3:15 PM - 3:30 PM
[S14-01] Comments on the Brownian Passage Time distribution model for recurrent paleoearthquakes
はじめに
発生年が不確定となる古地震の時系列は認識論的不確定なデータと捉えることができる.このようなデータに基づく地震発生確率の算出方法はまだ確立されていない.我が国における先行研究のいくつかは,地震間隔の不規則性を過小評価している.認識論的不確定な時系列を更新過程の解析に用いる手法として,不確定な時系列から想定される地震間隔を全て用いたモデルパラメータの推定(尤度幾何平均推定値)を我々は提案している.関東M8クラス地震や太平洋沖型地震の解析おいて,この推定値に基づく地震発生確率(条件付き30年確率)の推移は,各地震発生期間から無作為抽出された多数の時系列による発生確率の平均値・中央値の推移とよく一致する.ここでは,この一致の根拠について考える.
地震間隔累積分布関数
無作為抽出時系列k(k=1,2,...,n)の地震間隔に階段関数の累積分布関数Sk(t)をあてはめる.同様に,全地震間隔に関する累積分布関数を階段関数SG(t)とする.両者には式(1) (表1) の関係がある.これらの累積分布関数に対する相補累積分布関数(信頼度関数)をRG(t), RK(t)で表すと,式(2)となる.経過期間tまで地震が発生していないという条件の下で,t以後の期間dt以内に地震が発生する確率(条件付き確率)PG(t,dt)は,信頼度関数RG(t)を用いて式(3)で表される.無作為抽出時系列の確率Pk(t,dt)も同様に表される.式(3)はPk(t,dt)を用いて式(4)となる.式(4)は信頼度関数を重みとしたPk(t,dt)の加重平均となっている.実際の解析では,Brownian Passage Time分布を適合させているので式(4)は厳密には成立しないが,近似的に成立することが考えられる.また,式(4)の重みがほぼ同じと見なせる場合,式(4)から近似式(5)が得られ,上に述べた一致の根拠を得る.
実例
実例として,有馬高槻断層帯と関谷断層について,式(2)の成立と式(5)の関係をみる.図1において,条件付き確率の推移と地震間隔累積分布関数を比較する.図1aは有馬高槻断層帯について,累積分布関数,式(1)左辺の尤度幾何平均推定値(赤線)と右辺の無作為抽出時系列平均(青線)を比較している(下図).ここでn=10000である.2つの分布には大きな乖離はない.上図では,条件付き確率の推移(期間120年確率),式(5)左辺の尤度幾何平均に基づく確率(赤線)と右辺の無作為抽出時系列平均確率(青線)を比較している.さらに,不規則性を表すパラメータ(ばらつき)に拠って無作為抽出時系列を1000個毎の10組に分け,各組の平均確率の推移を黒線で表す.経過年数2000~4000年で2~3%の乖離が認められるが,黒線の広がりに比べると小さい.
図1bに関谷断層の結果を示す.累積分布関数の比較(下図)では,尤度幾何平均推定値と無作為抽出時系列の平均で明確な違いが認められる.条件付き確率の推移比較(上図)では,両者の差は顕著である.10組に分けた各組の平均確率の推移は,経過年数4000年付近で15~90%に渡る.確率の平均値計算では信頼度関数値が10-4以下の時系列を除外しているため,平均確率の推移(黒線)が途中で消える場合が生じている.
尤度幾何平均推定値に基づく確率の推移は,原理的には無作為抽出時系列による確率の平均値の近似といえるが,事例によって誤差の程度は異なっている.
発生年が不確定となる古地震の時系列は認識論的不確定なデータと捉えることができる.このようなデータに基づく地震発生確率の算出方法はまだ確立されていない.我が国における先行研究のいくつかは,地震間隔の不規則性を過小評価している.認識論的不確定な時系列を更新過程の解析に用いる手法として,不確定な時系列から想定される地震間隔を全て用いたモデルパラメータの推定(尤度幾何平均推定値)を我々は提案している.関東M8クラス地震や太平洋沖型地震の解析おいて,この推定値に基づく地震発生確率(条件付き30年確率)の推移は,各地震発生期間から無作為抽出された多数の時系列による発生確率の平均値・中央値の推移とよく一致する.ここでは,この一致の根拠について考える.
地震間隔累積分布関数
無作為抽出時系列k(k=1,2,...,n)の地震間隔に階段関数の累積分布関数Sk(t)をあてはめる.同様に,全地震間隔に関する累積分布関数を階段関数SG(t)とする.両者には式(1) (表1) の関係がある.これらの累積分布関数に対する相補累積分布関数(信頼度関数)をRG(t), RK(t)で表すと,式(2)となる.経過期間tまで地震が発生していないという条件の下で,t以後の期間dt以内に地震が発生する確率(条件付き確率)PG(t,dt)は,信頼度関数RG(t)を用いて式(3)で表される.無作為抽出時系列の確率Pk(t,dt)も同様に表される.式(3)はPk(t,dt)を用いて式(4)となる.式(4)は信頼度関数を重みとしたPk(t,dt)の加重平均となっている.実際の解析では,Brownian Passage Time分布を適合させているので式(4)は厳密には成立しないが,近似的に成立することが考えられる.また,式(4)の重みがほぼ同じと見なせる場合,式(4)から近似式(5)が得られ,上に述べた一致の根拠を得る.
実例
実例として,有馬高槻断層帯と関谷断層について,式(2)の成立と式(5)の関係をみる.図1において,条件付き確率の推移と地震間隔累積分布関数を比較する.図1aは有馬高槻断層帯について,累積分布関数,式(1)左辺の尤度幾何平均推定値(赤線)と右辺の無作為抽出時系列平均(青線)を比較している(下図).ここでn=10000である.2つの分布には大きな乖離はない.上図では,条件付き確率の推移(期間120年確率),式(5)左辺の尤度幾何平均に基づく確率(赤線)と右辺の無作為抽出時系列平均確率(青線)を比較している.さらに,不規則性を表すパラメータ(ばらつき)に拠って無作為抽出時系列を1000個毎の10組に分け,各組の平均確率の推移を黒線で表す.経過年数2000~4000年で2~3%の乖離が認められるが,黒線の広がりに比べると小さい.
図1bに関谷断層の結果を示す.累積分布関数の比較(下図)では,尤度幾何平均推定値と無作為抽出時系列の平均で明確な違いが認められる.条件付き確率の推移比較(上図)では,両者の差は顕著である.10組に分けた各組の平均確率の推移は,経過年数4000年付近で15~90%に渡る.確率の平均値計算では信頼度関数値が10-4以下の時系列を除外しているため,平均確率の推移(黒線)が途中で消える場合が生じている.
尤度幾何平均推定値に基づく確率の推移は,原理的には無作為抽出時系列による確率の平均値の近似といえるが,事例によって誤差の程度は異なっている.