日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(2日目)

一般セッション » S09. 地震活動とその物理

[S09P] PM-P

2023年11月1日(水) 17:00 〜 18:30 P1会場 (F205・6側フォワイエ) (アネックスホール)

[S09P-15] 摩擦構成則に基づく背景応力場の時間変動推定

*岩田 貴樹1 (1. 県立広島大学)

摩擦構成則に基づく地震活動モデル [Dieterich, 1994](以下Dieterichモデル)を用いることで,大森・宇津公式 [Utsu, 1961]で示される余震活動の時間的なべき減衰を再現することが出来ることが知られている.但し,背景応力の時間変動レートを一定とすると,再現される時間減衰はべき指数(大森・宇津公式のp値)が1である場合のみとなり,実際の余震活動に現れるp≠1の場合に対応出来ない.これについてDieterich [1994]は,本震からの経過時間の対数に(概ね)従うような背景応力の時間変動を導入することで,様々なp値に対応した余震活動の時間減衰を作り出せることを示している.しかし,大森・宇津公式は実際の余震活動によく適合することは事実であるがあくまで「近似」であり,実際の余震活動はより複雑な様相を示す.そういった複雑な余震活動に対応した背景応力の時間変動も複雑なものであると考えられ,これを実際の余震活動から推定することを試みた.
 背景応力の時間変動推定の概要は以下の通りである.まず,余震活動は「クラスター成分」と「(比較的)長期的な活動の変動(トレンド)成分」に分解できるものとする.前者は「余震による余震(二次余震)」に相当するものであり,これはETASモデル [Ogata, 1988]で表す.また後者をDieterichモデルで表す.そして背景応力の時間変動レートは,時間的に隣合う2つの地震間では一定で,地震発生時刻においてのみ値が変わり得る階段関数で与えることとする.地震発生時刻における応力変動レートのステップ的な変化はなるべく小さくなるような平滑化拘束を課した上で,このモデルを実際の余震活動に適用し,背景応力の時間変動推定を行った.
 推定においては平滑化拘束の重みをどう与えるかが重要であり,多くの場合はベイズ的な枠組みの下で周辺化(対数)尤度(あるいはABIC)を用いて客観的に重みを定める.しかし本研究の場合はDieterichモデルが持つ非線形性のため周辺化尤度を計算することが困難である.そのため,複数の重みを与え,それぞれの場合についてマルコフ連鎖モンテカルロ法を用いて背景応力の時間変動とETASおよびDieterichモデルのパラメータを同時推定することとした.
 一例として1995年兵庫県南部地震の余震データに適用したところ,平滑化拘束の重みに依らず,推定された背景応力の時間変動は本震からの経過時間の対数に従うようなものとなった.但し,単純に経過時間の対数に従うのではなく,細かい点で複雑な時間変動を含んでおり,余震活動の複雑さに呼応したものとなっている.

参考文献
- Dieterich, 1994, J. Geophys. Res., doi:10.1029/93JB02581.
- Ogata, 1988, J. Amer. Stat. Assoc., doi:10.2307/2288914.
- Utsu, 1961, Geophys. Mag., 30, 521–605.