14:00 〜 14:15
[S09-22] 箱根火山での群発地震における非地震性滑りの寄与
はじめに
群発地震の発生要因について、マグマ移動に伴う応力変化(Toda et al. 2002)、高圧流体の拡散に伴う断層強度低下(Shelly et al. 2014)、非地震性滑りの拡大(Barros et al. 2020)が提案されている。近年の研究では流体の貫入により断層の非地震性滑りが誘発されることが実験的に検証され(Cappa et al. 2019)、また非地震性滑りを示唆する相似地震や地殻変動が観測されるなど (Nakajima and Hasegawa 2023、Nishimura et al.2023)、群発地震の発生における非地震滑りの重要性が指摘されている。
河合ほか(2023, JpGU)では、活発な群発地震活動が発生する箱根火山において2015年の群発地震活動の際に、拡散的な震源移動、傾斜変動、相似地震の発生を明らかにし、群発地震に伴う非地震すべりの発生の可能性を指摘した。本研究では、2015年に加えて、2009年及び2019年の群発地震活動に対して震源の時間空間分布、傾斜計記録に基づいた断層モデル及び相似地震を推定し、結果の比較を通して群発地震活動に伴う非地震滑りの寄与についての考察を行った。
データおよび手法
震源カタログとして河合ほか(2023, JpGU)によりDouble-Difference法(Waldhauser & Ellsworth 2000)を用いて決定されたものを使用し、Shapiro et al., (1997)の理論式を当てはめ震源移動の拡散係数を求めた。地殻変動データとして、神奈川県温泉地学研究所湖尻、裾野、駒ヶ岳及び小塚山観測点のボアホール傾斜計の記録を用いた。降水の影響については過去のデータと照合し、解析期間中の降水については影響を無視できる量であることを確認した。検出された傾斜変動に対して、Okada (1992)の断層モデルを仮定し、断層パラメータを推定した。その際、断層位置と形状は震源分布を参考に決定し、滑り量と滑り角についてグリッドサーチで推定した。相似地震の検出は、上記の震源カタログを基にS波の理論走時の1秒前から5秒後までのタイムウィンドウを用いて波形を切り出して相互相関処理を行い、相互相関係数が0.95以上の観測点が4以上あるものを繰り返し地震の候補として抽出した。さらに、応力降下量3MPaと仮定した際の円形の断層クラックが50%以上重なるものを相似地震と定義した。検出された繰り返し地震に対して、Uchida & Burgmann (2020)の手法に基づきSomerville et al. (1999)による地震モーメントと滑り量とのスケーリングを仮定し、非地震性滑りの時系列を求めた。ただし、2009年及び2019年の震源移動様式、および2019年の傾斜モデルについてはYukuake et al., (2011)、Yukutake et al., (2022)の結果を参照した。
結果及び考察
各期間での群発地震の震源は東西から東南東-西北西方向に走向を持つほぼ鉛直な面上に集中して分布しかつ震源移動が認められた。2009年、2015年及び2019年の拡散係数を比較すると、0.5-1.0、10、3.0m2/sとなり、2009年は拡散係数が最も小さく、2015年群発地震の拡散係数は1オーダー大きいことが分かった。各期間で傾斜変動に基づいて推定した最適な断層モデルは、それぞれ変位量1cm、4cm、0.7cmの右横ずれ変位を伴うことが分かった。最適な断層モデルの横ずれ変位から推定されるモーメントが、同期間中で起こったすべての群発地震の積算地震モーメントと非地震性滑りによるモーメントの和によって表されると仮定すると、10、90、26%のモーメントが非地震性滑りによって解放されたと推定できる。相似地震から非地震性滑りの時系列を求めると、積算でそれぞれ0.15、0.35、0.3cmの滑りが算出された。ただし、2009年には相似地震はほとんど検出されていない。最も速い震源移動が観測された2015年の活動において非地震すべりによるモーメント解放の割合が大きいことから、非地震すべりの寄与の大きさにより震源移動速度などの地震活動様式が支配されている可能性が示唆される。今後の課題として、震源分布とモーメントの和から応力降下量を求めるFischer & Hainzl (2017)のeffective stress dropについて検討を行う。
謝辞
本研究では、神奈川県温泉地学研究所、気象庁、防災科学技術研究所の観測点で記録された連続地震波形記録を使用させていただきました。断層パラメータの推定には気象研究所によるMAGCAP-Vを使用しました。
群発地震の発生要因について、マグマ移動に伴う応力変化(Toda et al. 2002)、高圧流体の拡散に伴う断層強度低下(Shelly et al. 2014)、非地震性滑りの拡大(Barros et al. 2020)が提案されている。近年の研究では流体の貫入により断層の非地震性滑りが誘発されることが実験的に検証され(Cappa et al. 2019)、また非地震性滑りを示唆する相似地震や地殻変動が観測されるなど (Nakajima and Hasegawa 2023、Nishimura et al.2023)、群発地震の発生における非地震滑りの重要性が指摘されている。
河合ほか(2023, JpGU)では、活発な群発地震活動が発生する箱根火山において2015年の群発地震活動の際に、拡散的な震源移動、傾斜変動、相似地震の発生を明らかにし、群発地震に伴う非地震すべりの発生の可能性を指摘した。本研究では、2015年に加えて、2009年及び2019年の群発地震活動に対して震源の時間空間分布、傾斜計記録に基づいた断層モデル及び相似地震を推定し、結果の比較を通して群発地震活動に伴う非地震滑りの寄与についての考察を行った。
データおよび手法
震源カタログとして河合ほか(2023, JpGU)によりDouble-Difference法(Waldhauser & Ellsworth 2000)を用いて決定されたものを使用し、Shapiro et al., (1997)の理論式を当てはめ震源移動の拡散係数を求めた。地殻変動データとして、神奈川県温泉地学研究所湖尻、裾野、駒ヶ岳及び小塚山観測点のボアホール傾斜計の記録を用いた。降水の影響については過去のデータと照合し、解析期間中の降水については影響を無視できる量であることを確認した。検出された傾斜変動に対して、Okada (1992)の断層モデルを仮定し、断層パラメータを推定した。その際、断層位置と形状は震源分布を参考に決定し、滑り量と滑り角についてグリッドサーチで推定した。相似地震の検出は、上記の震源カタログを基にS波の理論走時の1秒前から5秒後までのタイムウィンドウを用いて波形を切り出して相互相関処理を行い、相互相関係数が0.95以上の観測点が4以上あるものを繰り返し地震の候補として抽出した。さらに、応力降下量3MPaと仮定した際の円形の断層クラックが50%以上重なるものを相似地震と定義した。検出された繰り返し地震に対して、Uchida & Burgmann (2020)の手法に基づきSomerville et al. (1999)による地震モーメントと滑り量とのスケーリングを仮定し、非地震性滑りの時系列を求めた。ただし、2009年及び2019年の震源移動様式、および2019年の傾斜モデルについてはYukuake et al., (2011)、Yukutake et al., (2022)の結果を参照した。
結果及び考察
各期間での群発地震の震源は東西から東南東-西北西方向に走向を持つほぼ鉛直な面上に集中して分布しかつ震源移動が認められた。2009年、2015年及び2019年の拡散係数を比較すると、0.5-1.0、10、3.0m2/sとなり、2009年は拡散係数が最も小さく、2015年群発地震の拡散係数は1オーダー大きいことが分かった。各期間で傾斜変動に基づいて推定した最適な断層モデルは、それぞれ変位量1cm、4cm、0.7cmの右横ずれ変位を伴うことが分かった。最適な断層モデルの横ずれ変位から推定されるモーメントが、同期間中で起こったすべての群発地震の積算地震モーメントと非地震性滑りによるモーメントの和によって表されると仮定すると、10、90、26%のモーメントが非地震性滑りによって解放されたと推定できる。相似地震から非地震性滑りの時系列を求めると、積算でそれぞれ0.15、0.35、0.3cmの滑りが算出された。ただし、2009年には相似地震はほとんど検出されていない。最も速い震源移動が観測された2015年の活動において非地震すべりによるモーメント解放の割合が大きいことから、非地震すべりの寄与の大きさにより震源移動速度などの地震活動様式が支配されている可能性が示唆される。今後の課題として、震源分布とモーメントの和から応力降下量を求めるFischer & Hainzl (2017)のeffective stress dropについて検討を行う。
謝辞
本研究では、神奈川県温泉地学研究所、気象庁、防災科学技術研究所の観測点で記録された連続地震波形記録を使用させていただきました。断層パラメータの推定には気象研究所によるMAGCAP-Vを使用しました。