[S14P-03] A Study of Atmospheric Pressure Distribution Affecting Earthquake Occurrence in the Japan Islands
【背景】 地震学研究では黎明期から地震と気圧現象の関連性についてのテーマが取り上げられてきたが、どちらも偶然性の強い現象であり、個別の事象を対象とした検討結果では、統計的な有意性が得られないという厚い壁に阻まれてきた。 【目的】 日本列島は大陸プレートに海洋プレートが沈み込む境界に位置しているため、地球規模の大気循環に伴う多彩な大気圧現象とプレート境界の沈み込み運動に伴う頻繁な地震現象が発生する位置にある。これらの間の相互作用を明確にするために、本研究では日本列島上の気圧現象として、全国の時別海面気圧測定値の標準偏差を指数として、また、地震現象として年間十数万件に及ぶ気象庁震源リストから1時間毎に発生する地震件数を算出し、指数化した。これらの指数を基に気圧の状況と地震の発生状況の比較を行い気圧現象と地震現象の相関を探ることが本研究の目的である。 【方法】 年間の地震発生件数は気象庁HP震源リストより、1時間当たりの地震発生件数を算出して時別地震回数として、2000~2021年(閏日を除く)の平均値を指数とした。ただし2000年以降の年間地震発生件数は10万件超程度であるが、2011年(東北地方太平洋沖地震発生)では約31万件、2016年(熊本地震発生)では約31.3万件の地震回数が記録されていて平均値に対する影響が大きいため、これらの年を除いて19年間の平均を算出した。 また、気圧の標準偏差は気象庁HPの2000~2021年全国151地点の時別海面気圧より時別標準偏差平均値を算出し指数とした。 日々の気圧変動に伴う地震発生回数への影響を見るため、2015年1~6月の月毎の気圧標準偏差と地震発生動向の比較を行った。2015年は大きな地震が少なく余震の影響が少ないためである。 【結果】 2015年1~6月の時別地震回数の24点移動平均、全国151地点の時別海面気圧の標準偏差から、地震回数と気圧の標準偏差には逆相関の傾向が見られた(図1、図2)。 また、長期の平均値である2000~2021年(2011、2016年を除く19年間)の時別地震回数平均値と22年間の全国151地点の時別海面気圧の標準偏差平均値を比較すると、長期間の平均値においても逆相関の傾向が見られた(図3,図4)。 すなわち、日本列島上において気圧の標準偏差が大きくなり等圧線が混み合う状況では地震回数が減少し、逆にそれに対して気圧分布がフラットになると地震回数が増える傾向になった。 日毎の数時間単位の比較でも年間の季節変動の比較でも、この傾向は同様に観察された。 【考察】 時別地震回数の変動は気圧変動の影響によるとする仮説を考える。すなわち、日本列島上の大きな気圧傾度は、日本列島付近の地震発生を抑制し、地震発生回数を減少させる。また、気圧傾度がフラットになると抑制効果がなくなり地震発生回数が増加するという仮説である。これを基に有感地震発生時の気圧分布動向について考察してみた。 有感地震に対する気圧の影響を検討するにあたり、時別海面気圧データは日本列島の陸域のデータに限定され、沖縄諸島付近および北海道付近の有感地震については周辺気圧データが不十分である。このため、有感地震については九州~本州付近に限定して検討した。 気象庁HP地震リストで2000~2021年のM7以上の42回の地震中、九州から本州付近の16地震について地震発生時の気圧分布について調べたところ、これらの地震発生に伴って共通する下記の気圧現象が見られた。 ・低気圧通過に伴い大きな気圧傾度の抑制が緩むタイミングで有感地震が発生する傾向がある。 (たとえば台風や南岸低気圧の通過後に有感地震が発生するケースが多い。) ・有感地震発生の3~4日前から直前の期間のどこかで、一時的に日本列島付近の東経方向の相対気圧分布が直線状分布となる。同時に北緯方向に同緯度付近で大きな2つの気圧分布塊が見られた。 (震源域を含む日本列島付近の等圧線が一時的に南北方向に整列し、東西方向の大きな気圧分布塊間でモーメント力が働いている可能性がある。) ・有感地震発生時、日本列島付近の天気図上に、震源域を挟んで気圧傾度を生む高気圧と低気圧が存在する。 【結論】 地震研究の黎明期から、気圧現象は地震発生に影響する可能性がある因子として考えられてきた。今回の検討により微小地震を含む地震現象は、指数として捉えた場合、気圧現象との相関が推定され、仮説として設定した。この仮説から気圧傾度による地震発生の抑制効果と開放の機構が考えられ、抑制効果が減少する開放の過程で多くの有感地震が発生している可能性が考えられる。 また、実際の気圧と地震発生の経過を検討したところ、地震発生直前に等圧線が整列する現象が観察され、気圧によるモーメント力が働いている可能性が考えられる。 M7以上の地震はデータ数が限られているため、さらにM6以上の地震についても傾向を分析中であり、併せて報告予定である。 謝辞: 気象庁HPより震源リスト、時別海面気圧などのデータ、天気図などのデータを基に検討しました。記して感謝いたします。