地震波速度構造モデル(3D構造モデル)を用いた自動震源決定システムの構築を担っている.構築済のプロトタイプシステムで採用している震源計算方法のひとつに,昨年度,各観測点への射出角を3D構造モデルに基づいて計算し,初動解を推定する機能を追加した.この機能を用いて,南海トラフ周辺海域で発生する地震で得られる初動解を調査したので,その結果を報告する.
評価対象には,Takemura et al.(2016)が検討した5地震のほか,2019年5月10日の日向灘の地震等,南海トラフ周辺の海域で発生した地震Mw4.5以上の6地震を抽出した.3D構造モデルとしては,海陸の観測データに基づくトモグラフィ解析結果(Matsubara et al., 2019, doi: 10.5772/intechopen.86936)及び地震本部ウェブサイトで公開されている全国1次地下構造モデル(暫定版)をグリッド形式に再構築したモデルを用意した.比較対象としては,1D構造モデルに基づく防災科研Hi-netの初動解,防災科研F-netによるMT解,AQUA-CMT解,気象庁CMT解,3D構造モデルに基づくCMT解(3D CMT解)を用いた.
2011年8月12日の遠州灘の地震は,CMT解析により北西-南東圧縮の低角逆断層型の解が得られているが,1D構造モデルによる初動解は北西-南東伸張の正断層型であった.全国1次地下構造モデルを用いて初動解計算を行ったところ,プレートが沈み込む方向(御前崎-浜名湖-愛知県東部)の観測点への射出角が適切に評価されたことにより,CMT解と類似の初動解が得られた.一方,2009年7月の四国地方南方沖の地震や2016年4月の紀伊半島南東沖の地震では,若干の改善は見られたものの,3D構造モデルを用いても正断層型のままであった.ただし,震源球上に配置した各観測点の極性分布は各MT解/CMT解と大きな矛盾は無かったことから,防災南海PJにおいて現在構築中の新たな3D構造モデル(Nakanishi et al., 2022)ならびに整備中を含む海域地震観測網のデータを活用することで,海域で発生する地震の初動解推定精度向上が期待出来る.日向灘等,プレートの傾斜角がやや急角な地域のプレート境界付近で発生する地震の場合,1D構造モデルでも逆断層型の初動解が得られた.この地域の地震に対して3D構造モデルを用いた解析を実施すると,走向や傾斜がよりCMT解と一致する傾向が見られた.
今後,3D CMT解のカタログと相補的に活用することで,より信頼性の高い地震発生場所の評価につなげることが出来るよう,新たな3D構造モデルが構築され次第,初動解カタログの整備を進めていく予定である.
謝辞:本研究は,文部科学省「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」の一環として実施している.3D構造モデルを用いた震源位置及び発震機構解推定には,気象庁,大学,産業技術総合研究所及び防災科研の観測データを使用した.解析結果の比較検討に気象庁CMT解カタログを使用した.3D CMT解計算にあたっては,武村俊介より提供頂いたプログラム及びグリーン関数を用いた.
防災科研では,文部科学省委託研究「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」(防災南海PJ)において,三次元地震波速度構造モデル(3D構造モデル)を用いた自動震源決定システムの構築を担っている.構築済のプロトタイプシステムで採用している震源計算方法のひとつに,昨年度,各観測点への射出角を3D構造モデルに基づいて計算し,初動解を推定する機能を追加した.この機能を用いて,南海トラフ周辺海域で発生する地震で得られる初動解を調査したので,その結果を報告する.
評価対象には,Takemura et al.(2016)が検討した5地震のほか,2019年5月10日の日向灘の地震等,南海トラフ周辺の海域で発生した地震Mw4.5以上の6地震を抽出した.3D構造モデルとしては,海陸の観測データに基づくトモグラフィ解析結果(Matsubara et al., 2019, doi: 10.5772/intechopen.86936)及び地震本部ウェブサイトで公開されている全国1次地下構造モデル(暫定版)をグリッド形式に再構築したモデルを用意した.比較対象としては,1D構造モデルに基づく防災科研Hi-netの初動解,防災科研F-netによるMT解,AQUA-CMT解,気象庁CMT解,3D構造モデルに基づくCMT解(3D CMT解)を用いた.
2011年8月12日の遠州灘の地震は,CMT解析により北西-南東圧縮の低角逆断層型の解が得られているが,1D構造モデルによる初動解は北西-南東伸張の正断層型であった.全国1次地下構造モデルを用いて初動解計算を行ったところ,プレートが沈み込む方向(御前崎-浜名湖-愛知県東部)の観測点への射出角が適切に評価されたことにより,CMT解と類似の初動解が得られた.一方,2009年7月の四国地方南方沖の地震や2016年4月の紀伊半島南東沖の地震では,若干の改善は見られたものの,3D構造モデルを用いても正断層型のままであった.ただし,震源球上に配置した各観測点の極性分布は各MT解/CMT解と大きな矛盾は無かったことから,防災南海PJにおいて現在構築中の新たな3D構造モデル(Nakanishi et al., 2022)ならびに整備中を含む海域地震観測網のデータを活用することで,海域で発生する地震の初動解推定精度向上が期待出来る.日向灘等,プレートの傾斜角がやや急角な地域のプレート境界付近で発生する地震の場合,1D構造モデルでも逆断層型の初動解が得られた.この地域の地震に対して3D構造モデルを用いた解析を実施すると,走向や傾斜がよりCMT解と一致する傾向が見られた.
今後,3D CMT解のカタログと相補的に活用することで,より信頼性の高い地震発生場所の評価につなげることが出来るよう,新たな3D構造モデルが構築され次第,初動解カタログの整備を進めていく予定である.
謝辞:本研究は,文部科学省「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」の一環として実施している.3D構造モデルを用いた震源位置及び発震機構解推定には,気象庁,大学,産業技術総合研究所及び防災科研の観測データを使用した.解析結果の比較検討に気象庁CMT解カタログを使用した.3D CMT解計算にあたっては,武村俊介より提供頂いたプログラム及びグリーン関数を用いた.