日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

D会場

一般セッション » S15. 強震動・地震災害

[S15] PM-1

2023年11月1日(水) 13:30 〜 15:00 D会場 (F204)

座長:小穴 温子(清水建設)、長坂 陽介(港湾空港技術研究所)

14:45 〜 15:00

[S15-16] 特性化震源モデルに基づく2022年台東地震(Mw6.9)の断層浅部すべりに関する検討

*小穴 温子1、宮腰 研2、吉田 昌平2、佐藤 俊明2 (1. 清水建設株式会社、2. 株式会社大崎総合研究所)

1. はじめに
2022年9月、台湾南東部においてMw6.9(USGS[2022])の地震(以下、2022年台東地震)が発生し、地表に断層が出現するとともに、その断層沿い約2 km程度以内の観測点において、速度波形に長周期パルス(周期約4秒)が、変位波形に永久変位が記録された。
地震調査研究推進本部[2022]は、2016年熊本地震の観測記録に基づき、既往の強震動予測手法の検証を行い、中間報告としてその結果を公開している。その中では、震源断層近傍における長周期パルスや永久変位を再現することを目的として、従来の強震動予測レシピでは考慮されていなかった地震発生層よりも浅い領域に震源断層を拡張したモデルを用いた検討事例が示されるとともに、モデルの改良・高度化のためにはさらなる検討が必要と述べられている。
本稿では、上記の検討の一例と位置づけ、2022年台東地震を対象に、地震発生層以浅を含む特性化震源モデルを用いて震源断層近傍における地震動を計算し、観測記録の再現性への影響について評価する。

2. 特性化震源モデル
台東地域には、南北に並走する西傾斜の中央山脈断層と東傾斜の縦谷断層の二つの主要な活断層が存在する。既往の震源インバージョン結果では、主に中央山脈断層を考慮したもの(USGS[2022], Yagi et al.[2023])と、中央山脈断層と縦谷断層の両方を考慮したもの(Lee et al.[2023])が提案されている。後者の場合でも主要なすべりは中央山脈断層に集中していることを踏まえ、ここではUSGS[2022]の震源インバージョン結果を参考にしつつ、断層モデルの上端が地表地震断層(Central Geological Survey[2022])に概ね沿うように、かつUSGS[2022]の巨視的断層面の範囲を極力尊重するように、2セグメントから成る特性化震源モデルを作成した。
地震発生層以浅の浅部断層すべりが震源断層近傍の地震動に与える影響度合いを評価するため、地震本部[2022]を参考に、3通りの特性化震源モデルを設定した。一つ目はSMGA(Strong Motion Generation Area、強震動生成域)、背景領域、およびLMGA(Long-period Motion Generation Area、長周期地震動生成域)(Irikura et al.[2019])から成るモデル1(深部+浅部(LMGAあり))、二つ目はモデル1のLMGAを背景領域に置換したモデル2(深部+浅部(背景領域))、そして三つ目は地震発生層以浅の浅部断層を取り除いたモデル3(深部のみ)である。モデル1を図1に示す。特性化震源モデルの各領域のすべり量とすべり角は、USGS[2022]の震源インバージョン結果のすべり分布に基づき平均的な値とした。深部断層のSMGAと背景領域のすべり速度時間関数は中村・宮武[2000]の近似式とし、与条件として必要となる応力降下量は強震動予測レシピ(地震本部[2020])に従い仮定した。浅部断層のLMGAと背景領域のすべり速度時間関数はSmoothed ramp関数とし、そのライズタイムは震源近傍記録におけるベル型の速度パルス幅から設定した。破壊開始点はマルチハイポセンターとし、破壊伝播様式はそれぞれのセグメントで同心円状を仮定した。破壊伝播速度は2.1 km/sで均質とした。

3. 地震動評価結果
波数積分法(Hisada and Bielak[2003])を用いて理論地震動を計算した。地下構造モデルには、Huang et al.[2014]の北緯23.3度、東経121.32度における速度構造モデルを用いた。地震動評価結果には0.5 Hzのローパスフィルタをかけた。地表地震断層から約200 mに位置するEYUL(玉里)における観測記録と計算結果の比較を図2に示す。モデル2とモデル3は全体に過小評価であり、観測記録に見られる特徴的な速度パルスや永久変位を再現できていない。一方、モデル1は、周期特性などの再現精度には課題が残るものの、地震動レベルは観測に近づいており、浅部断層のLMGAの寄与が大きいことが窺える。
以上より、2022年台東地震においても、震源断層近傍の観測記録を再現するためには、地震発生層以浅に震源断層を拡張する必要があること、浅部断層のすべり量は背景領域と同等では必ずしも十分ではない場合があることが確認された。

謝辞:台湾中央気象局のTaiwan Geophysical Database Management System GDMS-2020で公開されている強震観測網CWBSN、TSMIPの加速度時刻歴データを利用させて頂きました。工学院大学久田嘉章教授が研究室WEBサイトで公開されている波数積分法のプログラムを使用させて頂きました。