[S10P-01] Study of slip-velocity parameters in calculation of strong ground motion near inland active faults; example of Kumamoto earthquake, 2016
1.はじめに
内陸活断層近傍における地震被害軽減のため,強震動および変位予測に有効な断層モデルの設定方法および計算手法の検討を,2016年熊本地震を例として実施している.熊本地震は基地の活断層の位置でおおむね地表地震断層が確認され,断層近傍における地表変位および強震動観測データ,建物被害分布等の情報が豊富であり,手法改良のための後ろ向き(レトロスペクティブ)予測とその検証に最適な地震である.当研究グループでは,熊本地震で改善した手法を2023年トルコ・シリア地震などの既往の内陸活断層地震に適用し,手法の妥当性をさらに確認した上で,長町・利府線断層帯などの一般的な内陸活断層に適用する計画である.
2.浅部断層構造を考慮した断層モデルの検討
本研究で用いる震源断層モデルは,Kumahara et al., (2016)やToda et al. (2016)などの地質・地形情報をもとに構築した独自のモデルである.強震動計算において一般的に用いられる断層モデルは震源分布等を参考に想定される単純な形状のモデルが主であり,検討の範囲は地震発生層上端より深い場所での破壊が中心である.本研究の断層モデルは現地調査で明らかになった断層浅部構造を重視し,より詳細な形状を設定したモデルとなっている(乘松ほか,2022:地震学会秋季大会).この断層モデルについて,主断層の北東端は不明である.地表地震断層は九州東海大学・阿蘇ファーム付近まで確認され,さらに北東に位置するJR豊肥本線宮地駅付近でもわずかであるか確認されている.しかしカルデラ内の連続性は確認されていない.阿蘇地域における大規模露頭調査(𠮷見ほか,2022;活断層学会秋季大会)では断層が過去に何度か活動した痕跡が確認されたが露頭は2016年熊本地震の主断層上ではないため,直接的な痕跡を確認できていない.よって本研究ではカルデラ内に大きく延長しないモデルとして設定した.
3.断層浅部のすべりに着目したすべり速度パラメターの検討
熊本地震では断層浅部(地震発生層上端よりも浅い部分)においても,地震波を発生させるようなすべりが起こり,それらが断層近傍において永久変位を引き起こす長周期な揺れにつながったとされる(田中ほか,2017,2019;Irikura et al., 2020;など).浅部においては長周期の揺れが特徴であれば,一般的な地震発生層上端以深と以浅では強震動を計算する際のすべり速度時間関数は異なるものを想定することが妥当である.本研究では強震動の計算は断層近傍の揺れを精度よく計算できる波数積分法(久田,1997)を採用した.すべり速度時間関数は,地震発生層上端以深には中村・宮武関数(中村・宮武,2000)を用い,地震発生層以浅には規格化Yoffe関数(Yoffe, 1951;Tinti et al., 2005)を用いた.中村・宮武関数のパラメターは応力降下量,破壊伝播速度,断層幅等の関係式から計算した.その際,応力降下量を計算する際に用いる剛性率と破壊伝播速度は複数パターンを想定した.規格化Yoffe関数のパラメターは震源インバージョン結果を参照した上で,複数の組み合わせを想定し計算した.これら,深部および浅部の計算パターンの組み合わせと,断層面上のすべり分布(アスペリティの位置)についてもいくつかのパターンを準備し,これらのパラメターの計算結果への影響度を確認した.すべり速度パラメターのばらつきの影響はあまり大きくないものの,断層面上のアスペリティは振幅や波形形状のローカルな部分に少なからず影響する様子がみられた.特に,横ずれ変位が主体の地震であるため,水平成分への影響がある.
4.まとめと今後の予定
これまでの研究で検討してきた熊本地震の断層モデルについて,阿蘇地域での現地調査の結果からカルデラ内に大きく延長しないものとし,北端を仮定した.新たに実施した重力探査および微動測定の結果についても今後は断層モデルに反映していく予定である. 波数積分法により強震動を計算する際のすべり速度パラメターについて,その影響を評価するためのパラメタースタディを行った.すべり速度パラメターの影響は少ないものの,アスペリティの位置については振幅および波形形状に影響する様子が見られるため,熊本地震の強震動の再現のため,更にパターンを増やした検討を行うこととする.
すべり速度パラメター,アスペリティの位置に加えて,計算に用いる速度構造モデルの影響は大きいと考えられることから,今後は防災科学技術研究所(NIED)と当グループの共同研究の枠組みにおいて,NIEDから提供されるより詳細で最新のモデルである深部・浅部統合地盤モデルを用いることとする.また,この速度構造モデルを用いた有限差分法による3次元計算と建物被害率分布を比較することで,強震動と被害の関係についても検討する予定である.
(謝辞)本研究は応用地質(株)の寄付金および協力により実施している.また今後,(国研)防災科学技術研究所との共同研究によりデータ提供を受けて実施する.
内陸活断層近傍における地震被害軽減のため,強震動および変位予測に有効な断層モデルの設定方法および計算手法の検討を,2016年熊本地震を例として実施している.熊本地震は基地の活断層の位置でおおむね地表地震断層が確認され,断層近傍における地表変位および強震動観測データ,建物被害分布等の情報が豊富であり,手法改良のための後ろ向き(レトロスペクティブ)予測とその検証に最適な地震である.当研究グループでは,熊本地震で改善した手法を2023年トルコ・シリア地震などの既往の内陸活断層地震に適用し,手法の妥当性をさらに確認した上で,長町・利府線断層帯などの一般的な内陸活断層に適用する計画である.
2.浅部断層構造を考慮した断層モデルの検討
本研究で用いる震源断層モデルは,Kumahara et al., (2016)やToda et al. (2016)などの地質・地形情報をもとに構築した独自のモデルである.強震動計算において一般的に用いられる断層モデルは震源分布等を参考に想定される単純な形状のモデルが主であり,検討の範囲は地震発生層上端より深い場所での破壊が中心である.本研究の断層モデルは現地調査で明らかになった断層浅部構造を重視し,より詳細な形状を設定したモデルとなっている(乘松ほか,2022:地震学会秋季大会).この断層モデルについて,主断層の北東端は不明である.地表地震断層は九州東海大学・阿蘇ファーム付近まで確認され,さらに北東に位置するJR豊肥本線宮地駅付近でもわずかであるか確認されている.しかしカルデラ内の連続性は確認されていない.阿蘇地域における大規模露頭調査(𠮷見ほか,2022;活断層学会秋季大会)では断層が過去に何度か活動した痕跡が確認されたが露頭は2016年熊本地震の主断層上ではないため,直接的な痕跡を確認できていない.よって本研究ではカルデラ内に大きく延長しないモデルとして設定した.
3.断層浅部のすべりに着目したすべり速度パラメターの検討
熊本地震では断層浅部(地震発生層上端よりも浅い部分)においても,地震波を発生させるようなすべりが起こり,それらが断層近傍において永久変位を引き起こす長周期な揺れにつながったとされる(田中ほか,2017,2019;Irikura et al., 2020;など).浅部においては長周期の揺れが特徴であれば,一般的な地震発生層上端以深と以浅では強震動を計算する際のすべり速度時間関数は異なるものを想定することが妥当である.本研究では強震動の計算は断層近傍の揺れを精度よく計算できる波数積分法(久田,1997)を採用した.すべり速度時間関数は,地震発生層上端以深には中村・宮武関数(中村・宮武,2000)を用い,地震発生層以浅には規格化Yoffe関数(Yoffe, 1951;Tinti et al., 2005)を用いた.中村・宮武関数のパラメターは応力降下量,破壊伝播速度,断層幅等の関係式から計算した.その際,応力降下量を計算する際に用いる剛性率と破壊伝播速度は複数パターンを想定した.規格化Yoffe関数のパラメターは震源インバージョン結果を参照した上で,複数の組み合わせを想定し計算した.これら,深部および浅部の計算パターンの組み合わせと,断層面上のすべり分布(アスペリティの位置)についてもいくつかのパターンを準備し,これらのパラメターの計算結果への影響度を確認した.すべり速度パラメターのばらつきの影響はあまり大きくないものの,断層面上のアスペリティは振幅や波形形状のローカルな部分に少なからず影響する様子がみられた.特に,横ずれ変位が主体の地震であるため,水平成分への影響がある.
4.まとめと今後の予定
これまでの研究で検討してきた熊本地震の断層モデルについて,阿蘇地域での現地調査の結果からカルデラ内に大きく延長しないものとし,北端を仮定した.新たに実施した重力探査および微動測定の結果についても今後は断層モデルに反映していく予定である. 波数積分法により強震動を計算する際のすべり速度パラメターについて,その影響を評価するためのパラメタースタディを行った.すべり速度パラメターの影響は少ないものの,アスペリティの位置については振幅および波形形状に影響する様子が見られるため,熊本地震の強震動の再現のため,更にパターンを増やした検討を行うこととする.
すべり速度パラメター,アスペリティの位置に加えて,計算に用いる速度構造モデルの影響は大きいと考えられることから,今後は防災科学技術研究所(NIED)と当グループの共同研究の枠組みにおいて,NIEDから提供されるより詳細で最新のモデルである深部・浅部統合地盤モデルを用いることとする.また,この速度構造モデルを用いた有限差分法による3次元計算と建物被害率分布を比較することで,強震動と被害の関係についても検討する予定である.
(謝辞)本研究は応用地質(株)の寄付金および協力により実施している.また今後,(国研)防災科学技術研究所との共同研究によりデータ提供を受けて実施する.