[S09P-17] Detection of shallow very low frequency earthquakes around Hyuga-nada since April 2023 using a matched filter technique
はじめに
南海トラフ地震の想定震源域においては、三重県南東沖や日向灘周辺(種子島東方沖、大隅半島南東沖、日向灘及び宮崎県東方はるか沖)などの固着域よりも浅部側で浅部低周波地震(微動)や浅部超低周波地震(VLFE)などのスロー地震活動が繰り返し発生していることが知られている。これらの浅部のスロー地震活動は、三重県南東沖ではプレート境界での浅部スロースリップと同期して観測された事例が報告されており[Nakano et al.(2018)]、これらの発生状況を把握することはプレート境界の固着状況を監視したりスロー地震の発生様式などの理解を進めたりする上で重要である。そのため気象庁では、南海トラフ沿いのスロー地震活動の発生状況を監視するために準備を行ってきた。西南日本の南海トラフ沿いの深部低周波地震(微動)[森脇(2017)]と三重県南東沖における浅部低周波地震(微動)[Tamaribuchi et al.(2022)]の監視はすでに実施しており、結果を南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会で報告している。浅部VLFEについてはAsano et al.(2015)やBaba et al.(2020, 2021)を参考にして、VLFE震源決定手法の開発を行っている。本発表では、現在開発中の手法を2023年4~6月に日向灘周辺で発生した浅部VLFE活動に適用した結果を報告する。
データ・解析手法
VLFEの検出には、気象庁の深部低周波地震の検出に使われているマッチドフィルター法(MF法)[森脇(2017)]を適用した。データとしては国立研究開発法人防災科学技術研究所の広帯域地震観測網F-netの西南日本の14観測点の連続波形を使用した。14観測点の3成分の連続波形に対して0.02~0.05Hzの通過帯域を持つバンドパス・フィルターを施し、100Hzから1Hzにリサンプリングし、解析波形とした。MF法で用いるテンプレートは、OpenSWPC[Maeda et al.(2017)]で計算した理論波形とした。理論波形を計算する際の地震波速度構造は全国1次地下構造モデル(JIVSM)[Koketsu et al.(2012)]とした。理論波形をテンプレートとすることにより、VLFEがこれまで観測されていない新たな領域での検知が可能となることが期待できる。テンプレートは、Hirose et al.(2008)のデータに基づきプレート境界面上とトラフの周辺の領域に0.4度間隔で配置した。MF法ではテンプレートと解析波形の相関を1秒間隔で計算し、全ての観測点の相関係数の総和が閾値を超えた時にイベント検出したとする。さらに、MF法により検出したイベントの精密な震源を決定するために、テンプレートの周りに仮想震源を配置し、テンプレートと仮想震源の震央位置の違いに応じた走時差を考慮したグリッドサーチを行った。検出したイベントについては、目視で通常地震や遠地地震を除外し、最終的な震源リストを作成した。
結果
本手法で検出されたVLFEの活動は、2023年4月15日頃から種子島の東方約150㎞のトラフ軸付近で始まり、5月10日頃までトラフ軸の走向に沿ってゆっくりと北東側へ移動し、足摺岬の西方約120㎞の領域に達した。この約25日間の移動距離は約150㎞で、移動速度は約6km/日であった。その後、活動は静穏化・活発化を繰り返しながら断続的に続き、5月29日頃から約10日間休止した後、6月11日に活動が再開したものの、6月20日以降VLFEは検出されていない。また、VLFEの震源は、種子島東方沖から大隅半島南東沖、日向灘及び宮崎県東方はるか沖までの南海トラフ軸に沿って決定され、震央分布は逆L字型の形状をなしている。震源域はAsano et al.(2015)の日向灘における2010年の浅部のVLFEの震源域とほぼ一致している。
謝辞
東京大学地震研究所の小原一成教授と武村俊介博士には、解析にあたって有益な助言を頂きました。本解析では独立行政法人防災科学技術研究所広帯域地震観測網 F-netの連続地震波形記録を使用しました。記して感謝いたします。
南海トラフ地震の想定震源域においては、三重県南東沖や日向灘周辺(種子島東方沖、大隅半島南東沖、日向灘及び宮崎県東方はるか沖)などの固着域よりも浅部側で浅部低周波地震(微動)や浅部超低周波地震(VLFE)などのスロー地震活動が繰り返し発生していることが知られている。これらの浅部のスロー地震活動は、三重県南東沖ではプレート境界での浅部スロースリップと同期して観測された事例が報告されており[Nakano et al.(2018)]、これらの発生状況を把握することはプレート境界の固着状況を監視したりスロー地震の発生様式などの理解を進めたりする上で重要である。そのため気象庁では、南海トラフ沿いのスロー地震活動の発生状況を監視するために準備を行ってきた。西南日本の南海トラフ沿いの深部低周波地震(微動)[森脇(2017)]と三重県南東沖における浅部低周波地震(微動)[Tamaribuchi et al.(2022)]の監視はすでに実施しており、結果を南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会で報告している。浅部VLFEについてはAsano et al.(2015)やBaba et al.(2020, 2021)を参考にして、VLFE震源決定手法の開発を行っている。本発表では、現在開発中の手法を2023年4~6月に日向灘周辺で発生した浅部VLFE活動に適用した結果を報告する。
データ・解析手法
VLFEの検出には、気象庁の深部低周波地震の検出に使われているマッチドフィルター法(MF法)[森脇(2017)]を適用した。データとしては国立研究開発法人防災科学技術研究所の広帯域地震観測網F-netの西南日本の14観測点の連続波形を使用した。14観測点の3成分の連続波形に対して0.02~0.05Hzの通過帯域を持つバンドパス・フィルターを施し、100Hzから1Hzにリサンプリングし、解析波形とした。MF法で用いるテンプレートは、OpenSWPC[Maeda et al.(2017)]で計算した理論波形とした。理論波形を計算する際の地震波速度構造は全国1次地下構造モデル(JIVSM)[Koketsu et al.(2012)]とした。理論波形をテンプレートとすることにより、VLFEがこれまで観測されていない新たな領域での検知が可能となることが期待できる。テンプレートは、Hirose et al.(2008)のデータに基づきプレート境界面上とトラフの周辺の領域に0.4度間隔で配置した。MF法ではテンプレートと解析波形の相関を1秒間隔で計算し、全ての観測点の相関係数の総和が閾値を超えた時にイベント検出したとする。さらに、MF法により検出したイベントの精密な震源を決定するために、テンプレートの周りに仮想震源を配置し、テンプレートと仮想震源の震央位置の違いに応じた走時差を考慮したグリッドサーチを行った。検出したイベントについては、目視で通常地震や遠地地震を除外し、最終的な震源リストを作成した。
結果
本手法で検出されたVLFEの活動は、2023年4月15日頃から種子島の東方約150㎞のトラフ軸付近で始まり、5月10日頃までトラフ軸の走向に沿ってゆっくりと北東側へ移動し、足摺岬の西方約120㎞の領域に達した。この約25日間の移動距離は約150㎞で、移動速度は約6km/日であった。その後、活動は静穏化・活発化を繰り返しながら断続的に続き、5月29日頃から約10日間休止した後、6月11日に活動が再開したものの、6月20日以降VLFEは検出されていない。また、VLFEの震源は、種子島東方沖から大隅半島南東沖、日向灘及び宮崎県東方はるか沖までの南海トラフ軸に沿って決定され、震央分布は逆L字型の形状をなしている。震源域はAsano et al.(2015)の日向灘における2010年の浅部のVLFEの震源域とほぼ一致している。
謝辞
東京大学地震研究所の小原一成教授と武村俊介博士には、解析にあたって有益な助言を頂きました。本解析では独立行政法人防災科学技術研究所広帯域地震観測網 F-netの連続地震波形記録を使用しました。記して感謝いたします。