日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

A会場

一般セッション » S09. 地震活動とその物理

[S09] PM-2

2023年11月1日(水) 15:15 〜 16:45 A会場 (F205+206)

座長:汐見 勝彦(防災科学技術研究所)、馬場 慧(海洋研究開発機構)

16:30 〜 16:45

[S09-08] 長野県西部地域で発生したM3-4クラスの地震の前震活動の時空間的特徴

*野田 雄貴1、片尾 浩2、飯尾 能久2 (1. 京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻、2. 京都大学防災研究所)

大きな地震(本震)が発生する前に,その震源の近傍で複数の小さな地震(前震)が発生することがあり,前震が本震と時空間的に近接して発生することは,その背後にある破壊核形成過程の存在を示唆している.しかし現在の科学では地震が発生したときに,それがより大きな地震の前震かどうか識別することはできない.また,前震の発生がどのような物理過程を表しているのかという解釈については,地震同士の応力伝達により前震が次々と発生しているという見方と,断層面上のゆっくりとしたすべりや流体の移動などといった,非地震性の過程によって前震が引き起こされているという見方とがある.ただし,これまでに行われてきた多くの地震観測では使用可能な観測点数の制約やデータの精度などの問題もあり,どのような説明が実際の過程を正確に表しているかについては議論の余地がある.

長野県西部地域では1995年6月から稠密地震観測網が展開されていて,観測点は1984年に発生した長野県西部地震の余震域の東部を中心に設置されている.その中で10kHzのサンプリング周波数でデータを記録しているものが最大で57ヶ所に設置された.これほどまでの高サンプリングレートで長期間において自然地震を稠密観測している地域というのは他に例を見ない.さらに,この地域で発生する地震は震源が浅いものが多く,さらに観測点の周囲が静かでノイズレベルが小さいため,多数の高品質な微小地震データが得られている.

この稠密地震観測で得られた10kHz波形データを使用し,1995年の観測開始から2008年7月までに発生したM3.7~M4.1の6つの地震(本震)について,それぞれの周囲で発生した地震の破壊開始点の相対震源をmaster event法(Ito, 1985)およびDouble Difference 法(Waldhauser & Ellsworth, 2000)のそれぞれで高精度に再決定した.いずれの方法で再決定した場合でも,震源分布が鮮明な平面状になっていて,先の前震ですべったところで後の前震の破壊が始まっている可能性のある活動や,震源分布に空間的なギャップがあり,先の前震によりほとんど応力が増加していないと考えられるところでも後の前震の破壊が始まっている可能性のある活動が見られた.これらの地震活動は地震間の応力伝達だけでは説明できない可能性が高い.