[S09P-19] Tectonic tremor activity near the boundary between the Hinagu segment and the Yatsushiro segment of Hinagu fault zone
1.導入
日奈久断層帯は全長80 kmに及ぶ長大活断層で,高野―白旗区間,日奈久区間,八代海区間に区分される.2016年熊本地震では高野―白旗区間が破壊された.震源断層の規模予測に際し,隣接する断層の連動性評価や断層セグメント境界の構造的特徴を理解することは重要である.熊本地震を踏まえた総合的な活断層調査(文部科学省研究開発局・九州大学,2019)では,日奈久区間と八代海区間の境界を境に,地震活動と断層の走向方向の変化が報告されており,セグメント境界が構造上重要であると考えられる.また,日奈久区間と八代海区間の境界近傍では,2012年スマトラ地震に誘発されたテクトニック微動の存在が報告されている(Miyazaki, 2016; Chao & Obara, 2016).その一方で,観測事例はそれらのみで,より長期間の活動の実態は不明である.本発表では,日奈久断層帯日奈久区間と八代海区間の境界近傍における微動の検出とその活動の時空間発展の詳細,またその発生要因に関する議論を行う.
2.データ
本研究では,八代海区間と日奈久区間の境界における地下構造の特徴の把握を目的に臨時微小地震観測を実施した.観測に用いた速度型地震センサ (KVS-300) は固有周期2 Hz,サンプリング周波数は250 Hzである.地震観測点は,八代海を囲うように約10km程度の間隔で御所浦島や獅子島などの離島も含め30か所で陸上に設置した.観測期間は2022年10月から2023年8月のおよそ10か月間で,観測期間中の3月に全観測点でバッテリーとCFカードの交換を行っている.それら臨時観測点に加え,定常地震観測記録も使用した.
3.手法
微動検出を目的に,エンベロープ相関法 (e.g., Ide (2010); Ohta (2019))を適用した.初めに震央誤差は5 km以内のイベントの中から,典型的な微動波形の特徴である長い振動継続時間 (>20秒) を持つイベントを抽出した.また,プレート境界周辺で発生する微動は続発することが多く,本研究でも10 km以内,かつ1時間以内に2つ以上発生するイベントをクラスタリングし,微動と定義した.
4.結果
観測期間中,計3回の微動クラスタとして12個の微動が検出された.ひとつの微動クラスタの活動継続期間は15-30分であった. 微動の震央は,日奈久断層帯日奈久区間と八代海区間の境界近傍に集中しており,観測期間中の気象庁一元化震源カタログに基づく通常地震が深さ15 km 以浅に分布するのに対し,微動震源は20-25 kmに集中した.
5.議論
はじめに,先行研究により観測された八代海における微動との比較を行った.本研究で観測された微動震源は,2012年スマトラ地震によって誘発された微動と震源は極めて近い.一方,2012年にも設置されていた定常地震観測点を使用し,本研究で検出された微動のエンベロープ波形の振幅を比較すると,本研究で観測された微動の振幅は遠地地震による誘発微動の1/10程度であった.本研究で観測された微動は,スマトラ地震によって誘発された微動に比べ規模が小さかった可能性が高い.セグメント境界には,構造的な不連続部があり,時期によらず微動の発生域になっている可能性がある.また,本研究で観測された3つの微動クラスタの発生期間は,微動震源に近い八代と水俣の潮位予測値による干潮のピーク時間から1時間30分以内であった.八代海における微動が断層面上で発生していたと仮定すると,南海トラフ沈み込み帯の一部地域で観測された微動活動 (Ide & Tanaka, 2014) 同様,海水面の変動によるせん断応力の変化に関連している可能性があげられる.
謝辞
太田和晃博士にはエンベロープ相関法のプログラムを提供して頂きました.気象庁一元化震源,防災科学技術研究所・気象庁・九州大学の各観測点の地震波形記録を使用させて頂きました.記して感謝いたします.
日奈久断層帯は全長80 kmに及ぶ長大活断層で,高野―白旗区間,日奈久区間,八代海区間に区分される.2016年熊本地震では高野―白旗区間が破壊された.震源断層の規模予測に際し,隣接する断層の連動性評価や断層セグメント境界の構造的特徴を理解することは重要である.熊本地震を踏まえた総合的な活断層調査(文部科学省研究開発局・九州大学,2019)では,日奈久区間と八代海区間の境界を境に,地震活動と断層の走向方向の変化が報告されており,セグメント境界が構造上重要であると考えられる.また,日奈久区間と八代海区間の境界近傍では,2012年スマトラ地震に誘発されたテクトニック微動の存在が報告されている(Miyazaki, 2016; Chao & Obara, 2016).その一方で,観測事例はそれらのみで,より長期間の活動の実態は不明である.本発表では,日奈久断層帯日奈久区間と八代海区間の境界近傍における微動の検出とその活動の時空間発展の詳細,またその発生要因に関する議論を行う.
2.データ
本研究では,八代海区間と日奈久区間の境界における地下構造の特徴の把握を目的に臨時微小地震観測を実施した.観測に用いた速度型地震センサ (KVS-300) は固有周期2 Hz,サンプリング周波数は250 Hzである.地震観測点は,八代海を囲うように約10km程度の間隔で御所浦島や獅子島などの離島も含め30か所で陸上に設置した.観測期間は2022年10月から2023年8月のおよそ10か月間で,観測期間中の3月に全観測点でバッテリーとCFカードの交換を行っている.それら臨時観測点に加え,定常地震観測記録も使用した.
3.手法
微動検出を目的に,エンベロープ相関法 (e.g., Ide (2010); Ohta (2019))を適用した.初めに震央誤差は5 km以内のイベントの中から,典型的な微動波形の特徴である長い振動継続時間 (>20秒) を持つイベントを抽出した.また,プレート境界周辺で発生する微動は続発することが多く,本研究でも10 km以内,かつ1時間以内に2つ以上発生するイベントをクラスタリングし,微動と定義した.
4.結果
観測期間中,計3回の微動クラスタとして12個の微動が検出された.ひとつの微動クラスタの活動継続期間は15-30分であった. 微動の震央は,日奈久断層帯日奈久区間と八代海区間の境界近傍に集中しており,観測期間中の気象庁一元化震源カタログに基づく通常地震が深さ15 km 以浅に分布するのに対し,微動震源は20-25 kmに集中した.
5.議論
はじめに,先行研究により観測された八代海における微動との比較を行った.本研究で観測された微動震源は,2012年スマトラ地震によって誘発された微動と震源は極めて近い.一方,2012年にも設置されていた定常地震観測点を使用し,本研究で検出された微動のエンベロープ波形の振幅を比較すると,本研究で観測された微動の振幅は遠地地震による誘発微動の1/10程度であった.本研究で観測された微動は,スマトラ地震によって誘発された微動に比べ規模が小さかった可能性が高い.セグメント境界には,構造的な不連続部があり,時期によらず微動の発生域になっている可能性がある.また,本研究で観測された3つの微動クラスタの発生期間は,微動震源に近い八代と水俣の潮位予測値による干潮のピーク時間から1時間30分以内であった.八代海における微動が断層面上で発生していたと仮定すると,南海トラフ沈み込み帯の一部地域で観測された微動活動 (Ide & Tanaka, 2014) 同様,海水面の変動によるせん断応力の変化に関連している可能性があげられる.
謝辞
太田和晃博士にはエンベロープ相関法のプログラムを提供して頂きました.気象庁一元化震源,防災科学技術研究所・気象庁・九州大学の各観測点の地震波形記録を使用させて頂きました.記して感謝いたします.