日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(2日目)

一般セッション » S09. 地震活動とその物理

[S09P] PM-P

2023年11月1日(水) 17:00 〜 18:30 P1会場 (F205・6側フォワイエ) (アネックスホール)

[S09P-16] 2016年熊本地震におけるせん断歪みエネルギー変化

*上野 友岳1、齊藤 竜彦1 (1. 防災科学技術研究所)

大地震が発生し、地震活動が活発化すると、マグニチュードや地震モーメント、そして、活動度の評価には地震数などを用いた評価がなされている。本研究では、歪みエネルギーを使った本震および余震活動の評価を試みた。
地震を引き起こす原動力は弾性リソスフェアのせん断応力であるため、地震活動を定量化するために、地震活動によってリソスフェアから失われたせん断歪みエネルギーを用いる。そして、2016年4月に発生した熊本地震を例に、本震と余震活動のせん断歪みエネルギー変化に着目した。地震発生によるリソスフェアのせん断歪みエネルギーの変化量を見積もるためには、断層運動に加え、背景応力場が必要である。本研究では、背景応力場を、応力の主軸方向と応力比、そして、差応力を100 MPa(静岩圧270 MPa、有効摩擦係数~0.2 相当)と仮定した。また、熊本地震の前震 (MW 6.1)、本震 (MW 7.1)の断層として、一様すべりの矩形断層を仮定した。前震の余震(24イベント)や本震の余震(240イベント)は、F-netモーメントテンソル解をもとに断層を設定した。
見積もったせん断歪みエネルギー変化は、前震 ~-2.6×1015 J、前震の余震~-3.0×1015 J、本震~-2.6×1016 J、余震~-2.4×1015 Jとなった。本震によるせん断歪みエネルギー減少量に対して余震活動による歪エネルギー減少量の割合は10%程度であった。一方、前震では、前震に対して前震の余震によるせん断歪エネルギーの減少量の割合は約120%となった。前震の余震活動は、せん断ひずみエネルギーの解放の観点からも活発であったことがわかる。
また、せん断歪エネルギー変化の空間分布は、前震や本震の断層面上ではせん断歪みエネルギーの減少を示す。本震断層から離れ、せん断歪みエネルギーが増加している領域で、余震数が多いことも確認できる(Noda et al., 2020 GRL)。一方で、余震活動によってせん断歪みエネルギーが解消された領域は、必ずしも本震によってせん断歪みエネルギーが増加した場所と対応しない。従来のΔCFSを用いた研究事例から、本震による応力変化が余震数の増加として余震活動に影響を与えることはよく知られている。しかし、余震による歪みエネルギー解放量と本震との関連は明らかではない。余震による歪みエネルギー解放量・活動規模の物理を解明するためには、本震だけでは無く、背景応力場を含めた更なる検討が重要である。