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[S09-28] 偏波特性を用いた到達時刻差検測法と相対震源決定による日本海溝北部におけるテクトニック微動分布
日本海溝における通常地震(fast地震)の発生域付近では, しばしばテクトニック微動を含む浅部slow地震が観測され, これらのslow/fast地震は相互に影響し合っていると考えられている. この相互作用の詳細な特徴を明らかにすることは, 2011年東北地方太平洋沖地震のようなプレート間巨大地震の発生過程に関する有益な情報を提供しうる. 本研究では, 新しい位相検測法と震源決定手法を導入することで, 日本海溝北部における微動震源の決定精度を向上させることを目的とする. エンベロープ相関法(ECM; Obara, 2002)は微動の検出と震源決定に広く用いられているが, 推定される震源の深さには大きな不確実性があると考えられている. 日本海溝北部ではTakahashi et al. (in prep.) がECMを用いて微動の検出と震源決定を行なっており, 通常地震の周辺でプレート境界に沿って微動検出がなされた. しかし震源深さの決定精度は高くないため, それらの相互作用を詳しく論じることはできていない. ECMは観測点間のエンベロープ波形の相似性を仮定しているが, 複雑な地下構造から生じた散乱波が相似性を低下させ, 到達時間の検測精度が下がる可能性があるためである. そこで本研究では, Hendriyana & Tsuji (2021) が開発したS波の到達に感度をもつ特性関数(CF)を相互相関させることにより, イベントの検知と到達時刻差の検測を行なった. CFを用いることで直達S波に加えて, 海底直下の堆積基盤でP波初動からS波に変換された信号(PS変換波)の検知も自動化できる. PS変換波とP波の到達時刻差を用いると,観測点直下の低速度堆積層による走時遅れを補正する観測点補正値を推定することができ, この補正も震源決定精度の改善につながる. さらなる震源決定精度向上の試みとして,微動の近傍で発生する通常地震の P波とS波の到達時間から正確に決定された震源(Matsumoto et al., 2022)を基準として,複数観測点での到達時刻差の差から微動の震源を相対的に決定した. 新手法を用いることで, Takahashi et al. (in prep.) よりも約1.5倍の震源を検出し,到達時刻差のRMS残差も減少した. 再決定された震源のうち, 残差の比較的小さかったイベントはプレート境界モデル(Iwasaki et al., 2015)に沿って分布している. 提案された震源位置決定法は, 遅い地震と速い地震の相互作用のより良い理解に貢献すると期待される.