9:45 AM - 10:00 AM
[S15-02] Real Time Forecast of Long Period Ground Motions Using Strong Motion Records: A Numerical Experiment
1. はじめに
大地震において遠地の平野で発生する長周期地震動の即時予測の実現に向けて、震源域近傍―予測地点間の伝達関数に基づく予測の可能性を数値実験により検討した。本研究ではこれまで、微動の連続観測データを用いた地震波干渉法により伝達関数を求めたが、今回の発表では、自然地震から得られる伝達関数の活用を検討した。
これまでHoshiba (2013) や倉橋ほか(2013)は、伝達関数を用いて計算した観測点―評価地点の地震動を、Kirchhoff-Fresnel(以下K-F)積分により多数の観測点分を足し合わせることで予測が可能であることを説明している。しかし、これらの研究の事例では地震波の平面波近似による1観測点での入力波形からの予測結果が示され、実際にK-F積分は用いられていない。本研究では、平面波近似を用いずに、震源から予測地点に至る様々な波線経路のうち第1Fresnel Zone内に位置する多観測点の波形データをK-F積分した長周期地震動予測の効果を検証した。
2. データと手法
本研究では、東北地方の浅い大地震により発生する関東平野の長周期地震動(周期4〜10秒)を予測の対象とした。まず、実データに適用する前に、3次元地下構造モデル(JIVSM;Koketsu et al., 2012)と3次元差分法(OpenSWPC;Maeda et al., 2017)を用いた数値シミュレーション波形を用いて予測手法の妥当性を検討した。神奈川県横浜市のHi-net YFTH観測点を予測地点とし、そこから150 km程度離れた茨城県・栃木県に位置する5つのHi-net観測点を地震動の入力地点とした(Figure 1)。
5つの入力地点と予測地点のペアについて、2点を結ぶ直線の延長上で発生した中規模地震(M5-6程度)の地震波形を用いて2点間の地震波伝播の伝達関数を算出した。伝達関数は、それぞれの波形から表面波の部分を200秒間抜き出し、予測地点の波形から入力地点の波形をデコンボリューションして求めた。
次に、得られた伝達関数に大地震における入力地点の波形をコンボリューションし、これをK-F積分により足し合せて予測地点の地震波形を求めた。ここでK-F積分による予測は、予測地点を取り囲む閉曲面上の入力地点に到達した波に、入力地点から予測地点の伝達関数をコンボリューションし、閉曲面に対する入射角・出射角に応じて重み付けしながら表面積分することで行われる。長周期地震動を生成する表面波は地表付近でエネルギーが大きいため、表面積分は地表に沿ってのみ(すなわち線積分により)実施した。
3. 結果
数値シミュレーションから求めた2008年岩手・宮城内陸地震(M7.2)の地震波形データを用いて、伝達関数とK-F積分による長周期地震動の予測を行った。シミュレーションは、防災科学技術研究所F-netによる震源のメカニズム解とライズタイム4.0秒のTriangle型の震源時間関数を用いて行った。
Figure 2に、遠地(YFTH観測点)での長周期地震動の予測結果(黒実線)と、期待される波形(赤実線)を比較する。予測結果は、表面波の振幅において良い一致を示し、継続時間は若干短いものの、震動特性をよく説明することが確認できた。Figure 3には、擬似速度応答スペクトル(減衰定数5%)の比較を示す。予測結果のピークは 3.5 - 4 s 程度であり、期待されるスペクトルよりも短周期側に寄った結果となった。これは、シミュレーションで用いた中規模地震(ライズタイム 1 - 1.5 s)の地震波形から求めた伝達関数が長周期成分の卓越した大地震の伝達関数を適切に評価できていない可能性もあり、検討が必要である。
4. 今後の課題
これまで本研究で用いた微動の地震波干渉法による伝達関数の推定に対して、自然地震による伝達関数の推定には、連続記録ではなくイベントトリガー記録の強震波形を利用する必要がある。また、中小地震の強震観測記録の長周期側のS/N比が低い可能性があり、今後はこれらの課題と微動利用との長所・短所を比較した上で、二つを組み合わせた新たな手法の可能性を検討したい。また、数値シミュレーション実験で確認された事項に基づいて、実際の観測波形を用いた長周期地震動予測に進む予定である。実際の即時予測では、震源の位置が未知である状態での入力観測点の選定やK-F積分の実施法などについての検討が課題として残される。
大地震において遠地の平野で発生する長周期地震動の即時予測の実現に向けて、震源域近傍―予測地点間の伝達関数に基づく予測の可能性を数値実験により検討した。本研究ではこれまで、微動の連続観測データを用いた地震波干渉法により伝達関数を求めたが、今回の発表では、自然地震から得られる伝達関数の活用を検討した。
これまでHoshiba (2013) や倉橋ほか(2013)は、伝達関数を用いて計算した観測点―評価地点の地震動を、Kirchhoff-Fresnel(以下K-F)積分により多数の観測点分を足し合わせることで予測が可能であることを説明している。しかし、これらの研究の事例では地震波の平面波近似による1観測点での入力波形からの予測結果が示され、実際にK-F積分は用いられていない。本研究では、平面波近似を用いずに、震源から予測地点に至る様々な波線経路のうち第1Fresnel Zone内に位置する多観測点の波形データをK-F積分した長周期地震動予測の効果を検証した。
2. データと手法
本研究では、東北地方の浅い大地震により発生する関東平野の長周期地震動(周期4〜10秒)を予測の対象とした。まず、実データに適用する前に、3次元地下構造モデル(JIVSM;Koketsu et al., 2012)と3次元差分法(OpenSWPC;Maeda et al., 2017)を用いた数値シミュレーション波形を用いて予測手法の妥当性を検討した。神奈川県横浜市のHi-net YFTH観測点を予測地点とし、そこから150 km程度離れた茨城県・栃木県に位置する5つのHi-net観測点を地震動の入力地点とした(Figure 1)。
5つの入力地点と予測地点のペアについて、2点を結ぶ直線の延長上で発生した中規模地震(M5-6程度)の地震波形を用いて2点間の地震波伝播の伝達関数を算出した。伝達関数は、それぞれの波形から表面波の部分を200秒間抜き出し、予測地点の波形から入力地点の波形をデコンボリューションして求めた。
次に、得られた伝達関数に大地震における入力地点の波形をコンボリューションし、これをK-F積分により足し合せて予測地点の地震波形を求めた。ここでK-F積分による予測は、予測地点を取り囲む閉曲面上の入力地点に到達した波に、入力地点から予測地点の伝達関数をコンボリューションし、閉曲面に対する入射角・出射角に応じて重み付けしながら表面積分することで行われる。長周期地震動を生成する表面波は地表付近でエネルギーが大きいため、表面積分は地表に沿ってのみ(すなわち線積分により)実施した。
3. 結果
数値シミュレーションから求めた2008年岩手・宮城内陸地震(M7.2)の地震波形データを用いて、伝達関数とK-F積分による長周期地震動の予測を行った。シミュレーションは、防災科学技術研究所F-netによる震源のメカニズム解とライズタイム4.0秒のTriangle型の震源時間関数を用いて行った。
Figure 2に、遠地(YFTH観測点)での長周期地震動の予測結果(黒実線)と、期待される波形(赤実線)を比較する。予測結果は、表面波の振幅において良い一致を示し、継続時間は若干短いものの、震動特性をよく説明することが確認できた。Figure 3には、擬似速度応答スペクトル(減衰定数5%)の比較を示す。予測結果のピークは 3.5 - 4 s 程度であり、期待されるスペクトルよりも短周期側に寄った結果となった。これは、シミュレーションで用いた中規模地震(ライズタイム 1 - 1.5 s)の地震波形から求めた伝達関数が長周期成分の卓越した大地震の伝達関数を適切に評価できていない可能性もあり、検討が必要である。
4. 今後の課題
これまで本研究で用いた微動の地震波干渉法による伝達関数の推定に対して、自然地震による伝達関数の推定には、連続記録ではなくイベントトリガー記録の強震波形を利用する必要がある。また、中小地震の強震観測記録の長周期側のS/N比が低い可能性があり、今後はこれらの課題と微動利用との長所・短所を比較した上で、二つを組み合わせた新たな手法の可能性を検討したい。また、数値シミュレーション実験で確認された事項に基づいて、実際の観測波形を用いた長周期地震動予測に進む予定である。実際の即時予測では、震源の位置が未知である状態での入力観測点の選定やK-F積分の実施法などについての検討が課題として残される。