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[S15-10] すべり量分布のトリミング前とトリミング後の計算波形の比較による断層破壊領域の抽出
1. はじめに 断層面上のすべり量や震源断層の面積と地震モーメントの関係性を示すスケーリング則は,強震動の予測のために非常に重要な関係式である.このスケーリング則はいくつかの関係式が提案され,Miyakoshi et al.(2018, 2020)や長嶋他(2021)などにより検証がなされている.長嶋他(2021)による海外内陸地殻内地震のインバージョン結果をデータベースとした検討結果では,震源断層の面積と地震モーメントのスケーリング則のデータへの適合度は,どのスケーリング則も尤もらしさの度合いを比較評価できるほどの有意な差はないことが示されている. 震源断層の面積と地震モーメントのスケーリング則に用いられる震源断層の面積は,Somerville et al.(1999)によるトリミング規範、すなわち、波形インバージョン等で得られた不均質震源モデル全体の平均すべり量から,0.3倍未満となる領域を削除し,最終的に残った領域を震源断層領域とするものである. Somerville et al.(1999) のトリミング規範は、断層面上のすべり量のみで実施できるため簡易であるが、波形インバージョンにより推定される不均質震源モデル(すべり量分布)では、グリーン関数の精度不足によりすべり量分布の端に主要な強震動に関係にない見かけ上のすべりが表れる可能性が否めない。 そこで本研究では、見かけ上のすべりの部分をトリミングすべく,すべり量分布から計算される波形に着目し,トリミング前の計算波形とトリミング後の計算波形を比較し,主要な波形やパルス波形に影響のない領域をトリミングする手法を試みる. 2.本研究で試みるトリミング手法 本研究のトリミング手法を以下に示す. 1)オリジナルの波形インバージョンのすべり量分布による計算波形と,トリミング後のすべり量分布による計算波形の残差を計算する. 2)ある閾値αよりも残差が小さい場合は,トリミングされた領域は計算波形に対して影響度が小さいため,“トリミング可能な領域“と判断する.一方で,ある閾値αよりも残差が大きい場合は,トリミングされた領域は主要な波群やパルスへの影響度が大きい,すなわち,波形再現に必要な断層すべり運動の領域と考えられるため“トリミング不可な領域”と判断する.対象観測点の残差平均が閾値αよりも小さい場合,その行または列をトリミングする. 本研究では,予備解析等の検討により試行錯誤的にα=0.1とした.トリミングした震源断層の地震モーメントとF-netの地震モーメントは概ね一致している。 3)最終的にトリミングができない領域を主要な波形を生成する震源断層領域とする. 図1に2019年山形県沖の地震の震源インバージョンを例に、トリミング前の計算波形とトリミング後の計算波形の比較を示す。図1(a)から(d)は,トリミング前(オリジナルのすべり量分布)および左端から1列ずつトリミングしたケースのYMT004とNIG006観測点における計算波形を示す.左端から1列ずつトリミングすると、YMT004の計算波形には大きな変化はみられないが、NIG006ではトリミングする列が増えるごとに計算波形が変化することがわかる。これは,その領域がNIG006の計算波形に対して影響が大きく,すなわち“トリミングすべきでない領域”であることを示している。この作業を波形インバージョンで用いられた観測点で実施し、各観測点のトリミング前後の残差の平均がα=0.1よりも小さい場合,波形への影響度の小さい領域としてトリミングする。 3.解析結果 図2にトリミング結果の一例として,2019年山形県沖の地震の結果を示す.図2(a)は,各観測点におけるオリジナルのすべり量分布による計算波形と,すべり量の上端,右端,下端,左端のそれぞれの行または列をトリミングした領域による計算波形の残差を示しており,最下行がその残差平均である.残差平均が0.1より小さい,上端1行,下端1行,左端1列がトリミングされた.図2(b)に示すように,すべり量分布の端にみられたすべりの比較的大きな領域もトリミングされていることがわかる. 1997年から2019年に日本で発生したMw5.7から7.0の10地震に対して実施した結果,トリミング後の震源断層領域は,Somerville et al.(1999)のスケーリング則と大きくはずれないことを確認した. なお,用いる観測点の震央距離による影響や,観測波形と比較などは今後の検討課題である.